物流業界の環境変化と物流を強みにするために取り組むべき7つのこと

2020年01月31日(金)掲載

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1. 物流業界をとりまく環境変化とその影響

① 2030年、物流業界では14万人が不足する
企業の人手不足問題がクローズアップされていますが、対応する企業のスピード感と内容に差があり、今後の企業業績にも大きく影響することが予測されます。
労働市場の未来推計2030(出典:パーソル総合研究所)によると、2030年には運輸・郵便に携わる人口が21万人不足する見込みです。
企業が経営環境を予測し、他社に先んじて対応していくことが、経営にとって最重要になるのではないでしょうか。


② 残業時間の削減により、事業戦略の再構築が求められる
働き方改革による生産性向上と残業時間の削減が、企業の重要課題の一つになりました。物流業務は従来から残業時間も長い業界です。労働法が改正され、基本的には残業時間は年間360時間以下(最大延長でも720時間未満)にすることが決まりましたが、運送ドライバーは、残業時間は年間960時間(月80時間)を超えない範囲と決められ、しかも2024年3月までという猶予が設けられました。

現状の業務内容では、ドライバーの残業時間を法律の範囲内にするには課題が山積みです。もし、 労働時間の削減を 実施した場合には、ドライバーの収入が減少し、退職者が増加することが予測されますので、対応が困難な状況の物流企業が多いと推測されます。
しかし、対応できない企業は業務停止などの行政処分を受ける可能性もあり、取引先荷主に多大な迷惑をかけることになります。
 
運送会社は長距離運行および長時間労働と待機時間が長い取引先の仕事については、他の取引先に変更していくことも含めて事業戦略を再構築することが喫緊の課題になります。


③運送会社が荷主を選別する時代に変化している
多くの荷主企業の経営者は、物流費をコストダウン対象として見ています。確かに、運賃を1000万円値下げできると営業利益が1000万円増加します。売上アップによって1000万円の営業利益率5%の場合、2億円の売上増加が必要です。

運送会社は、運賃値下げ競争を激化させたことで、利益が出ない業界になっています。また労働時間が長い運送業界はドライバーの採用が困難になっており、退職者の補充も厳しい状況です。
給与アップや再委託先への支払い単価アップに取り組まざるをえません。その原資として荷主に対して数度にわたり値上げ要請をし、人材確保と労働環境の改善に務めることが急務です。

しかし、荷主によっては値上げ要請に対して消極的な姿勢でいる、または対価を充 分に払わない付帯作業を要請することもあります。
そこで、運送会社はこのような荷主に対しては、取引辞退を始めています。
つまり、荷主が運送会社から選別される時代になったのです。もちろん、取引を辞退されれば、ビジネスは成り立たなくなります。


④ 貨物自動車運送事業法の改正による荷主への影響
トラックドライバーに休憩時間も取れないような無理な運行を指示することや、積込み・荷降ろし時の長時間待機をさせることは、運送会社だけの管理責任とは言えないので、荷主責任も問われるようになりました。
企業名が公表されることもあり、運送会社は付帯運賃の請求ができるようになりました。


⑤ラストワンマイル
EC(イー・コマース)の比率が高まり、中高年者もネットで簡単に買い物ができるようになりましたが、パソコンやスマートフォンで買い物をしても手元に届けてもらうには、物流が不可欠になります。物販をする製造業、卸・小売業は、商品を顧客に届けることで売上を計上することができます。

現在多くの企業は自社で配送はせずに物流会社に配送業務を委託しています。物流会社が人手不足を解消できないと、物販を行う企業の輸配送に影響がでてきます。特に配送先が企業ではない生活者・消費者への宅配は、数社の運送会社が担っていますが、不在時の再配達問題など工数とコスト面の課題と、ラストワンマイルを誰が担うのかという問題が大きくなってきています。


⑥ 「運賃無料」を宣伝する企業
私は、EC(イー・コマース)ビジネスで見かける「運賃無料」という表現は配慮の欠ける表現だと思います。運賃は無料ではないので「運賃は当社負担」または「商品価格に含みます」などの表記が適切と考えます 。
運送業に従事する人は運賃などから給与をもらうことになりますから、無料の仕事(価値がないと言われているに等しい)と言われて、果たしてモチベーションが高まるでしょうか。
物流業で人手不足になると、運送会社に委託する企業とその企業の顧客に支障が出ます。「運賃無料」を宣伝したら、顧客は「この会社は運送会社に運賃を払っていないのかな」と思われてしまう可能性もあるしれません。


⑦まとめ 物流課題を軽視した場合の影響
従来、物流企業は多くの仕事を受注した方が利益を増加させることができました。長時間労働、低賃金、協力業者への安い単価での再委託することができたことで成り立ちました。
しかし、それが通用しなくなってきたので、長時間労働、付帯作業の請求ができない業務、安い運賃などの仕事を受注しない、または辞退して他の取引先に変更していくことになります。
これらの傾向は数年前から出ています。物流課題を経営課題として捉えていない企業は、対策が遅れるため、委託できる物流企業が少なくなり、運べなくなることで顧客が離れていき、売上が上がらない状況になると考えられます。または、高い運賃を支払うことで委託できる場合には、営業利益が減少することになります。

運送会社は自社従業員の給与アップなどの待遇改善、再委託先への委託運賃のアップ、生産性向上に向けた投資を行うことが急務になります。荷主企業は、運送会社からの運賃値上げの要請は一度ではなく数度にわたり必要となり、値上げ幅も大きくならざるを得ません。
荷主企業の組織においては、物流業務の軽視とコスト低減のためにいわゆる3PL企業などに業務を一括委託してきた企業は、自社の仕組みを理解する従業員がいなくなり、改善活動も主導できなくなってきます。

また、いつしか3PL企業の言いなりならざるを得なくなります。それに気づいた企業から自社の物流部門の強化と人材育成に注力するように方針転換しています。荷主企業は、その運賃値上げを許容できるように売上総利益の増加策に取り組む必要があるでしょう。

2.物流を強みにするために、企業が取り組むべき7つのこと

① 自社の物流部門強化
構内作業と配送を自社で行うという意味ではなく、物流の仕組みを新たに作れること、現場改善を主導できること、物流業務とコスト管理(いわゆるKPI管理)などができるような部門であることと人材育成の取り組みが必要になります。
いち早く取り組む企業は、経営環境の変化にも迅速に対応することで、次のビジネスチャンスに繋ぐことが容易になります。

② 生産性向上(倉庫作業)
人手不足対策と生産性向上に向けては、ITツールが使えるように在庫品にQRコード、JANコード、バーコードなどを貼付し、照合システム、倉庫管理システム(WMS)などの導入と併せて効率化を図ります。
また、automatic guided vehicle(AGV)などの移動をサポートする設備や自動化設備を導入することも必要になります。業の効率化と迅速さに加えて、業務精度の向上を図ることで、顧客サービスの向上と自社の強み構築を進めていきます。
その際、手段からではなく、戦略から考えることに注意しましょう。 ITシステムのトレンドに、ERP、IoT、RPAなどがありますが、それらは目的を達成するための手段であり、戦略ではありません。

③待機時間の短縮
待機時間の削減には、単に予約システムを導入するだけでは解決しません。倉庫業務の工程(工数)管理、時間管理のしくみと 適正配員と合わせて、企業にマッチした仕組みを作らねばなりません。

また、取引先が着荷主の場合の待機時間は、営業部門と連携して相手のメリットも訴求できるような提案が必要になります。待機時間問題を放置する企業は、運送会社が離れていくリスクを抱える事になるでしょう。

④輸送の効率化
ドライバーの拘束時間短縮、荷役の軽減も検討すると、トラックへの積込みはパレット、かご台車、スキッドなどを活用して短時間の積み降ろしを推進することが必要になります。その際には、初期費用、ランニングコストだけでなくパレットの保管場所の確保、返送のしくみなどのさまざまな課題に取り組まねばなりません。現在の輸配送方法も再検証し、自社の強みになり、効率化とサービス向上を目指すには、強みを持った委託先運送会社の選定も必要になります。第三者の意見も参考にしながら進めていくことが重要です。

⑤拠点の再整備
長距離輸送が厳しくなると、企業ごとに最適な在庫拠点・配送拠点の再構築が必要になります。全国配送する企業の場合、企業によってセンターを4カ所で充分な場合もあれば、10カ所必要な場合もあります。自社の強みとコストなどの条件を整理し、最適な拠点のエリアと機能を検証する必要があります。

⑥在庫拠点の最適在庫
在庫拠点が増加すると、どうしても全社の在庫は増加します。全体のリードタイムとサービスレベル、顧客の要望などを鑑みて適正在庫を算出し、サービスレベルの維持とコスト増加の回避が重要になります。
販売計画に対応する在庫数設定は、各社によって条件が違います。欠品をなくし、適正在庫を持つことで失注をなくし、滞留在庫や削減をなくすことでムダを省く仕組み作りが重要になります。
卸業において発注機能、在庫機能、配送機能が弱くなっている企業もありますから、それらの機能強化が競争優位に向けた経営課題になる企業も多いのではないかと推察します。


⑦調達~生産~在庫~受注~配送の一連の業務フロー
全体最適の業務フロー構築が、企業の強み構築と、利益の源泉になると考えます。他社に委託するものと自社化するものの区分の再検証も重要です。


まとめ
人口減少やECの普及などの外部環境の変化によって、物流業界は劇的に変化しており、課題に感じている企業は多いことでしょう。多くの企業にとって、逆風の中で物流を強みにするために、企業が取り組むべき7つの項目をまとめました。中には、自社社員だけで取り組むことが難しい項目もありますので、適宜第三者の知見を一時的に取り入れ、迅速に変化に対応していきましょう。

ライター三村 光昭氏

住宅・不動産業界の大手企業にて営業課長、経営企画室参事、グループ会社取締役を務める。物流部門の部長時代は全社生販在会議の事務局も務める。現在は中小企業診断士として活動中。経営戦略、営業戦略、物流改善などの診断・助言を行いながら、経営管理面、仕組作り、現場視点を重視した支援を行う。