VPoEの役割~エンジニア組織のマネジメントと採用戦略~

新規事業

2019年08月29日(木)掲載

キーワード:

デジタルトランスフォーメーション(DX)、AI、IoTといったキーワードが日々語られていますが、いまやテクノロジーはビジネスから切り離せないものとなりました。「自社の技術体制を強くしたい」とお考えの経営者の中には、どのような開発体制を作れば良いかわからない、エンジニアが思うように採用できないなどの悩みを持たれているケースも少なくないようです。

本コラムでは、近年注目されているVPoEというエンジニアリングマネージャーの役割を紹介しながら、昨今の開発体制事情についてご紹介させていただきます。自社の技術体制のあり方を検討する際の参考になれば幸いです。

VPoEの役割とは

VPoE(Vice President of Engineering)はエンジニアリング組織におけるマネジメントの責任者です。経営の執行役であるCxOと同様な立ち位置で、採用、育成、開発組織の運営など、エンジニアリング領域における課題解決に責務を持ちます。欧米では以前から一般的なポジションでしたが、近年日本でも設置する企業が増え、浸透しつつあります。

技術責任者としてはCTO(Chief Technology Officer、最高技術責任者)が以前から馴染み深いポジションかと思います。CTOは技術戦略や技術選定など、経営サイドに立った技術領域の意思決定をすることに責務を持っています。

いままで日本ではCTOが技術軸とエンジニアリング軸の両方の役割を担当することが一般的でしたが、事業と組織が大きくなるにつれてその負担が大きくなり、技術戦略に遅れが生じるリスクが生じます。そこで、「チームビルディングの専門家」としてVPoEを設置してエンジニア領域の責務を分離することで、CTOは技術領域の意思決定に集中できるメリットが生まれます。

なぜVPoEが注目を集めているのか

いまVPoEが注目を集めている背景には、組織のあり方とリーダーシップの変化が関係していると考えられます。

従来マネージャーの役割は「管理すること」でした。これは日本の高度成長期の大量生産を支えた標準化思想にも通じていて、ヒエラルキー型のピラミッド組織の中で決められた計画、手順を確実に実行することが求められてきました。しかしながら、現在はモノが溢れ、顧客ニーズの多様化が進み、過去の経験が応用しにくくなっています。つまりベストな方法を誰も知りません。多様化はこれからも益々進み、上長が今までのような単純な命令や指示を出すだけでは対応ができなくなるのは明らかです。

ベストな方法がわからないのであれば、仮設をたてて小さく早い検証を行い、市場からフィードバックを受けながら最適解を探していくことが最善の策です。また、顧客ニーズは移り変わりが早くスピード感も要求されるため、顧客に近い所でモノを提供している現場チーム自らの判断と行動が不可欠になります。これが、いま企業において「自立型組織」が求められている背景だと言えます。

この思想はカリフォルニアのテック系企業などを中心に広まり、エンジニアの世界ではいち早くから浸透しました。自立型組織におけるリーダーシップは「管理すること」から「チームと個人へ動機づけを与えていくこと」への変化が求められます。

企業内で「プログラムコードが書ける技術の専門家」であるエンジニアが、ベストな方法の探求と改善を自律的に行う組織運営には、VPoEのようなエンジニアに精通したマネージャーの存在が不可欠になります。

VPoEの具体的なかかわり方

VPoEが行うエンジニアのマネジメントとは「エンジニアチームのパフォーマンスを最大化できる良好な状態を維持すること」だと言えます。これを実現するためにVPoEは以下のようなことのデザインと実行を行います。

1.環境をつくること
エンジニアが活躍するための動機づけは、ビジネスへの共感、報酬なども勿論ありますが、それだけではなく「働き方」「成長」「仕事のやりがい」なども重要視されます。

「働き方」は効率性を高めるツール・ガジェット、集中して働きやすい服装、効率が良い時間帯での作業などがあげられます。

「成長」は経験を得ること。仕事を通じて新たな技術に触れる、勉強会などで学びを得る、目標とする人と一緒に働くなどの体験です。

「仕事のやりがい」は自己の裁量と達成感、チームでの相互成長、顧客やステークホルダーからの感謝、といった自己の成功体験があるでしょう。

このような環境をできるかぎり提供し続けていきます。

2.責任を与えること
ここまでの話だけ聞くとエンジニアが自由で居心地の良い環境をつくるような誤解があるかもしれませんが、目的はあくまでも「パフォーマンス最大化のための環境」です。そのため、CEOの経営ビジョンやCTOの技術方針を彼らと共に示し、チームと個人の役割と目標(期待値)を明確にして、プロとして成果をだしていく責任を与えます。

3.成長を支えること
メンバーが上長と定期的に1on1を行うスキームをつくり、個々が抱える課題の自己解決の手助けや、フィードバックを通じて客観的な評価を伝えます。また、成果の振り返りなどを通じて、自ら問題と向き合い成長できる環境をつくります。

このように考えるとVPoEが行う組織マネジメントは、まさに「エンジニア組織の文化作り」そのものと言えるでしょう。

そして、規模が大きくなると当然一人のVPoEだけでは実現できません。エンジニアリングマネージャーやスクラムマスターなど現場でチームをまとめる役割を適切に配置して、組織全体で文化形成を行う体制をつくります。

また、HR部門とも連携して、納得感の高い評価制度、事業目標と個人のキャリアパスをリンクさせた人員配置、フェーズや事業領域にあわせた適切な人員採用と育成計画などにもコミットしていきます。

これからのVPoE、その必要性とは

近年のエンジニア採用は売り手市場と言われています。従来から内部に開発体制を持つネット系企業だけでなく、開発を社外に委託していたネット系以外の企業の内製化や、グローバル展開をする外資系企業の進出など、今後益々エンジニアの採用需要は高くなり続けることが予測されます。

エンジニアの採用と定着には特効薬のようなものはなく、エンジニアが魅力と感じられる文化をつくり社内のエンゲージメントを高めて、その文化を社外へ発信してブランディングしていくことを着実に実行することが、現段階のベストプラクティスだと思います。

社外への発信は、現場のエンジニアが中心になり、使用している技術、体験から知り得た成功談・失敗談、自社で開催する勉強会の様子といった身近なテーマを、ブログやイベント登壇などの手段で発表するのが一般的です。採用候補者は企業の中の様子を知ることで、入社後の自分がどのように働くかがイメージできるため、魅力付けはもちろんのこと、カルチャーフィットへのギャップを事前に埋めるメリットもあります。

このようにエンジニアの採用とマネジメントは、現場エンジニア、HR担当、経営者など様々なステークホルダーを巻き込んで行っていくため、リードするVPoEの存在はさらに重要になっていくでしょう。

昨今の採用事情を鑑みると、今後の開発体制のあり方は多様化が進むことが予測されます。リモートワークのような時間と場所に縛られない働き方や、副業などのワークシェア、オフショアでのラボ型開発など。雇用や働き方が多様化したエンジニアで編成されるチームにおいては、従来のマネジメント手法が通用しにくくなります。ベストな方法を誰も知りませんが、ここでのアプローチも前述したことと基本的に変わりません。

VPoEと自己組織化されたエンジニアチームは最適なコミュニケーション手段、課題や成果の可視化などを繰り返し試行錯誤することで、ベストな方法を模索していきます。「多様化する働き方に向き合ったチームのあり方」は、企業とVPoEの今後のチャレンジになるでしょう。

※記事は執筆者個人の見解であり、パーソルキャリア株式会社の公式見解を示すものではありません。

ライター城倉 和孝氏

独立系SIerで受託開発に従事した後、株式式会社エイトレッドの創業に取締役CTOとして参画。2011年に合同会社DMM.comへ入社。CTOとして7年間にわたりエンジニア組織拡大と育成に従事する。2018年にバイナリー合同会社を創業し、複数社のエンジニア組織構築およびIT全般の支援を行う。

関連コラム