【前編】企業の成長に不可欠なIT戦略及びIT投資 ~ 経営戦略と両軸をなす重要なIT戦略 ~

システム

2020年10月13日(火)掲載

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はじめに:企業のIT投資の実態

以前、別のビジネスコラム「IT分野での2025年問題」を執筆させていただいた際に、経済産業省の『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』を、ご紹介させていただきました。

 そしてその中で、「DXというのは、企業の土台とも言うべき基幹システムがあって初めてこれが実現できる」と補足させていただきました。これは今回のコラムのメインテーマのIT戦略とも大いに関連しますので、このコラムの中で、この真の意味や詳細を解説させていただきます。

改めまして、今回は、この【前編】と【後編】の一連のコラムにて、企業のIT戦略やIT投資はどのように考えていけば良いか、ということに重点をおいて、解説します。この【前編】コラムでは、先ずは企業の成長に不可欠なIT戦略及びIT投資における経営戦略と両軸をなす重要なIT戦略について解説させていただき、そして、【後編】コラムの『~ 企業収益向上への鍵となるIT戦略 ~』の中で、IT投資の考え方及びIT戦略策定のロードマップ検討を例として解説いたします。

先ずは、企業の「IT投資」について考えてみましょう

昨今、企業経営は、ITシステムの支援無しには考えられないのはご認識されていると思いますが、反面、多大なIT投資に関しての投資効果がよく見えず、経営者として納得いかないケースも多いのではないでしょうか。 実際のところ、情報システム部門の方が説明されるようなITシステムの必要性は理解できるものの、詳細は良く理解出来ず、果たしてその投資額が妥当かどうかの判断は、難しいところだと思います。
しかし、よく考えてみてください。企業はITシステムありきではないのです。ベースは、企業の経営戦略があり、そしてこれをベースに企業の経営中長期計画があり、それを実現及び支援するための手段、すなわちツールとしてそもそもITがあるのです。

過去、私が企業のコンピュータシステムの導入支援をさせていただいた頃は、1980年代の初頭で、金融企業ではまさに第3次オンラインの全盛期で、大型コンピュータを活用した顧客サービスや海外への進出も含めて、益々高性能なメインフレーム(その当時は、大型コンピュータのことをそのように呼んでいました)ハードウェアが開発され、 システムエンジニアは、コンピュータのオマケのような位置づけから、ようやくコンピュータ導入への価値のある有償サービスに向かいつつある時代でした。
よって、大手の製造企業では、社内の財務会計システムはもちろんのこと、受発注や製造業務を支援するシステムも社内で独自に開発し、そのシステム開発を補う意味で、ITソフトメーカーがあるような時代でした。
従って、そのような当時はIT戦略というような言葉も無くて、各企業の情報システム部門がメインとなり、必要なITシステムを着々と開発し、より生産拡大、業務の効率化に必要な都度IT投資をしているような時代でした。

しかし、今の時代は、その当時とは全く様子が変わってきました。その一つの理由は、多くの方がご存じかと思いますが、著名な統合基幹業務システム、いわゆるERP(Enterprise Resource Planning)パッケージが、日本にも入ってきたことです。今は、その頃から早くも30年ほどが経過しています。
そして、良きにつけ悪しきにつけ、このことにより企業内のITシステムの在り方もおおきく変わってきており、冒頭で紹介しましたような経済産業省の「2025年の崖」問題が出てきている次第です。

したがって、企業に経営戦略があるのと同様に、これに呼応する形でIT戦略も策定されるべきなのです。そうすると、その上でおのずとIT中期計画が出来て、IT投資予算の妥当性も見えてきます。そして、そのIT投資への妥当性の評価は、その投資が企業の収益、特に利益にどのように貢献出来るか、またこれが成果として定量的にどのように現れてくるか、で測るべきでしょう。
しかし、古くからの企業のIT部門の方々はよくご存じのように、これはまさに「言うが易し 行うが難し」です。というのも、昨今より現状は複雑化してきています。ITシステムにおいては、IT投資効果の定量的な評価は、様々な面があり、非常に難しいからです。
このあたりも、特に、このコラムの【後編】のところで触れるようにしましょう。

私のコラムは、これまでの自分自身の長年の経験や実例をもとに書いていますが、10年程も前になりますが、経済産業省委託調査レポートで、IT投資に関しての具体的な調査レポートが見つかりました。
大変長いレポートであり、専門的な内容も含まれていますが、自由にご覧になれますので、以下にそのURLをご紹介します。IT投資およびその評価で悩まれておられる方がいらっしゃれば、大変参考になると思います。
・https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/softseibi/(test)ITinvestment-valuationGL.pdf
(企業におけるIT投資の利活用が適正に行われるための環境調査事業・IT投資価値評価に関する調査研究、経済産業省委託調査)

企業の経営戦略とIT戦略の関係

ここでは、企業の経営戦略とIT戦略の関係を先ず解説し、「企業の経営戦略とIT戦略は企業発展への両軸をなすものである」ということをご理解いただきたいのですが、長々と書くよりも、先ずは以下の「図1.企業の経営戦略とIT戦略との密接な関係性」をご覧いただきたいと思います。

図1.企業の経営戦略とIT戦略との密接な関係性(筆者作成)

図1をご覧いただければお分かりのように、企業の経営戦略なしに、IT戦略単独での存在意義はあり得ず、また、企業の拡大や成功にとって、IT戦略は企業戦略と共に、重要な両軸となるべき戦略であると私は考えています。
ただ、ここでもうひとつ重要なことがあります。それは「IT戦略の内容」そのものに関してです。
このIT戦略を企業の経営戦略と関連させずに、間違って解釈&策定されるケースも時々見受けられますので、このあたりを次に具体的にご説明しましょう。

IT戦略の重要性

企業のITシステムも、ERP等の基幹システムパッケージが台頭するようになり、ますます企業単独ではコントロール出来なくなり、それ故に、ITベンダー等に依存する比重が非常に大きくなってきています。
しかし、ここで考え方を間違えると、企業の経営戦略にとってIT投資の効果が出ないばかりか、企業の収益向上に多大な悪影響を及ぼしかねません。
よって、ここでも長々と説明するよりも、先ずは以下の「図2.IT戦略の重要性イメージ」をご覧下さい。
因みに、下記の図の中で、ITとは言わずもがなのInformation Technology、すなわち情報技術の略ですが、OTとはOperational Technology、運用技術の略であり、まさにITとOTが上手く連携してこそ、製造業の効率向上、収益拡大の縁の下の力持ちとしてITの成果がでることになります。

図2.IT戦略の重要性イメージ(筆者作成)

企業のIT戦略のイメージ図をご覧いただくと、企業のITシステムは基幹システムであるERPパッケージ等の導入だけでは、企業の収益向上に対して、あまり効果が出ないことがご理解いただけると思います。
皆さまにわかり易くお伝えするため、できるだけイメージしやすいように、企業のIT戦略構想を3階建てのビルディングの設計に例えてみました。
つまり、既に少し補足させていただきましたように、3階部分を意識して、1階部分のERP等の基幹業務システムも良く選定しておかなければ、ITとOTの連携が上手く行かず、あとで手戻りが発生する、或いは余計なIT投資が必要になります。

企業のIT戦略で良くない例を一つ示しましょう。
ある企業の中長期戦略のひとつとして、10年後に海外に最新設備の生産工場を設立し、収益拡大を狙っているとしましょう。(まさにこれが、図2のなかのIT戦略イメージの3階部分になります。)
とすると、最初の土台である1階部分に、現在国内対応のみのERPパッケージを使っているとすると、今は問題無くても、約5年後にはグローバル対応の言語、通貨、法制度、最新周辺機器との連携可能性、等々の機能を有したERPパッケージへの移行も検討しなければいけません。また、既に使っているERPパッケージの入れ替えは、企業のIT部門にとってはかなりの大仕事です。
しかし、当初から企業の経営中・長期計画を意識して、グローバル対応のポテンシャルのあるERPパッケージを土台、1階部分のベースITシステムとして既に導入してあれば、あとは、エンハンスやマイナーチェンジのみで対応可能となります。
つまり、これが図2.で示しましたIT戦略、IT中期計画になるのです。

冒頭の「はじめに」のところでも書きましたが、ビルディングの土台や1階(基幹システム)なしに、2階や3階(DXや企業の収益向上も当然含みます)を建設することは難しいのです。
つまり、建物でも土台が凄く重要なように、企業のIT戦略構想のビルディング設計においても、土台(1階)の基幹システムは凄く重要なのです。そして、これが企業の経営戦略に合っていないと、2階や3階の構築段階になって気づいても「時、既に遅し」なのです。よって、最初に、「企業のIT戦略は、企業の経営戦略と両軸で重要だ」、と図1にて説明させていただいた次第です。

昨今、この2階や3階の設計もできていない状態で、土台である1階を作りはじめ、後で気づいてまた最初から作り直し、と言う無駄になってしまうようなIT投資をされている企業が多いのも実情です。その理由としては、経済産業省の「2025年の崖」にも書かれていますように、企業内にそのような対応ができるような昔ながらのITと業務の両方に詳しい有識者が既に定年退職でおらず、それ故にIT戦略も含めてITベンダーに任せてしまう、あるいは、企業自らIT戦略を企業の経営戦略の両軸としてセットで考えていない、というような背景があると考えられます。

したがって、IT戦略構想の初期段階(1階部分の構築)から、最後の企業の収益にITが貢献出来る段階(3階部分の構築)まで一緒に連携対応していただけて、IT及び業務にも詳しく、実力のあるそして信頼できるITベンダーやコンサルを選定することが、昨今ではITシステム自体の選定よりも重要と言えるでしょう。

【後編】コラムでは『~ 企業収益向上への鍵となるIT戦略 ~』をテーマとし、更に詳しくIT投資について、及びIT中期計画の策定例についても解説して行きます。

執筆者H.K氏

大阪大学工学部卒業後、電機業界の大手企業に入社し、情報システム事業部門勤務。米国への社費留学にて、コンピュータサイエンス修士号取得後、米国・東南アジア・欧州の関連会社に出向駐在を経験。日系企業の基幹システム導入支援等を多数実施。定年後はITプロ人材として活動中。英語・海外関連著書30冊以上あり

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