3年間離職者0 プロ経営者が実践してきた施策のご紹介~人が辞めない人材育成編~

人事

2019年09月12日(木)掲載

リーダー実戦力育成の専門家・プロ経営者の大垣雅則です。私は東武鉄道株式会社で約20年間、採用・教育等人事部門で仕事を行い、ここ10年間はプロ経営者として株式会社パスモの代表取締役社長を始めとして、3社の社長を務めました。

特にこの6月まで社長を務めた従業員120名の株式会社東武カードビジネスでは、私が社長になった6年前まで、毎年5~7人の従業員が離職していました。しかし数々の施策を実施した結果、この3年間若手社員の離職者0を達成することができました。これから私の行ってきた若手社員の離職を防止する具体的な方法・ノウハウについてお伝えしたいと思います。

なぜ人が辞めない人材育成・組織開発が必要なのか

最近の有効求人倍率は、1990年代のバブル期を抜き、建設業では約7倍に達するなど、人手不足はますます深刻となっています。数年後には人手不足により倒産する中小企業が激増するとの予測も出てきております。

言うまでもなく、従業員の離職による経営への影響は極めて大きく、採用活動や社員教育にかけた費用損失は勿論、教育に携わった担当者や職場のモチベーション低下など、その影響は深刻です。そのため、生産労働人口が減少する中、社内の人材をつなぎ留め育てていくための人材育成や組織作りが今まで以上に重要になります。

私は長年、採用や教育担当の仕事をしてきました。毎年新人が職場に配属されただけで、職場が活気づき、モチベーションが自然に上がって行くのを見てきました。しかしその一方で、せっかく採用し育てた新人が辞めていった時、それも連鎖反応のように立て続けに複数の人が辞めていった時の職場の衝撃や、モチベーションの低下が思いのほか大きいことも同時に体験してきました。

若手社員が次々と辞めると、管理者が部下に対して自信を無くし、正しいことも言えずビクビクしてしまい、職場が荒廃し、人が育たなくなる苦しい悪循環も体験してきました。では、どうしたら人が辞めない会社・職場を作れるのでしょうか。3年間離職者0を達成することができた、具体的な施策をこれからご説明いたします。

人が辞めない人材育成

人材育成は3つの大切な要素・力が必要だと思います。それは「育つ力・育てる力・育む力」であります。離職を防止するためには、本人の「育つ力」もさることながら、どうしても組織として「育てる力・育む力」を強化して行く必要があります。ここで私が離職防止の観点から推進してきた、人材育成の方法とそのポイントについて5点に絞りお伝えいたします。

「3日3月3年」と言われるように、新人の離職はこのタイミングで多くなります。人材育成においても「鉄は熱いうちに打て」の言葉通り、入社して3年間集中して行うことが効果的です。


第一に、新人研修のポイントです。

離職防止の観点から、同期や新人クラスの仲間づくり、つまり関係性を深め、心理的な安定性を高めることに重点をおいて実施することが重要です。そのため、心を開き、悩みを打ち明け、共感しあえる機会をできる限り多く設けるための研修を定期的に行う事が肝要です。要するに「一人で悩まない体制を意識的・効果的に創ること」です。

研修の中身は、講義などの座学を極力少なくし、職場見学や他社見学、エース級の先輩とのQ&Aやグループ討議など、コミュニケーションを深める場を多く作り、お互いが自己開示できて、動きのある研修を実施して行きます。そして研修に合わせ、極力懇親会やお茶会、スーパー銭湯の会など、フラットなコミュニケーションの場を多く作ります。これを入社時は勿論、入社年間は最低3か月おきに行い、新人でワイワイやる機会を極力増やして行きます。いわば「新人を集める、交流させるための研修」といっても良いと思います。

今の新人の方は以前とは違い、会社が何も手を打たなければ、残念ながら同期や新人間の関係性は深まって行かないのが現実だと思います。新人の時代は、職場や新たな仕事に慣れずに、自分にダメ出しをして、一人で悩んだ結果、離職に追い込まれるケースが多く見受けられます。

研修のなかでいろいろと意見交換をさせ、自分一人が悩んでいる訳ではないことや、自分の能力が劣っていて業務で失敗している訳ではないことを、同期や新人社員に会って話すことで再認識させ、集団への所属感を持たせ、自己肯定感や心の安定を高めて行くことが重要です。

また、特にこの時期の傾向として「人はなぜ働くのか。この会社で良かったのか。自分はこれから本当はどうしたいのか」など、真剣に悩む新人が多くなります。そのため、私の会社では、経営者の稲盛和夫さんの「働き方」という書籍などを読ませ、研修で「なぜ働くのか?」というテーマで、時間をかけてグループ討議を行い、討議結果のプレゼンを経営陣で聴いたり、社長である私の新人の頃の悩みや、失敗談、私自身なぜ働くのかなど、トップ自らが新人の前で思い切り自己開示し、人生の先輩としていろいろな質問に答える研修を複数回行ってきました。

第二に、新人たちの離職防止に効果が高かったのは「ブラザー・シスター制度」です。

これはご存知の方も多いと思いますが、同じ部署の先輩社員を兄(ブラザー)姉(シスター)として、ペアとなっていただき、先輩社員が新人社員に仕事の進め方や心構え、職場の人間関係など、新人の不安や悩みの相談に乗る制度で、似たようなものとして「メンター制度」などがあります。

これにより、新人の離職に繋がる悩みの早期発見や、問題解決が進み、さらにはブラザー・シスター役を担っていただいた若手中堅社員の先輩としての意識向上にも一役買うことができました。

第三には、「15分の業間教育」の実施です。

OJT(職場内教育)は大切ですが、日々の仕事に追われ、新人の教育はなかなか実施する余裕がないといった状態にある職場も多いと思います。そのような環境の中、私の会社では、仕事に慣れず業務知識も不十分なまま、一人で悩み離職に追い込まれる新人の方もおりました。

特にお客様に接する部門などでは、突発的に業務が発生したり、従業員の方の突然の欠勤等で、予定していた業務教育が突然できなくなることも度々あり、逆に日によっては予想に反して余裕ができてしまうことも起こっていました。

そこで私の会社では、それぞれの部門のエキスパートを中心にプロジェクトを発足し「15分の業間教育プログラム」を作りました。入社1~3年間で必ず身に着けるべき重要な業務や知識について検討していただき、15分間でできる効果的な教材作りも実施致しました。

そして各職場の管理職を中心に、月単位で15分あればできる業間教育を事前に準備し、15分程度の時間がとれる場合、すかさずそこにいる新人を集め、臨機応変にマンツーマンに近い形で業間教育を実施してきました。

さらに、職場により温度差ややり残しがないように月単位でチェックリストを作り、新人社員一人一人に小規模テストを実施し、教育の効果測定を実施してきました。このことにより、OJTが自然に進み、新人の業務知識も飛躍的に高まっていきました。そして、一人前として自信をもって仕事ができるようになる速度が速まり、離職防止に繋がったように思います。

第四に行ってきたことは、入社して3か月後に配属先で行う新人の「自己紹介イベント」の実施です。

それぞれの職場に配属された新人社員に、一人約20分間、所属する部門の上司や同僚の見守る中で、自己紹介のプレゼンテーションをしていただく催しです。テーマは自由ですが、自分の趣味や長所短所、サークル、ゼミの話、入社理由、会社でやってみたいこと、これからの夢などなど、自由に職場で発表してもらうというイベントです。職場の身近な先輩社員に準備段階からマンツーマンでいっしょに取り組んでもらうことで、その関係性も深まりました。

ここ数年、回を重ねるごとに、新人社員のプレゼン能力は上がっています。パワポの資料や映像・音楽などを使い、感動的で魅力的な本人の人となりが職場の同僚に伝わるようになってきており、職場の楽しみの一つになりつつあります。
新人社員にとっては多少のプレッシャーを感じると思いますが、終わってみると職場で自己開示する習慣や、自分が先に自己開示することで、たくさん良い事があることを早い時期から学んでもらい離職防止に繋がったように思います。

第五には、「ランチミーティング」と称した、週一回のランチ会の開催です。

各部門の課長クラスが交替で新人をエスコートし、社長の私と3人で昼食を共にするようにしておりました。新人社員にとって、社長とランチしながらフランクに話ができることは、思いの他モチベーションアップに繋がります。一方社長の私にとっては、若い方の趣味や課題を学べたり、いろいろな提案ももらえるなど、楽しく有意義な時間となりました。

特に、会社の重要な案件が、どの程度正確に末端の社員に伝わっているのか、管理職の方が部下である新人の方をどのように育て係わってくれているのかを知るための、大変貴重な時間となりました。このことにより私は年間約100人の社員と親身に会話をすることができました。

以上のポイントをまとめると、徹底して研修などでコミュニケーションの場を作りながら新人社員との関係性を深めていきます。そして、ブラザー・シスター制などにより悩みを打ち明けられる人間関係の仕組みを作り、OJTの体制を整備し、フラットなコミュニケーションを通して、新人の方の自己開示を促し自己肯定感を高める方策を推進することです。

前編では人材育成に関する施策をご紹介しましたが、後編では人が辞めない組織作りについてご紹介します。また、今後の経営者に求められる考え方を最後に述べたいと思います。

執筆者M.O氏

電鉄大手で取締役、関連の電子マネーサービス企業にて代表取締役社長を歴任。現在は独立し、リーダーシップの実践者として「人をやる気にさせ、輝かせる真のリーダーを育成する」ことを目的に、セミナー講師、コンサルタントとして活動。人材育成学会会員。アドラー派エグゼプティブコーチ。

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