Eコマースから学ぶ「デジタルトランスフォーメーション(DX)」と「マーケティング」

マーケティング

2019年08月29日(木)掲載

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このコラムに目を留めていただいた皆さまに質問です。
(何らかの事業に携わっていらっしゃると想定しての質問です)

● 皆さまの事業の売上のうち、Eコマース(EC)からの売上の構成比は何%ですか。
● その売上高は去年と比べて何%伸びていますか。
● 売上成長は何によってもたらされていますか。
● その売上成長をさらに加速するには、何が必要ですか。


デジタルトランスフォーメーション(DX)に長けた企業は、こうした問いかけを組織として繰り返し、大量のデータを分析して答えを探し、既存の業務や部署に聖域を作らず、見直しが必要な改善策を実行しています。そして、こうした改善サイクルの精度とスピードをさらに上げるため、事業の至る所でデータを収集し、集積・解析してAIの機械学習などに活用します。

その結果、単純作業はもちろん、従来は人間が担っていた複雑な作業も次々と機械で自動化するので、生産性が上がります。一方で人間は、より複雑性の高い業務の改善活動や、創造性の必要な業務に取り組めるようになる、というわけです。

規模の大小は違っても、ECによる成長を達成している企業には、DXの重要性を体感し、習得している企業が多く見られます。プラットフォーマーであれ、リテーラーであれ、SPAやメーカーであれ、ECでの成長を目指す中で、こうした改善サイクルを地道に積み重ねています。その成果として、顧客に対する商品提案がより的を得たものになり、スピーディーな配送が可能になり、魅力的なメンバーシップなどを提供できるからです。

そして、その改善サイクルの効果はEC部門を超え、開発や生産など、他部門に対してもDXを促し、企業全体で生産性の向上を可能にします。

今回のコラムでは、こうしたECにおけるDXの推進の具体的な事例と、DXの効果を高めるマーケティング的な思考について書いてみたいと思います。

ECにおけるDXの実際

DXとは、ビジネスにデジタルのデータとツールを導入する「デジタル化」を前提にしています。

デジタルデータの分析により業務プロセスの非効率な部分を見つけ出し、変革し、事業の生産性を大幅に高める取り組みです。

ECは商品やサービスの情報をデジタル化して顧客に提供しているため、DXが促進されるのは当然だ、と思うかもしれません。しかしECであれ重厚長大な産業であれ、「慣れた業務からの変化を嫌う」という人間の欲求は基本的に同じです。その人間の欲求に反して継続的な改善を積み重ねるために、成功しているであろうECの事業者たちはどんな仕組みを導入しているのでしょうか。

いろいろあるとは思いますが、考えられる重要な特徴は以下の4点です。

1. 事実とデータで課題の「根本原因」を探す

ECではサイトを訪れた顧客の様々な行動をデータとして収集できるので、顧客が購入してくれた理由も、購入してくれなかった理由も、分析して推定することができます。自社のECサイトの何が良かったから購入につながったのか、何が悪かったから購入せずに去ってしまったのか。購入してくれた顧客だけでなく、購入してくれなかった顧客の行動も、自社のECサイトを改善する重要なヒントとなり、自社の課題を追究することができます。

2. 課題を数値化・指標化して「見える化」する

重要な課題とその根本原因が推定出来たら、次はその原因の深刻さを数値化・指標化します。例えば主力商品が売り上げ不振の時に、商品の機能説明動画を見てから購入した人と見ずに購入した人の購入率に大きな違いがあるとします。動画を見ている人が少ないことが根本原因なら、ECサイトを訪れた人の中で動画を見る人の比率をどう高められるかが、今後重要な指標になります。

3.「短サイクルの効果検証」を繰り返して対策を絞る
課題と根本原因がわかったら、それに合わせた対策は比較的容易に思い浮かびます。ただ、その対策で本当に効果が上がっているかどうかは、根本原因を表す指標の改善の様子をこまめに検証しないとわかりません。ECサイトなら毎日でもデータを取得できるので、改善の進捗は頻繁に検証できます。ECのスピード感で言うと、毎週検証するのというのは普通です。重要課題なら、毎日確認していてもおかしくありません。そうした検証の結果、対策が効果を上げていないと判断された場合は、再度原因を分析し、より適切な対策に切り替えることが可能です。

4. 更なる改善のため業務プロセスを幅広く見直し「全体最適化」を図る

こうした改善と検証を繰り返すうちに、効果のある改善策はECサイト全体に横展開して全体の底上げを図る、という発想も出てきます。先ほどの「主力商品の動画」の例で言えば、「主力商品に限らず、すべての商品に動画を用意しよう」、「メーカーが作った動画だけでなく、購入者から独自の動画を募集して掲載したらさらに購入率はあがらないか」などです。そうした発想を可能にするためには、サイト全体の作り方や、顧客にとってのサイトの使いやすさを大幅に変更していく必要も出てきます。こうしてECサイトは、見た目や使い勝手をどんどん変更して、顧客にとっての使いやすさ・買いやすさを高め続けます。

さらに、このような様々な改善の導入にあたって「社員の頑張りと残業で何とかしよう」ではなく「デジタル技術による効率的なオペレーションにしてしまおう」という発想をすれば、人の経験値や勘に頼った業務はどんどん減り、かわりにDXが浸透し、その企業の競争優位の源泉となっていきます。

マーケティング的なDX設計

こうしたDXによる成功を目指して、既に多くの企業が取り組みをすすめています。

しかし、それが大きな効果を上げて「DXの成功事例」と呼ばれる場合もあれば、導入の費用と手間の割に効果が上がらないようにみえる場合もあります。
その違いを生むものは、いったい何でしょうか。

先ほど「全体最適化」という言葉を使いましたが、成功するDXは部門ごとに独立した個別のデジタル化ではありません。「顧客の利便性や満足度を高める業務プロセス」を作るための、全社的な変革です。自社がどのくらい顧客満足を提供しているか、どこに改善点があるか、それを示唆する様々なデータは営業やマーケティング部門だけが取得できるものではありません。

例えばコールセンターに入ってくる顧客からの問い合わせや苦情は、非常に重要な顧客データです。1件の苦情の背景には同様のトラブルが10件以上隠れている、とも言われます。コールセンターが集めた顧客の問い合わせや要望をデジタルデータ化して社内で共有している企業はどのくらいあるでしょうか。ましてや、懸念の大きな問い合わせについてコールセンターから事業部側に積極的に問題提起したり、解決の優先順を挙げたり、場合によっては当該商品の販売中止を決めるような権限を認めるような仕組みにまで作り上げている企業はどのくらいあるでしょうか。

ECの売上構成比が高まったいま、顧客のデータとは毎月の売上シェアと年に数回のユーザー調査のデータだけではありません。ECサイトへの来訪者数、サイトでの商品検索のしやすさ、クリック率、転換率、商品在庫の欠品率、競合商品と比べた価格、配送スピードの速さ、カスタマーレビューの良し悪しなど、様々なデータが、自社の商品・サービスと顧客の関係性を評価するヒントになります。

こうしたデータの解釈は、もはや営業部や事業部だけで担える仕事ではありません。開発チームや物流チームなど、複数の部署がリアルタイムで顧客の情報を知り、最速で改善策を導入するプロジェクトに参画していく必要があります。そして、このような全社一丸での改善サイクルを1年も続ければ、非常に多くの改善項目が積み上がり、顧客満足度も顕著に上昇します。これができる企業とできない企業では、歴然とした差が開いてしまう、というわけです。

このように、顧客との接点で良い体験を提供し、自社商品の購入を促し、ファンを作り、再購入を生むことは、マーケティングの機能そのものです。ただ、デジタルの世界では、顧客接点の数も種類も大幅に増加します。たくさんの顧客接点を効率的に管理してマーケティング機能を働かせるためには、デジタル化、DXが必須です。逆に言えば、こうしたマーケティング的な視点で実施されるDXには、商品の価値を顧客に正しく伝え、顧客の体験を高めるための一貫した戦略があり、効果検証も容易になるのです。

以上のように、ECと親和性の高いDXにマーケティング的な視点が加わると、その効果と効率は極めて高くなります。では、ECとくらべて、顧客の購入体験への直接的な関与ができないメーカーの側からは、どんな取り組みが可能でしょうか、また、リアル店舗を中心にしているリテーラーはどのようにECと競争していくできでしょうか。

今回は紙面の関係で割愛しますが、まずは直接の顧客接点として自社のECサイトを作り、顧客体験を研究することです。データを収集し、分析し、改善と検証のサイクルを回しましょう。自社のEC事業を始める企業は増え続け、その顧客体験の品質も向上しています。そうした企業は、成功しているECプラットフォーマーの強みや弱みを研究することからも、自社ECの成功のヒントを得ています。

おわりに

ご存知の方も多いと思いますが、平成31年5月に経済産業省が発表した日本のBtoCでのEC化率(2018年実績)は6.2%、ECでの販売額の伸び率は前年対比で8.1%の増加でした。商品別分類では家電・AV機器や、書籍・CD・DVDなどのEC化率は30%を超えており、事務用品・文房具に至っては40%を超えています。

家電や文房具に比べて全体平均が低いのは、最大分類である食品・飲料・酒類のEC化率がまだ2.6%しかないためですが、それでも販売額は前年より8.6%成長と、他の分類より高い成長率です。つまり、ECはほぼすべての商品カテゴリーで主要な販売チャネルのひとつとなり、すべての商品カテゴリーで構成比をさらに伸ばし続けている、ということです。

さて、皆さまの事業のEC化率とEC販売額の伸び率は、該当するカテゴリーの平均値を超えているでしょうか。

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出典 経済産業省「平成 30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」



ECにおけるDXの成功を理解すれば、事業全体でマーケティング機能をも高めることができます。その効果は、EC以外も含めた企業全体への顧客満足度の向上です。

こうした仕組みづくりに興味をお持ちの場合は、i-commonまでぜひお声掛けください。皆さまが喜ぶような、より良い事業を作るお手伝いができればと思います。

※記事は執筆者個人の見解であり、パーソルキャリア株式会社の公式見解を示すものではありません。

ライター白子 雅也氏

P&Gジャパンとユニクロでマーケティングを経験した後、AmazonでEコマースの事業部を複数経営。1時間配送のPrime NowやネットスーパーのAmazonフレッシュのビジネス構築をリード。2019年から新規事業創出やマーケティング、DX、コーチングなどのコンサルティング業務を開始。

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