3年間離職者0 プロ経営者が実践してきた施策のご紹介~人が辞めない組織つくり編~

人事

2019年09月12日(木)掲載

キーワード:

リーダー実戦力育成の専門家・プロ経営者の大垣雅則です。私は東武鉄道株式会社で約20年間、採用・教育等人事部門で仕事を行い、ここ10年間はプロ経営者として株式会社パスモの代表取締役社長を始めとして、3社の社長を務めました。

特にこの6月まで社長を務めて従業員120名の株式会社東武カードビジネスでは、私が社長になった6年前まで、毎年5~7人の従業員が離職していました。しかし数々の施策を実施した結果、この3年間若手社員の離職者0を達成することができました。これから私の行ってきた若手社員の離職を防止する具体的な方法・ノウハウについてお伝えしたいと思います。

人が辞めない組織の仕組み作り 

私の長年の実感は「いくら仕事が苦しくても、助けてくれる人がいれば、人は辞めない」「仲間の存在が大切」ということです。

一般的に「仕事は大変だけど、人間関係が良い職場では人は辞めない」。逆に「仕事は楽だが、人間関係良くない職場は人が辞める」という傾向があります。

結論として「社員が辞める理由は半径3m以内にある」これが私の実感です。


2012年に米グーグル社が「どのようなチームを作れば生産性を高めることができるのか」という大掛かりな調査をしました。 その調査は「アリストテレスプロジェクト」と命名されましたが、その結果、生産性の高いチームには「安全・安心・ポジティブな関係性」があることが実証されました。私はこれを「ぶっちゃけ話ができる」職場と言っており、「チームメンバーが弱みを見せあえる関係性」を作ることが重要だと思います。

そこで私がおこなってきた離職を防止する方策は「質の良い対話の場を組織的に作りだし、職場でぶっちゃけ話ができるようにし、個々人の価値観まで理解しあうチームを作る」ことです。ここでは私が経営のトップとして推進してきた組織作りや、組織風土作りのポイントについてお伝えします。

私は経営者として、様々な会社の社長と話す機会に恵まれてきました。その中で例えば「うちの会社はお金をかけて社員全員を熱海の旅館に招待し、大宴会を行い、コミュニケーションの場を作っているのに、仕事になると議論が活発にならず、アイディアも出てこない」などという嘆きに似た話をよく聞きました。

その中で気づいたことは、コミュニケーションには「量」も必要ですが、それ以上に「質」を高めること、つまりメンバーそれぞれの「価値観」「生き方」を理解するところまでのコミュニケーションが必要であることに気づいたのです。


コミュニケーションの質を高める3つのポイント

そこで一点目のポイントは「上司と部下との面談≒1on1ミーティング」の充実です。従来やってきた目標管理面談では、あまり効果が期待できないという問題意識を私は持っています。

それは、従来からの目標管理面談では、目標設定について上司と部下の緊張関係・綱引き関係が発生し、どうしても自己開示が進まず、お互いの価値観の理解や関係性を深めるには至らないということがあります。

そこで価値観を理解するため、目標管理面談とは別に、1対1の「60分ミーティング」を行い、それぞれの職場の上司と部下が、一人の人間として、それぞれの価値観・生き方を理解するための機会を作る取り組みを実行したのです。

具体的には、まず上司が先に約30分、思い切り自己開示をして「自分の幼い頃や子供の頃の話・両親の思い出・自分の家族について・自分に影響を与えた出来事・影響を与えた人物」などの話を部下に話します。上司が終わった後、今度は同じように部下が約30分間同様に話をするのです。ポイントは「鏡の法則」と言われるように、上司が部下の前でどれだけ心を開けるかで効果が決まります。

当初反対する管理職もいたことから、私がお手本となるために1人で120名の社員全員に対し3か月かけて見本を示しました。その結果、社員と私のコミュニケーションは飛躍的に活性化していきました。そしてその後、管理職の方々を中心に直属の部下に対して、年二回、1対1のミーティングを実施していただくこととしました。

この「60分ミーティング」により、職場の同僚がお互いの生き方・価値観を認め合い、生きている命の尊さを感じ合う所から、深い関係性が生まれ「職場の同僚が一生の友人」になることで、人が辞めない理想の会社を作ることができると確信しています。

二点目は職場単位で行う、オフサイトミーテイングです。

これは 一人20分~30分程度の自己紹介をチームメンバー全員で一人一人行う方法です。3分程度の自己紹介とは違い、一人20分~30分の紹介となりますと、表面的な自己紹介で終わらず、子供の頃の話、学生時代の話、恋愛の話、失敗や挫折を経験した話など、親しい間柄でも聞いたことのないような話がいろいろ飛び出してきます。

そしてその人の価値観や人生観を理解することができるようになります。ポイントはチームのリーダー格の人が最初に率先して、思い切り自己開示を行い、模範を示すことです。実施に当たっては、メンバーの方に事前に十分趣旨を理解していただくことが重要です。最初は若干抵抗もありますが、実際にやってみると、一人あたりの時間が短く感じ、いろいろな気づきがあり、何よりも楽しいことから、次第に定着して行きます。

私の会社では、研修で階層別に時間をかけて実施し成果を上げてきました。これも離職防止と同時に、「安全・安心・ポジティブな関係性」を職場に作り、生産性の高いチームになるための方策であることに着目して実施してきました。

三点目は「褒める文化を醸成するための仕組みづくり」です。


「褒めることは人を動かすエンジン」ともいわれます。手間がかからず手軽にできる方法を取り入れてみてはいかがでしょうか。私の会社で実行して効果を上がった二つの手法をご紹介いたします。

一つは、職場の目立つところに投票箱を置き、同僚が良いことをした時、気づいた同僚社員がその内容をメモにして投票箱に入れます。そして、リーダーが定期的にその箱を開け、朝礼など、皆の前で読み上げ披露するという方法です。同僚どうし、お互いに褒め合う文化・習慣を仕組みとして作っていく方法です。

二つ目は、管理者に予め500円程度のクオカードなどを渡しておき、職場で良い行いがあった時など、管理者の判断でやはり朝礼などチームメンバーの集まる場所で、感謝の言葉を添えて表彰し、表彰後に部課長会などで内容を報告してもらいます。私の会社では、「ポジテイブ賞」と名付けて実施しました。

従来の表彰制度との違いは、表彰基準も作らず、〇〇賞などとランク分けもしないことです。これであれば審査に手間がかからず、リーダーの判断(独断)で行うことができ、チームとして進めている施策や課題の推進に沿った望ましい行動に対して即断即決でリーダーがスピーディーに褒め、褒める文化や、部下の望ましい行動を促すことができます。

そしてこの方法により、管理者としても部下の望ましい行動をしっかり観察して褒める習慣をつけていただき、さらにリーダーとして褒めるセンスも磨いていただくことができたと思います。そして年末には、その年のポジティブ賞を表にし、投票により最も素晴らしい人に、年間グランプリ賞を授与すると同時に、褒めた課長クラスにも投票により「褒める達人賞」を授与いたしました。手軽にできる方法であり、褒める文化の醸成に大きく役立ちました。

今後、経営者に求められること 

最後に、人が辞めない会社を作るために、経営者に求められることは何かということですが、「人が辞めない会社は一朝一夕には作れない」それが私の実感です 。

働いている人が幸せで、就職を考えている若い方に向かって、「お前もうちに来ないか」と、社員が言える会社を創れば、人が辞めない会社になれると思います。そのために経営者に求められることは何かについて述べさせていただきます。

まず経営者として第一に取り組むべきは、マネジメント層・リーダークラスの人事の問題です。なぜなら、誰を評価し、誰を評価しないかという人事の問題は、社員に対して最も強いメッセージを発するからです。

バブル崩壊以降、我々はどちらかというと、日本的経営の良さを忘れ、仕事の成果や結果が全てと考え、日本的経営の強みであった「職場集団としての強さ・人の繋がり」を軽んじて来たように思います。

しかし米グーグル社の調査結果 からも明らかなように、生産性の高いチーム・組織は、ことごとく「人間の繋がりの強固なチーム」でありました。我々は管理職の方に対して、短期的な成果を求めすぎず、仕事の「プロセス(過程)や人の繋がり」を大切にする方向に、今一度注意を向けて、マネジメント層の評価を見直していくことが大切だと思います。

つまり、自分の「手柄や評価」を第一に考える自分本位のリーダーや、部下をその道具として地位や権限で思う通りに動かすコントローラー型のリーダーを評価するのではなく、企業の「人の繋がりやモチベーションを重視し、人を育て、強いチームを作るリーダー」をしっかりと見抜き、昇進・昇格させて行く事が重要だと思います。

第二には、若手社員の夢や希望をしっかり受け止める仕組みづくりです。

私自身がアドラー派のプロコーチであったことから、前述したとおり、若手社員のコーチングを暇があれば実行してきたことで、個々の社員の夢や実現したい未来について、深く聴く機会に恵まれていました。そして個人の夢や、実現したい未来について、しっかり傾聴すると、会社の将来計画と個人の夢や希望は一致する部分も多く、会社組織としても個人を応援できることが多い事に気づきました。

私の若い頃、昭和の時代は、社員に対し会社への貢献を求めることが多かったように思います。しかし令和の時代は、個人の夢や希望・なりたい未来を実現するために、会社としてできる事は何かを考え、施策に反映して行く時代だと思います。

一例として、数年前会社を辞めたいと言ってきた入社3年目の社員がいました。辞めたい理由は、子どもの課外活動やキャンプなど、社会教育をライフワークとしたいとの希望でした。私は時々彼のコーチングをしており、早くから彼の趣向は理解していました。そこで、どうせ会社を辞めるなら、その道で知られる存在になってから独立しても遅くはないのではないか、会社としても応援すると提案しました。

そしてクレジットカード会社であったことから、新たにカード会員のお子様を対象とした課外活動系を行う担当を作り、彼に担当してもらうことにしました。彼は数年たった今、イベントの担当として動物園内でのエサ遣り体験会や、鉄道車両工場見学会・木工教室など数々のイベントを成功させ、生き生きと仕事を楽しんでいます。

社員と会社の関係は大きく変化しました。社員自身も自己の能力やスキルを高め、自分の市場価値を高めていく努力が必要ですが、会社もその価値の高くなった社員を引き留めておくだけの待遇や魅力ある仕事が与えられるかが問われているのだと思います。

業務指示や業務分担が、社員個人の成長や夢の実現にいかに近づけるかが、問われているように思います。

最後に、人はやる気になった時、ひとりでに成長していきます。人をやる気にさせるにはどうしたらよいのでしょうか。

人間はやる気が出ないと新たな行動に移れません。しかしビジネスの世界では、うまく行かないことも多く、やる気がくじかれる場面が常に発生します。上司もダメ出しを続けてしまいがちです。しかし、素晴らしい結果やアイディアは、失敗や困難の連続の中からしか生まれてこないとも言えます。そこで、リーダーは社員を勇気づけ、社員をやる気にさせることが大切です。

私がおこなってきた部下のやる気を高めるための5つのポイントをご紹介し、結びとさせていただきます。

それはこの5点です。

①部下に感謝し
②部下に共感し 
③結果よりもプロセスをしっかり見て 
④部下の成長を喜び 
⑤できていないことよりもできていることを認める。


上司の一番足りないことは、部下への①感謝や②共感です。そしてうまく行かないことが多ければ多いほど③結果よりもプロセスをしっかり見て④部下の成長を喜ぶことで、部下のモチベーションは上がっていきます。そして⑤部下の成長を喜ぶ中で、理想の会社が作られ、成果や結果もついてくるように思います。

ライター大垣 雅則氏

東武鉄道株式会社で取締役、株式会社パスモにて代表取締役社長を歴任。現在は独立し、リーダーシップの実践者として「人をやる気にさせ、輝かせる真のリーダーを育成する」ことを目的に、セミナー講師、コンサルタントとして活動。人材育成学会会員。アドラー派エグゼプティブコーチ。

関連コラム