企業をより強くするITシステム戦略とは〜デジタル・トランスフォーメーション(DX)をリードするCIOの役割

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2019年08月07日(水)掲載

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近年企業を取り巻くビジネス環境は日々変化を続け、その変化に対応して企業自らも変革を続けることがますます重要になってきました。変革をしない、あるいは変革のスピードの遅い企業は、やがて時代の変化に取り残され淘汰されていく可能性があります。

本コラムでは、企業変革を成し遂げる上でITの果たす重要な役割のいくつかを取り上げて説明すると同時に、企業変革そのものの重要性を述べたいと思います。

ITシステム戦略の重要性〜変化し続けるビジネスとIT戦略

そもそもITシステム戦略(以下IT戦略)とはどのようなものなのでしょうか。私が考えるIT戦略とはその企業のビジネス戦略を実現するために必要な全てのITに関連する戦略のことです。

企業のビジネス戦略はビジネス環境とともに変化するものであり、ビジネス環境が変化した時にITの責任者であるCIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)がとるIT戦略も当然変わる必要があります。

例えば、リンクドインやフェイスブックで代表されるSNSの重要性がB2B(Business-to- Business)のビジネスでも重要になり、お客様とのエンゲージメントのやり方が変化してきた時、CIOは従来の戦略の中心であったSOR(System of Records:従来の基幹システム)からSOE(System of Engagement:顧客視点でエンゲージメントを重視したシステム)に戦略を変更する必要があります。そしてSORシステムそのものも従来の手組みあるいはERPなどのオンプレミスのシステムからクラウドを活用したシステムへの移行へと変化しつつあります。

また、最近ではAIとビッグデータを活用してビジネスの価値を創造する改革を推し進める企業も多くなりました。 

もし従来のIT戦略でAIや社内データの統合化などが十分にカバーしきれないのであれば、その方向に戦略をシフトしていく必要があります。繰り返しになりますが、IT戦略は独自で存在するものではなく、常にビジネス戦略とともに変化し企業の屋台骨を支えるものです。

IT戦略を実現するために重要な4つのポイント

戦略実現のための重要なポイントは、大きく分けてITガバナンス、ITコスト(IT予算)、社内システムのクラウドへの移行、そしてIT組織などが考えられます。

ポイント① ITガバナンス

まずITガバナンスですが、特に重要なのがグローバルガバナンスです。グローバルガバナンスが効いていないケースでは、例えば日本・アジア、アメリカ、そしてヨーロッパに同じビジネスプロセスをサポートしているのにも関わらず、異なるITシステムが導入されている例が多く見られます。また、M&Aで買収した会社のITシステムをそのまま使い続けるために新たに複数のシステムを抱え込み、全体のITシステムの管理を複雑にしているケースもあるようです。

ビジネス戦略の変化に伴いIT戦略を変える必要がある時、ITシステムがグローバルで個々に選択され運用されているのであれば、IT戦略を実行するためのITシステムを、地域毎に個別に選択して再導入する必要が出てきます。

このやり方はグローバル全体で一つのシステムを導入する時より、はるかに時間や費用がかかることになります。IT戦略を確実に効率的に実現するためには、グローバルITガバナンスは必須項目の一つになると言えるでしょう。

ポイント② ITコスト(IT予算)
IT戦略を実現する上で、ITコストをどのように管理・配分するかという点は、非常に重要な意味があります。具体的に言うと大きく分けて次の二つのケースが考えられます。

まず第1に、ITコストを各地域のITリーダーたちに分配し(または各地域の事業部にITコストを負担してもらい)、そのリーダーが自分の地域のみにIT投資・管理を行うケース。第2に全てのITコストをグローバルCIOの元に集約してCIOがITコストの使い方をIT戦略に基づいて決定するケースの二つです。

後者の方が、IT戦略に基づいたITシステムの導入を迅速にしかも効率的に行うことが可能です。ただしグローバルCIOが全てのITコストを掌握するためには「1.ITガバナンス」で説明したグローバルガバナンスが機能していることが前提条件になります。

ポイント③ 社内システムのクラウドへの移行
社内システムのクラウド化戦略はIT戦略を実行する上で重要なポイントの一つです。クラウドに移行する理由の一つは、システム開発の効率化です。もし独自のシステムを組み上げているのであれば、要件定義から始まり、長い開発とテスト期間を経てようやく本番稼働にたどり着けるのですが、通常その費用は膨大な金額になります。

最近は、SaaS(Software as a Service)と呼ばれるすでに出来上がっている機能を提供するシステムを利用することも一般的になりました。あるいは、必要な機能要求を満たすSaaSが見当たらないときは、PaaS(Platform as a Service)やIaaS(Infrastructure as a Service)を利用して、より少ない労力でシステムを作り上げることも可能になりました。ある外資系企業では、新規に作成するシステムを全てクラウド上で構築し、使えるSaaSがあればまずそれを採用し、なければPaaS/IaaSを用いて開発するという方針を決めて実行しています。

もう一点、CIOがクラウド化にあたりリーダーシップを発揮する必要がある重要なポイントがあります。様々な業界のSaaS製品のラインナップが充実してくるに従って、昔はIT部門に頼るしか方法のなかったシステム開発が、IT以外の部門でもSaaSを利用することによって簡単にできてしまうことです。実はこのことはCIOから見ると大きな問題点を含んでいます。

例えば、IT以外の部門にIT セキュリティーに詳しい人がいることは稀なため、その部門が調達するSaaSのセキュリティーへの対応が十分かどうかの判断が難しい場合があります。また、将来そのSaaSを他国に展開したいと思っても、SaaSがサポートする国が制限されている場合もあります。そのため、いくつか重要なSaaSの選択基準を明確に決め、その基準を社内の全ての部門に守ってもらう必要が出てきます。

ポイント④ IT組織
最後のポイントとしてIT組織をあげます。IT組織は、ガバナンスともITコストとも密接に関連しており、IT戦略を実現するために必要不可欠です。すでに述べたように、IT戦略の実現のためにはガバナンス(特にグローバルガバナンス)とITコストのCIOの元への統合化が必要になります。そのためにはアジア、アメリカ、ヨーロッパの各地域のIT組織も一人のITリーダー(CIO)の元に集約化されることが必要です。

もう少し具体的に説明すると、例えばヨーロッパのITリーダーがCIOではなくヨーロッパのビジネスリーダーに業務報告をするケースを考えてみます。このケースではITリーダーはヨーロッパのビジネスのために自分のITコスト(IT予算)を振り向けます。このようなケースでは通常IT組織はそれぞれ地域毎に独自性を保つ組織になります。

これに対し、各地域のITリーダーがCIOに業務報告をするケースは、CIOがIT組織を統合して全てのITコストをIT戦略に基づいて投資することが可能になります。すなわち、どのようなIT組織を構築するかということも、IT戦略の実行に重要な要素になります。

IT組織に関してあと一つ重要なことがIT人材の育成です。IT戦略はできても、必要な人材がいなければ、ただの絵に描いた餅になってしまいます。そもそも、どのような人材が必要なのかを決めるのはやはりIT戦略です。IT戦略がクラウドやビッグデータ・AIの活用にシフトしていく過程で、例えばデータ・サイエンティスト等の育成が、従来のアプリケーション開発やテスト、そしてプロジェクトマネジメント等のスキルをもつ人材育成に加えて重要な課題になってきています。

今後の企業経営におけるCIOの役割と企業変革の方向性

ここでは二つのテーマを取り上げたいと思います。一つ目はCIOがリードするビジネスプロセス・トランスフォーメーションの重要性です。二つ目はビッグデータとAIを活用してビジネスの価値を創造し、会社全体をAI企業へと変革するデジタル・トランスフォーメーションの重要性です。

1.CIOがリードするビジネスプロセス・トランスフォーメーション
上述したように、グローバルガバナンスを確立し、ITコストとIT組織がCIOの元に集約化されれば、CIOは全社規模でのビジネスプロセス・トランスフォーメーションをリードすることが可能になります。

ビジネスプロセス・トランスフォーメーションとは、例えば管理、購買、人事、サプライチェーン、ITなどのビジネスプロセスを全社で(地域あるいは事業部ごとにではなく)簡素化して共通化することです。ビジネスプロセスの一部が全社で共通化されていない理由の一つとしては、現在または過去の一時期にITシステムの投資が地域ごとにばらばらに行われたことが挙げられます。CIO自身がIT投資の優先順位をコントロールすることによって、重要なビジネスプロセスの基幹アプリケーションを全社で統一し、同時に大きなコスト削減につなげることが可能になります。

ある企業の事例ではビジネスプロセス改革を通じて全社の社内アプリケーションの数を5年間で約40%削減することに成功しています。ただ上述したように、この改革を実現するためには、前章【IT戦略を実現するために重要ないくつかのポイント】で述べた4つのポイントを達成する必要があります。各企業のビジネス環境、過去の歴史などの要因で、これらの前提条件を達成することは短期間ではハードルが高い場合もありますが、達成することによって大きな成果を上げることができるのも事実です。

その場合の一つの提案として、まず全社グローバル規模でITコストとIT人員の可視化から始めるのが有効です。どの地域・部門で何のためにどれ位のITコストを使っているのか、何人のIT人員がいるのかがわかれば重複投資があるのかないのかも含めて多岐にわたることが見えてくる可能性があります。

2.デジタル・トランスフォーメーションの重要性
昨今様々な企業でビッグデータとAIを活用する動きが活発になっています。このテーマの中では、信頼できるデータを迅速に社内に提供してゆくということが重要です。

CIOのデータ戦略は、日々指数関数的に増え続けます。定型化データのみならず、画像、音声などの非定形化データの提供、さらには従来社内のデータのみの扱いで済んでいたものが、お客様のSNSやニュース配信などの社外のデータも同時に扱えることが重要になります。

これらのデータを社内に信頼できるデータソースとして提供するためには、データレイクと呼ばれる大きなデータのリポジトリーの構築が必要です。データレイクはいわば企業におけるデータのインフラで、AIを活用してビジネスの価値を創造するためにはデータレイクの活用が必要不可欠といっても過言ではありません。

今後の企業経営において、ITの果たす役割はこれまで以上に重要になっていきます。ビジネス戦略をサポートするIT戦略を策定し、実現することにより、グローバルレベルでの企業競争力を高め、激しいビジネスでの戦いを有利に進めることができると確信しています。



ライター朝比奈 勉氏(i-common登録顧問)

東京大学院工学系研究科修士課程修了後、日本アイ・ビー・エム株式会社に入社。大型システム製品保証等で様々なマネジメントポジションを経験後、10年にわたり同社のCIOを歴任。その後戦略コンサルティング事業部にて、お客様の様々な課題解決を支援。2018年からIT変革コンサルティング代表。

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