社外取締役が語る、機能する社外取締役とは   

法務・ガバナンス

2019年10月11日(金)掲載

私は1975年に株式会社西武百貨店に入社し、社長を退任するまでの42年間同じ会社を勤め上げました。今時何の自慢にもならない話です。ただ、激動する経営の中で他資本でのガバナンスの経験をし、近年はそごう・西武としてセブン&アイホールディング傘下におりました。その際に、起きたトップ交代の場での体験や、その後の社外取締役として複数社で活動した経験を踏まえて少し考え方を述べさせていただきます。

社外取締役の要件

2015年のコーポレート・ガバナンスコードの策定・施行以来、複数の社外取締役を持つ企業は増えました。しかし、関連企業からの登用であったりして、2018年のコーポレート・ガバナンスコードの改定に符合しない企業が多々あるのが実態のようです。

既に周知のことであうとは思いますが、ここで会社法第2条15号、第16号による社外取締役の形式要件を確認させていただきます。

第一に、現在要件として以下の4点があります。

① 当該株式会社又は、その子会社の業務執行取締役ではないこと。
② 当該株式会社の親会社等(自然人であるものに限る。)又は親会社等の取締役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人ではないこと。
③ 当該株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社およびその子会社を除く。いわゆる兄弟会社)の業務執行取締役ではないこと。
④ 当該株式会社の取締役若しくは執行役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者又は2親等以内の親族ではないこと。

第二に、過去要件として以下の3点があります。

① その就任の前10年間当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役であったことがないこと。
② その就任の前10年内のいずれかの時において、当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与又は監査役であったことがある者(業務執行取締役であったことがあるものを除く。)にあっては、当該取締役、会計参与又は監査役への就任の前10年間当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役であったことがないこと。

(社外取締役及び社外監査役の要件等が改正されました(平成27年5月1日から)。法務省http://houmukyoku.moj.go.jp/kyoto/page000077.pdf)

ここまでは会社法上の「ポジションとしての社外取締役」要件ですが、ガバナンス強化という意味を持たせ、独立性基準を付与した「独立社外取締役」となると更に以下の点の遵守も必要です。
(独立役員の確保に係る実務上の留意事項 株式会社東京証券取引所https://www.jpx.co.jp/equities/listing/ind-executive/tvdivq0000008o74-att/20150513-2.pdf)

A. 上場会社を主要な取引先とする者又はその業務執行者
B.上場会社の主要な取引先又はその業務執行者
C.上場会社から役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ているコンサルタント、会計専門家又は
法律専門家(当該財産を得ている者が法人、組合等の団体である場合は、当該団体に所属する者を
いう。)
D.最近において次の(A)から(D)までのいずれかに該当していた者
(A) A、B又はCに掲げる者
(B) 上場会社の親会社の業務執行者又は業務執行者でない取締役
(C) 上場会社の親会社の監査役(社外監査役を独立役員として指定する場合に限る。)
(D) 上場会社の兄弟会社の業務執行者

E.次の(A)から(H)までのいずれかに掲げる者(重要でない者を除く。)の近親者
(A) Aから前Dまでに掲げる者
(B) 上場会社の会計参与(当該会計参与が法人である場合は、その職務を行うべき社員を含
む。以下同じ。)(社外監査役を独立役員として指定する場合に限る。)
(C) 上場会社の子会社の業務執行者
(D) 上場会社の子会社の業務執行者でない取締役又は会計参与(社外監査役を独立役員として
指定する場合に限る。)
(E) 上場会社の親会社の業務執行者又は業務執行者でない取締役
(F) 上場会社の親会社の監査役(社外監査役を独立役員として指定する場合に限る。)
(G) 上場会社の兄弟会社の業務執行者
(H) 最近において前(B)~(D)又は上場会社の業務執行者(社外監査役を独立役員として指定する場合にあっては、業務執行者でない取締役を含む。) に該当していた者

社外取締役は外部からの視点で企業経営をチェックするのが仕事なのですから、当然と言えば当然の要件と言えます。ただ、実体論としてこれらの要件が満たされないのは、経営トップの考え方が守りの姿勢にあることに起因していると考えられます。社外取締役の役割には「助言」と「監督」があるのですが、助言は適度に受け入れられるものの、監督はされたくないという考え方が根底にあるからだと思われます。

ただ企業の透明性の確保という視点からは、経営トップはどうしても乗り越えなければいけない考え方であると認識しなければならないのです。一方で、今までの会計専門家、弁護士、官僚出身者というカテゴリーでは対応が仕切れないであろうという、諦めのようなものが経営トップにあるのも事実です。豊富な経営経験を持ち対応力のある社外取締役が求められ始めているのは、納得性のある流れだと思われます。

機能する社外取締役とは

山本七平(1921~1991、東京生まれ青山学院卒)の「空気の研究」(1983)という現代にも通用する名著があります。これは、日本には、誰でもないのに誰よりも強い「空気」というものが存在していて、人々の行動を規定しているという事について書かれている本です。

政界への忖度の有無について取りざたされ、経営トップによる不祥事を指摘できない、過去から続く悪習を断てないという問題が多発する昨今では、むしろ今必読の書であるといえます。山本氏は本の中で、「臨在感的把握」という言葉をしばしば使っていますが、この言葉は目に見えない何かが、あたかも存在しているかのように感じられる事を意味しています。

これは、取締役会の現場にも常に存在してはいないでしょうか。それを壊してまで堂々と発言する事のできる生え抜きの取締役は、なかなか出てこないのが現実なのではないでしょうか。

また、そもそも取締役会の性格も再考すべきだと私は考えます。それは、決裁をその場ではしない討議議題の設定という、議論を誘発させる方法論も必要だと思うのです。なぜなら、取締役達は、その案件が事前に上程され経営トップが承認していることを皆が知っているからです。決裁の際に質問をしたり、ましてや反対意見を述べたりしたら、ある意味での業務妨害になるという重い「空気」が襲い掛かってくるからです。

この会議手法の変更をしなくても、会議の硬直化を回避できるのが社外取締役の存在なのです。まず実際の上程に関わっていないわけですから、質問という方法で論点を掘り起こすことができます。そして、自らの見識に基づいてしっかり意見を述べることが必要です。

この口火を切る勇気と流れに乗らない見識が、社外取締役に求められる最も重要な機能であると私は考えます。

さらにこの見識を支える以下の3つの要素も重要です。

1、ナビゲート力=これはファシリテイト力といっても良いのですが、空気を読まずただ壊してばかりでは良い議論を誘発できません。そして、進むべき方向性に説得力をもってガイドすることが必要なのです。

2、ネットワーク力=外部の組織、人材との繋がりから得られる豊富な知見です。会社の中は基本的に、井の中であることには変わりありません。業界を越えた情報力は、正しい経営判断を助けます。

3、ライフスタイル=これは、消費財に近い業態では特に重要な要素となります。自らの生き方みたいなものですが、しっかりした価値基準のもとでの発言は大きな説得力となるのです。

今後の社外取締役選任方法

社外取締役に求められる要件について縷々述べてまいりましたが、果たして企業活動の延長線で条件を満たすような人材に出会えるでしょうか。不可能とは言いませんが、これはかなり可能性の低い話であることだけは事実です。

まず、最初の壁は「独立性」ということです。会社の何らかのルートから見識のしっかりした人間を選ぶとしても、それは業界の壁をなかなか越えられないのが常です。広くあらゆる業界に人材を求めるのは、何らかの機関の協力が必要です。

また、他業界とは言え見識の下地なり、経験の範囲に共通項が見出せなければ話は始めにくいものです。無関係の関連性とでも言いましょうか、何らかの繋がりも経営トップを安心させる要素であります。消費財関連の会社でいえば、直接取引の無い最も川上の産業経験者であったり、中間に問屋さんなりを解していて直接接点を持つことの無いリーテラー経験者であったり条件を設定する事が可能なのです。

また、仕事の関連性は無くとも前項で述べたライフスタイルの共通性などの共感性も経営トップの心を癒すものであります。人材紹介機関に対しては、これらの条件をしっかり出して、必要な人材の紹介を受けるべきです。

第三者機関を勧めるのは、広い範囲での条件で絞り込めるメリットだけではありません。経営トップの友好関係からの紹介には不利な要素が2つあるからです。

一つ目は、友好関係の紹介者には両者に対する配慮があるということです。もちろん友好関係の会社のためが優先されるはずですが、何らかの形で紹介者を支援するという要素が含まれている場合が多いということです。従って、ベターな人材ではあるかも知れませんが、ベストである保障は限りなく少ないと言わざるを得ません。

もう一つは、公募ではなく紹介ですから、無下に断る事ができないということです。それが経営トップと近しいルートであれば、それこそ忖度せねばならなくなります。第三者機関からの紹介であれば面談し条件に合わなければ、しっかりご縁が無かったとお断りすることが可能だからです。

2018年に経済産業省が出しております「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」の中でも人材紹介会社や業界団体の利用も一つの選択肢であると以下の通り言及されています。

※「社長等の紹介、社外取締役等の紹介が一つの選択肢であるが、範囲が限定的になる懸念や、属人的な関係に左右される懸念がある。また、他社の社外取締役を務めている者から候補者を探す方法も考えられるが、特定の人材に集中する懸念がある。そこで、社外取締役候補者に関する情報を広く得るために、社外取締役の紹介を行う人材紹介会社や業界団体等を利用することも一つの選択肢として考えられる。」
(出典:経済産業省ウェブサイトhttps://www.meti.go.jp/press/2018/09/20180928008/20180928008-1.pdf

最後に、紹介会社の使い方について整理させていただきます。始めに決めるのは、人材の持つ背景です。今まで述べてきた条件を満たしやすいのは経営トップの経験者ですが、それでも所属した業界、経験領域と実績、人柄さらに具体的社外取締役の経験等の条件をはっきり提示することです。

更に、前述したナビゲート力、ネットワーク力、ライフスタイル等の絞込みには、その人の公開情報やパブリシティー記事なども参考になります。担当者から聞き出すのは、諸々のエピソードのようなものが参考になるでしょう。

そして会社の将来を決定付ける大事な選択をするのですから、面談の際には妥協することなく質問をぶつけ、しっかりその人材の持っている能力を確認することが重要です。そこで少しでも不安があれば、ご縁が無かった事をはっきり伝えれば良いのです。

いろいろお話してきましたが、社外取締役は会社の軌道を修正したり、経営を改善したりする重要な水先案内人であるという認識で、この仕事に取り組んでいただくことが肝要だと考える次第であります。


※執筆者の個人的見解であり、パーソルキャリア株式会社の公式見解を示すものではありません

執筆者松本 隆氏

百貨店大手へ入社。2013年より代表取締役に就任。また、同年株式会社大手小売の取締役に就任しコーポレートガバナンス担当。不動産系企業、小売企業にて社外取締役を歴任し現在は物流大手の社外取締役に就任。

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