話題の5G~あなたの知らない携帯業界~

研究開発

2019年06月18日(火)掲載

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 携帯電話業界では令和元年を5G元年と呼んでいます。既に韓国、米国やスイスでは5Gのサービスが始まっており、日本でも今年の9月からNTTドコモが無償のプレサービスを開始すると発表しています。そして、いよいよ来春には本格的な商用化5G サービスが始まる予定です。

 今や小学生もスマホを持つ時代です。しかし、5Gという言葉を聞いたことがあっても、いったい5Gで世の中の何が変わるのかよくわからないという方も多いと思います。一方、昨年末には突然中国のファーウェイ(華為技術有限公司)という通信機メーカーがニュースになり、「米中5G戦争」などという不安をあおる雑誌やポスターを通勤電車の中で見た方もいるでしょう。

 本コラムでは5Gモバイルとは何なのか、今までの携帯電話やスマホと何が違うのか、分かりやすく解説してみたいと思います。

5Gの3大特長と用途開拓

 5Gの3大特長と言われているのは、①超高速・大容量、②超低遅延、③超多数接続です。

 ①の超高速・大容量は現在のスマホの100倍の速度で通信できることを意味しており、2時間の映画をわずか数秒でダウンロードできるようになります。

 また、②の超低遅延は利用者が遅延(タイムラグ)を意識することなくリアルタイムで通信できるようになり(無線部分だけで1ミリ秒)、例えば自動運転の路車間通信や車車間通信に必要な技術となります。

 最後の、③の超多数接続はIoTと呼ばれるモノのインターネット時代に欠かせない技術で、あらゆるものにセンサーを付けてビッグデータを集めることができるようになります。

 さらに、5Gでは無線技術の改良だけでなく、MEC(モバイル・エッジ・コンピューティング)という考え方も導入されようとしています。皆さまがスマホでネットにアクセスした際に、携帯の電波で基地局につながった後、クラウドと呼ばれるサーバー群に情報が送られ、検索や音楽のストリーミングをしています。サーバーまでの距離が物理的に遠い時は、無線部分だけが超低遅延の5Gであってもネットワーク全体では数百ミリ秒の時間がかかってしまいます。

 YouTubeの動画を楽しむだけなら、それでも特に問題はありません。しかし、これが自動運転で交差点に差し掛かっている車同士のような場合は致命的な事故につながりかねません。そこで、距離の遠いサーバーにアクセスするのではなく、各基地局にサーバーを置いて反応速度を向上させる技術がMECです。クラウドの端(エッジ)にある基地局が計算処理能力を持つことから「モバイル・エッジ・コンピューティング」と呼びます。

 MECでは反応速度が向上するだけでなく、各基地局のサーバーで分散処理することで、クラウド内のサーバーの負荷を下げる効果もあります。

 これらの技術をうまく活用すると、いままでのスマホの延長線上だけではない、建設、医療、交通、教育などさまざまな用途産業への広がりが期待できるようになります。ただし、「うまく活用する」という点が重要です。携帯電話業界の中だけで考えても、異業種の真のニーズを把握することは難しいため、様々な業界で今までにはないユニークなアプローチが試みられています。

 例えば、総務省では2017年から毎年予算を確保し、5G総合実証試験を実施しています。これは公募制で、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3事業者が手掛けているのですが、ユニークなのは必ず用途産業の異業種パートナーと組んで実施している点です。

 一例としては、NTTドコモは警備会社のALSOKと組んで、高画質の監視カメラと顔認識技術などのAI技術との組合せで現在の4Gでは予測しにくい防犯体制の構築を検証しています。さらにNTTドコモは和歌山県の県立医科大学と共同で遠隔医療診断の実証試験も続けています。

 またKDDIは大林組と組んで無人のショベルカーなどの建設機械を遠隔操作する実証試験を繰り返しており、沖縄の野球場では複数視点の動画を球場内に配信し、観客が手元の端末で好きな画像を選べる実験をプロ野球のオープン戦で実施しました。

 さらにソフトバンクは公道で3台のトラックを使って自動隊列走行を実施し(先頭のトラックだけには運転手が乗っています)、また事務機メーカーのイトーキと共同でスマートオフィスの実験も手掛けています。

 また、総務省は昨年末に5G利活用アイデアコンテストを実施し、一般からのアイデアも募集しました。総務大臣賞に選ばれたのは、愛媛大学の教授が提案した地場産業の造船業への応用でした。造船所では高技能工員が高所のクレーンで終日働いているのですが、5Gを使った遠隔操作でその職場環境を改善し、安全を確保し、さらには熟練技能の伝承にもつなげようというアイデアです。これは今年度の5G総合実証試験で実施される予定です。

 各携帯事業者も自主的に用途産業の掘り起こしに努めています。特に積極的なのがNTTドコモで、昨年1月に立ち上げた「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」には、当初453社が参加していましたが、2019年5月現在ではなんと2600社超にまで拡大していると公表しています。業種別にみると、サービス業、卸売・小売・飲食業、製造業が上位を占めます。そのほかにもメディア、建築、交通、自治体、金融、メディカルと多岐にわたります。それだけ5Gによる用途産業の可能性が広がっているということなのでしょう。

5Gの必要性

 日本の2019年3月末の携帯電話契約数は2億超であり、半年で630万増と堅調に増加しています。しかし、問題はスマホの台数ではなく、トラフィックと呼ばれる通信データ量の増加です。トラフィックは毎年約1.4倍増ですが、ここには「オフロード」は含みません。

 「オフロード」とは何でしょうか。皆さまも自宅でスマホを使う時は、自宅のWi-Fiにつないだり、カフェで使う時は公衆ホットスポットに接続して、毎月のデータ契約量の上限に近づかないよう注意していると思います。このWi-Fi接続でスマホを使うことをオフロードと呼びます。そして、困ったことにこのオフロードでやり取りされるデータ量がどれくらいあるのかは把握できません。そのような状況にもかかわらず、スマホの(携帯電波を使った)トラフィックが毎年1.4倍で伸び続けているということは、オフロードも含めたデータ通信の真のニーズは毎年2倍くらい伸び続けているのではないかと推察されます。

 実はオフロードを含まなくても、すでに都会の携帯電話ネットワークは、その大量のデータ通信であふれそうになっています。都内の新宿、渋谷、池袋、六本木、品川といった場所では、「トラフィックあふれが常時発生し、慢性的にネットワークの容量不足に陥っている」といわれています。そして、これこそが5Gの早期導入が求められる大きな理由の一つになっているのです。

 さらに、5G時代のもう一つの課題は、ワイヤレスネットワークだけではなく、基地局や交換局同士を結ぶ有線の光回線にもあると言われています。日本の光通信の速度は年々悪化し、このままでは5G普及の足かせになると指摘されています。光回線の多くを占めるNTT東西は契約の伸びが鈍化する中、YouTubeやNetflixなどの大容量動画サービスの普及で通信量が急伸し、設備投資が追いつかない状況です。

 電話会社は速度別料金体系なども検討していると言われていますが、政府は2019年度から52.5億円もの予算を確保して、自治体や電話会社に対する整備支援をする計画です。これほど話題豊富な5Gですが、2024年には全世界の携帯電話加入者数は89憶ほどに達し、その17%に相当する15億の加入が5Gになると予測されています。

楽天参入と周波数割り当て

 総務省の指導による通信料金と端末代金の完全分離方針、そして販売代理店の届け出制導入により、ゼロ円端末や2年縛りのような囲い込みが抑制される予定です。既に電気通信事業法が改正され、現在は今年の秋ごろの施行に向け、具体的な省令案が検討されています。

 そのような中で今後の携帯電話業界の話題になりそうなのが新規参入する楽天です。楽天はまず今年の10月から現行の4G技術でサービスを始めますが、来年下期には5Gの導入も計画しています。そして、ネットワークの仮想化と呼ばれる最新のインフラ技術で、大幅に設備投資額を抑制し、4Gから5Gへの移行もスムーズにできるとしています。

 総務省は今年の4月に楽天を含む携帯電話事業者4社に5Gのための電波を新たに割り当てました。電波は国民の共有財産であるため、総務省が許認可権を持って、技術的に使いやすい低い周波数から順次割り当てており、5G用には3.7GHz帯と4.5GHz帯、そしてミリ波と呼ばれる28GHz帯が新たに割り当てられました。今回、NTTドコモもKDDIもソフトバンクも、そして楽天もこの28GHz帯を400MHzずつ割り当てられたのですが、従来の携帯電話用の電波と同様に扱える6GHz以下の周波数(サブ6と呼びます)と全く異なる特性を示すのが28GHz帯です。

 ミリ波というのは周波数が30GHz以上、つまり波長が1mm以下の高い周波数を示す言葉ですが、28GHz帯はほぼこのミリ波帯に属します。電波は周波数が高いほど直進性が増し、遠くまで届かず、扱いにくいのですが、広い帯域を確保できるので大容量通信が可能になります。しかし、遠くまで届かないために同じエリアをカバーするには多くの基地局が必要となります。それを少しでも補うために、「ビームフォーミング」という技術で特定の方向に集中的に電波を発射することで少しでも遠くに飛ばす工夫もしています。これは基地局側だけでなく端末も同様です。例えるなら、灯台の光のように絞り込んだ光を手元のレーザーポインターの光で受けるようなもので、非常に高度な技術になります。なお、この28GHz帯は米国でも韓国でも同じ周波数帯を使っています。

ローカル5Gの登場

 2019年に入り、総務省はローカル5Gと呼ぶサービスのために、4.7GHz帯と28GHz帯で新たな周波数を割り当てることを決めました。そして、まず今年度中に28GHz帯の一部を割り当てることになっています。

 そもそも5Gとは無線通信技術の名称です。必ずしも周波数に依存するわけでもなく、また携帯電話事業者が運営しなければいけないサービスではありません。ローカル5Gは文字通り、工場のような建物の中や、建設現場などでの一時的な利用目的などで、インターネットにもつながず、セキュリティを確保しながら5G技術で高速大容量、多数接続、低遅延のメリットを活用しようというサービスです。

 既存の携帯電話事業者がサービス提供しても良いことにはなっていますが、総務省は携帯電話事業者に対し、まずは新たに始める全国レベルの5Gサービスのエリア展開を優先するよう求めています。そして、仮にローカル5Gに参入する場合も、その土地や場所や工場などの所有者から委任・同意を受けなければいけないとされています。

 しかし、現実には例えば工場内であっても、5Gの基地局を効率良く設置するには無線通信の技術とノウハウが必要なので、専門家の力が求められます。既存の携帯電話事業者などはそのようなコンサルティング事業にも関心を示しています。このローカル5Gはまた新たな5Gの可能性を広げるものと期待されています。

※記事は執筆者個人の見解であり、パーソルキャリア株式会社の公式見解を示すものではありません。

ライター大西 完司氏

1980年代半ばからエレクトロニクス機器業界の大手企業で携帯電話の商品企画や事業戦略に従事。近年は産官学の5G推進団体「第5世代モバイル推進フォーラム」のアプリケーション委員会副主査や総務省の5G基本コンセプト作業班の構成員を務め、2018年から現職のIT業界の企業にて監査役に就任。

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