社外取締役のあるべき姿をどのように考えるか【前編】

社外役員

2019年10月01日(火)掲載

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コーポレート・ガバナンス・コード(CGC)が導入されて以来、上場企業各社はそれぞれの考え方で社外取締役を採用し、新しい形での取締役会運営に取り組んできました。

そして、社外取締役、特に独立社外取締役を拝命した立場の方々は、それぞれの立場で社外取締役としてどのように企業の健全な経営に貢献していくか、を考えていらっしゃると思います。

CGC以前の社外取締役・監査役は、形式的な役割であった会社も多いのではないかと思いますが、会社法上の責任やCGCの理解に基づく今後の社外役員の在り方については、会社側にとっても、社外役員の方々にとっても、まだ試行錯誤の段階と言えるのではないでしょうか。

私の社外取締役としての具体的な活動

私は、現在二社で独立社外取締役の委任を受けています。

状況の違いがありますので、それぞれの企業によって果たすべき役割のウェイトは違います。しかし、いずれの場合も、具体的な行動としては、以下の6点で共通しています。

1)社外取締役の役割の基本、あるいは進むべき方向の指針となるのが、CGCの遵守(あるいは遵守に近づけること)であることから、常にCGCの基本精神に基づいて取締役会に臨む。

2)執行を担当する取締役、執行役員とは、社外・執行それぞれの役割について、定期的に意見交換をする。特に社外の役割についての理解を共有することが重要。

3)CEOとの定期的な面談において、事業の課題、取締役会運営の上での改善点などについて話し合う。

4)CEOの了解のもと、各事業の責任者、CFO、CHO等と、適宜面談し意見交換する。この部分は、事業の実態を把握する上でかなり重要なことと思います。

5)社外取締役、監査役と定期的に意見交換を行う。

6)全社会議やその企業の顧客、取引先などが集まる大きなイベントなどに可能な限り参加する。

私は、これらの行動をスムーズに行うために、そして最終的に企業が健全に経営され、順調に成長するためにもっとも重要なことは、執行担当の皆さんとの「信頼関係」だと思っています。ここに挙げた6点についても、単なるプロセスとして行うのではなく、その一つひとつの作業のなかで執行担当の皆さんとの「信頼関係」をいかに構築するか、に力点をおいています。

ある会社の株主総会で、社外取締役の役割について質問されたことがありますが、そのときも「信頼関係」の重要性について触れさせていただきました。

社外取締役が果たすべき役割

独立社外取締役が取締役会で果たすべき役割のもっとも重要なことは、客観的な立場で意思決定の妥当性を確認するということではないでしょうか。

社外取締役は「意思決定者」ではありませんから、ある意思決定が正しいか、間違っているかを判断するわけではありません。ある意思決定をするに際して検討すべきと思われることが必要十分に検討されているかを確認し、その上で「経営判断の原則」から見て妥当な決定がされているか、を確認するのが主たる役割です。

ビジネスにおいて、取るべき方向性は常に複数ありますから、何が正しいかはやってみないとわからない場合も多いです。しかし、ある方向を執行責任者が選ぶ際に、別の可能性や、付随するリスクを網羅的に検証したか、つまりRisks and Opportunitiesがきちんと分析されたか、を見極めることが必要です。ですから、一つひとつの案件について、Risks and Opportunitiesという観点からの質問をします。この部分においては、さまざまなビジネス環境での経験が大いに役に立ちます。また、自分自身の主観ではなく、客観的、論理的な立場でのコメントが必要です。

しかし、現実的にはこの質問のプロセスに対して抵抗を持つ執行責任者も少なくないと聞きます。

確かにその事業に直接関与しているわけではない社外の人間に何がわかるのか、という疑問を持たれることは十分想定できることです。しかし、同じ業界、同じ企業に長く居る人たちは視野が狭くなっている場合もあるでしょう。Riskの点でも、Opportunityの点でも、あるいは取りうるべき他の可能性についても、社外取締役だからこそ提示できる視点があるはずです。意思決定の妥当性検証というモニタリングの役割の遂行と、気づかなかった新たな視点の提示による事業発展の可能性の提供、という二つの重要な役割が果たせることが、社外取締役の一つの理想の姿だと私は思っています。こういうケースが一つでもあれば、取締役会の信頼関係という意味でも大きく前進することは言うまでもありません。

Riskという意味では、コンプライアンスの視点が重要な要素となります。
いくつかの大企業で問題となった不適切な意思決定の多くは、執行担当者のなかでのコンプライアンスの意識が十分でなかった、あるいはわかってはいたが、社内でのけん制機能がうまく働かなかったことが原因ではないかと思います。社外取締役としては、この部分には十分な注意を払い、取締役会に上程される前の段階で十分な検証が行われるような仕組みを確立することが重要です。このような内部統制制度の構築は、主として監査役または監査等委員会の役目ですが、社外取締役も監査役等と十分な連携をとり、適切な内部統制システムが構築できるように尽力すべきです。

執行担当の皆さんとの話し合いの内容は、基本的にCGCに記載されている項目が中心となります。事業に関することは、個別の施策の是非というよりは、中長期的なビジョンであったり、ビジョンと短期的アクションの整合性であったりします。ガバナンスに関することであれば、取締役会の運営であったり、上程される資料の質の問題、CGCの遵守状況であったりするなどです。なかでも役員研修の継続的実施、研修内容の充実については、どの会社でも共通した課題のようです。

次に重要な役割としては、人事政策へのアドバイスがあげられます。多くの日本企業において、終身雇用的な人事政策とそれに伴ってできあがった企業文化からの脱皮が大きな課題となっています。

ワークライフバランスの問題や、Pay-for-jobの考え方へのシフト、diversity、外部人材登用への抵抗などが、企業の成長そして競争力強化の足かせになっているケースが見られます。企業文化、人事の面では、いかにうまく現代そして次の世代に耐えうる制度への変化を促進するためには、欧米企業の例、他の日本企業の例などを含め、社外取締役が人事制度、企業文化の在り方について、しっかり勉強をすることが必要不可欠だと思います。なかでも、事業の発展を目的として、年功にとらわれない人材の登用、職能を価値基準とした女性、外部、外国人人材の活用などを、その企業が許容できる速度を意識しながらサポートすることで、中長期的なsustainable growthに貢献するということです。もちろんこの分野はとくにCEOとの意識疎通が不可欠です。

委員会設置会社や監査等委員会設置会社では、社外取締役が委員会の主要メンバーとなります。そのような場合、さらに取締役としての役割が大きくなります。
特に、指名委員会における役員選任は、経営陣がその責任を果たしうる人材やチームでない場合には困難な状況に陥ります。ですから、まず社外取締役の仕事を受ける段階で、その会社の経営陣と大きな方向性を共有できるかどうか、がその職務を受諾する上での重要な判断の一つとなります。共有できないと感じた場合は、受諾しないことが、会社や株主に対する取締役候補者としての矜持ではないでしょうか。

社外取締役が、特定の株主に指名されるケースもあります。この場合は、経営陣との意思の疎通がしにくいことが、仕事の前提になるかもしれません。しかし、どんな場合も経営陣とのコミュニケーションの努力は続けるべきだと思います。また、特定の株主に指名されたとしても、取締役として会社、従業員、その他の株主(特に少数株主)の利益に対する責任がありますので、常にバランスの取れた判断が求められます。

社外取締役の役割としてめったには起きませんが、発生するときは突然起きるのがプレス対応です。

特に大きな問題が発生した会社、また話題性のある会社などで注意が必要なのですが、社外取締役であっても新聞記者が自宅の前で待っているということがあり得ます。不祥事があるとき、役員人事等に大きな変化があるような場合が特に要注意です。

社外取締役としての回答の基本は「取材については、広報室を通してください」なのですが、あまり素っ気ない対応をすると、そのこと自体がNegativeな報道につながる可能性がありますので、あくまでも好意的に対応することが望ましいと思います。このあたりについても、企業の広報室との連携が必須です。具体的には、社内、社外を問わず重要な発表や、それらに関連するQ&Aについては、事前に社外取締役にも連絡が来るようなルール作りが必要だと思います。

後編では、企業側が行うべき社外取締役への対応などについて筆者の経験をお伝えします。


※記事は執筆者個人の見解であり、パーソルキャリア株式会社の公式見解を示すものではありません。

ライター上田 昌孝氏

アメリカンホーム保険会社会長やセシール会長、フジ・ダイレクト・マーケティング社長、ディノス・セシール会長を歴任。現在は、公益社団法人会社役員育成機構(BDTI)理事、日本マクドナルドホールディングス株式会社社外取締役、株式会社東日本銀行社外取締役などを務める。

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