新規事業開発・研究開発におけるIT技術の活用方法~経営と現場の使い方

研究開発

2019年08月07日(水)掲載

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著者は、日本板硝子株式会社に入社以来、黒字化を実現し退任するまでのほぼ全てのキャリアで、直接的・間接的の両面からモノづくりに関わり続けてきました。国内ラインマネジメント、生産効率化、品質管理、および海外生産ラインマネジメントなど製造部門の第一線で実務を経験し、工場長、取締役執行役、さらには代表取締役とキャリアを重ね、モノづくりをベースにした経営に従事してきました。

近年、新規事業開発にIT技術を活用する動きが目立つため、これまでの経験と知見をもとに、IT技術を有効に行うためのポイントについて、主観を述べます。

最近の新規事業開発の動向とIT技術の活用

BtoC向けで顕著に、新市場(新製品)のピークが短く、投資回収が困難になっている事業・開発領域が増えています。一方、関連技術の立ち上げや開発投資は肥大化する傾向にあることから、初期段階からトップシェアの確保を目指すことも必須であり、この状況を少しでも良化するために、IT技術の適切な活用は欠かせなくなっています。

例えば、これまで日本の独壇場であったアナログ技術ベースの素材分野では、開発には極めて多くの実験が必要でしたが、新興国がAIを駆使して急激な追い上げ姿勢を見せ始めており、日本企業も安閑としていられない状況です。

私の強みのひとつに「経済性工学」があります。これは意思決定の際に、経済的により有利な案を探し、比較・選択するためのスキルです。すでに先進的な生産設備を自社内に持つ日本企業は、自社で良質なデータを採集・選択することで、さらに先を目指すことが求められるでしょう。

1. 新規事業立ち上げの成功のポイントとアプローチ方法

最も重要なのは、時流に乗った市場の中で、自社のリソースのアドバンテージが生きる分野に狙いをつけることです。それと同時に既存技術のブラッシュアップや新素材を核として、他社に差別化を図ることです。

そのための手順を以下に述べます。

① ターゲット市場と立ち上げたいビジネスの姿(What)をきちんと設定し、見える化すること。
② ターゲットと現状とのギャップを埋めるために、どのような体制で臨むべきか、推進体制を確立すること(How to)。
未知の分野ゆえの少ない情報をもとに、所定の期限内に目標ビジネスを立ち上げるには、自社に存在しない情報や技術獲得のために、M&Aや外部人材の採用などを行う可能性が出てくるが、IT技術はこの中のひとつであり、専門の人材もセットで関わりを持つことになる。
③ 多くの場合プロジェクトを立ち上げることになるが、この推進には今までにないレベルの強力なリーダーシップを持った人材を(できれば社内から)育て、任命する必要がある。(Who)
   つまり、これまで以上に、誰がやるのか(リーダー)と、誰(パートナー)とやるのかが重要になる。

IT技術はあくまでも目標達成のための手段ですが、それが有効に作用したときに計り知れない威力を発揮することは、幾つもの事例が証明しています。最近、特に活発な活動が展開されている例として、有機ELや電池の材料やプロセスの創出、高分子やコンポジット材料創出などが挙げられます。

それぞれの立場における手段としてのIT技術との接し方

<経営層の接し方>
メーカーにとって「IT技術は目的達成の手段である」。進化の速さから、自身がIT技術に関わることを嫌う経営層は多いですが、もはや避けては通れない需要な経営スキルであることを、まず肝に銘じなければいけません。ただし、技術の中身をすべての人が知る必要は全くありません。

IT技術を使うことでなにができるのか、どのようなリスクを内在しているのか、自社戦略実現のために有効なのはどのような技術なのかを掴んでおけばよいのです。

プロジェクトではその指示を専門家に委託すればよく、個人的には新しいIT技術の活用は新設備導入と同じような感覚で臨めばいいと、思っています。

違いは「ただ形が見えないだけ」です。これから先、経営層から担当者まで、AI, IoT等について、それぞれの立場でそれぞれの技術の得失をきちんと理解してくことが大事です。AI もIoTもあくまで手段のひとつです。どのようなことを実現したいのかという目的が重要です。

<担当者・リーダー層の接し方>
残念なことに、私が知る限りでは、現場をよく知るIT技術者は少なく、と同時にITに精通した現場の社員も同様です。両社の会話が見えるようになればどんなに素晴らしいことだろうか、とアナログ人間の私が何度も嘆息をつく場面がありました。両方の良さが重なったら素晴らし成果が上がるのに、と感じています。

現実的なひとつの方策として、以下のように考えてはどうでしょうか。

企業内でIT素養のある人材を選び、自社の事業に必要と思われるIT技術の動向を常にウォッチさせ(最近は学ぶ手段は幾つもあります)、必要に応じて社内各層に自社の表現に置き換えて「通訳」をさせます。こちらとは別に、新規事業プロジェクトのリーダー層には、社外の人材を含めた多様な集団をリードする上での必須のスキルとして、データを活用して実現したいことに対する研鑽は継続させる必要があります。

IT技術の活用における注意点

少し細かい部分になりますが、大事なことをお伝えしたいと思います。

多くのIT活動ではビッグデータが重要でありますが、いざ活動開始という時に貴重であるはずのデータが使えないという事態が多々発生しています。例えば、日常収集している製品の品質や性能のデータと製造工程の原因のデータにタイムラグがあり、1対1の対応がとれていない、といった類の話が当てはまります。これでは、いくら測定を重ねても開発の足しにはなりません。

従来のシステム化は業務効率が中心であったため、基本は問題解決型です。しかし、先端ITを活用したシステム化は、新サービスの開発システム型です。今後の進化や動向予測を「ITロードマップ」として公表する企業も珍しくありません。もし、皆さまが「自社は少し遅れている」と感じるのであれば、解決策は、現時点でITを適用する計画の有無に関わらず、今のうちに「意味のある」データの採取方法について、専門家の教育を受けて、将来に備えておくことをお勧めします。

また、自社のビッグデータは貴重な財産です。特に業界の先頭を走っている企業の情報ならなおさらです。演算を社外に委託する場合のデータの扱いも含め、パートナー選びには細心の配慮が必要なのは言うまでもありません。

AIやMI(マテリアル・インフォマティクス)で海外勢が攻勢をかける中、自社に先進工程を持ち、強みでもある生データを宝にするか屑にするかは皆さま次第です。今のうちに手を打っておくことは極めて重要だと思います。

※記事は執筆者個人の見解であり、パーソルキャリア株式会社の公式見解を示すものではありません。

ライター吉川 恵治氏

1973年に日本板硝子株式会社へ入社。製造の現場でおもに生産管理や生産効率化の業務を担当。実務を通してモノづくりのセオリーやその経営ノウハウを得る。2012年、同社代表取締役就任。同社相談役を経て2017年退任。現在は、複数企業にて顧問、社外取締役として活動。

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