社外取締役選任プロセスに客観性を ~「スキル」「コンピテンシー」による確実な人選~

社外役員

2019年07月12日(金)掲載

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2015年に施行されたコーポレートガバナンス・コードは、上場企業の経営に様々なインパクトをもたらしました。なかでも、「執行」と「監督」を明確に分離すること、そして一定数以上の社外取締役を選任することは、ステークホルダーへの説明責任を果たすうえで重要なポイントとなっています。

今回は弊社と上場企業を対象としたコーポレートガバナンス強化のための社外役員選任支援サービスの提供についての協定をしております株式会社日本総合研究所 理事の山田英司氏に社外取締役選任プロセスの大事なポイントをご紹介いただきます。

※株式会社日本総合研究所 ニュースレターより引用
  (https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=34084)
※執筆者の個人的見解であり、株式会社日本総合研究所・パーソルキャリア株式会社の公式見解を示すものではありません

社外取締役の確保に注力する上場企業

東証によると2名以上の独立社外取締役を選任している企業は、既に全体の9割以上を占めるようになった。また、社外取締役に求められる役割も広がりを見せており、多くの上場企業において指名・報酬委員会や投資委員会で活用されるほか、近年増加している監査等委員会設置会社における監査等委員としての起用も増えている。

さらに、2018年のコーポレートガバナンス・コードの改訂では、取締役会における独立社外取締役の一層の増加を求めており、上場企業はますます社外取締役の確保に力を入れるようになってきた。

「スキル・マトリックス」で取締役会メンバーのスキルを担保

一方で、社外取締役の選任プロセスについては、トップマネジメントによる「人づて」が現在でも最も有力であるが、このような旧態依然の方法には、説明責任や独立性の観点から問題がある。

また、候補者も弁護士、公認会計士および学者や元官僚経験者などスキルや経験に偏りが存在するため、近年重要視される「攻め」のガバナンスの役割を担うに足りる背景を有した人材であるかという観点からも疑問が持たれる。

これらの課題を解決する手段の一つとして、「スキル・マトリックス」が注目されるようになった。簡単にいうと、取締役に必要とされるスキル(例えば、財務会計や法務、業界および経営に関する一般的な知識など)や経験・ノウハウ(経営者としての経験、海外経験など)を列挙し、取締役会の構成メンバーが実際にこれらのスキルや経験・ノウハウをどれだけ有しているかを、個人ごとに「星取表」で示すものである。このスキル・マトリックス全体を見れば、取締役会全体として所持するスキルや経験・ノウハウに欠落や不足が存在するかどうかの確認が容易となることから、それらのポートフォリオを見直しながら取締役会の「攻め」と「守り」のバランスを取ることも容易となる。そのため近年では、上場企業での活用や開示される事例が増加しつつある。

このスキル・マトリックスを作成、運用する過程で、「社外取締役をどのように活用するのか」という視点から、取締役会に必要な要件(スキルや経験・ノウハウ)を加えることは非常に有用である。社外取締役の質的な要件が明確になれば、エグゼクティブ・サーチの効果的な活用が可能となるため、人づてだけに頼ることのない、選任手段の多様化が実現できるからである。

「スキル・マトリックス」+「コンピテンシー」で実行力も担保

一方で、スキル・マトリックスにも限界がある。なぜなら、この手法はあくまでも取締役会全体の運営に必要とされるスキル・素養や、知識・ノウハウが網羅されているかを確認するためのものであり、構成員である取締役が保有するスキルやノウハウが実際の取締役会で発揮し得ることを担保するものではないからである。

例えば、取締役会の運営において社外取締役が有効に機能するためには、単純にスキルや経験・ノウハウだけではなく、積極的かつ躊躇なく助言を行う胆力が求められる。また、今後の増加が想定される、社外取締役が取締役会や各種委員会の議長に就任するケースでは、社外取締役に一定のリーダーシップが求められる。

こうした人間の行動特性は「コンピテンシー」と呼ばれ、スキル・マトリックスでは測定することができない。従来、社外取締役のコンピテンシーはトップの「眼力」という曖昧な基準で判断されてきたが、近年では客観的に測定・評価する手法が開発され、活用されるようになっている。

まとめ

今後、社外取締役の選任においては、これまでの人づてと眼力頼りではなく、スキル・マトリックスにコンピテンシーの要素を加味した客観的な評価を行うプロセスが主流になると予想される。社外取締役の要件の一層の明確化と、客観的な選定プロセスの整備は、有能な社外取締役のなり手を増やすこととなり、それが最終的には企業の経営力の向上につながると筆者は考える。


ライター株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 理事

早稲田大学法学部卒業、英国国立ウェールズ大学経営大学院(MBA)修了。
上場建設企業において現業部門を経験後、連結経営管理・決算、グループ中期計画の策定を担当。
2001年より株式会社日本総合研究所にて、グループ経営、インフラ産業に関するコンサルティングに従事。

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