デジタルマーケティングの組織が「確立」した企業で起こること

マーケティング

2020年02月07日(金)掲載

実際に私がプロ人材として関わらせて頂いた企業様で、どのような「変化」と「飛躍」が発生したのかということについて、可能な範囲で具体的にお話をさせて頂きたく思います。どのような課題を感じていた企業様が、何に取り組み、どのような具体性を持って「(デジタル)マーケティング」を成していったのでしょうか。そのイメージに少しでも、リアルに触れて頂けますと幸いです。

また、デジタルマーケティングとはなにか、デジタルマーケティングの戦略と戦術とは、という基本的な考え方については、別に2本のコラムがありますので、併せて読んでいただくと理解が深まると思います。

多くの企業が持つ課題 「餅の絵」は描いたけれど……

実は、戦略が「戦略のまま止まっている」という企業様は案外多いものです。経営陣は(時に外部の力を借りながら)経営課題や、経営方針を元に、年間の売り上げ目標や、中期経営計画、さらに具体性を持つならば人員計画などにまで落とし込み、売り上げの見立て、設計を行い、と青写真を描きます。

企業が継続的な成長を行うためには、この成長戦略=「餅の絵」を描いたうえで、社内外に浸透させていくというスキームが必要不可欠だからです。

ところが、多くの企業様が、これが特に社内の「現場」に落ちない、上手く回らないことに困っていらっしゃいます。たとえば、マーケティング領域ですと、このような感じで現場が詰まっています。

・新しい事業を盛り上げたい →どこから始めたらいいのか
・既存の事業の売り上げを伸ばしたい →何をするべきなのか

目標があっても動かない、要するに現場での「具体性」におちていないということです。ただし、その課題を意識しながらも、経営層の方々が異口同音におっしゃることは「これから(の更なる飛躍に)は、マーケティングが必要だ」ということです。

だからこそ、我々「マーケティング専属プロ人材が果たすべき使命」とは、これら「絵に描いた餅」を「食べられるように」することです。そこで、最初に必ず行うことが「マーケティングの仕組み化」であると言えます。なぜ、大規模なキャンペーン展開などではなく「仕組み化」を優先するのでしょうか。

本日は、過去に私が関わった「マーケティング仕組み化の基本ステップ」と「その効果」について、少し事例を交えながらお話をしていきたいと思います。

STEP1 戦略立案~全員が同じ方向を向く

やはり自社の商品を「誰に何を売るのか?」と、最初に決めていくことは、全員が同じ認識を持つことに繋がります。したがって、これを最優先に整理していきます(これらは、研修などを通して実施されます)。

たとえば、その結果、その企業が現在のWebサイトに「足りないコンテンツ」を見つけたとしましょう。問題はその次で、担当者は「そのコンテンツは今後の展開において、どのくらい緊急に用意する必要があるのか、はたまた重要なのか」という質問に対して、役職・立場関係に振り回されることなく「判断・上申」していく必要性が出てきます。

そこで、経営層の説得に足る「誰が判断しても同じような回答になる」為に必要な素地が必要となります。その判断の源泉が「戦略」なのです。狙うべきターゲット、自社の強み、その見せ方など。

これらを、経営層以下と関係者が正しく理解していれば、目の前のサイトの「あるべき未来の姿」を策定しつつも「明日、できることは何なのか?」を同時に考え、また、だれもが「同じような回答に行きつき、決断し、上申を果たす」ことが出来る様になります。

それが成された企業様では「なぜ、この施策をしているのか」という質問に、答えられないマーケティング社員は存在しなくなります。それが、いかに強固な組織かは言うまでもないでしょう。

また、このような企業様では、経営層は「現場が何をしているのか、何のためにしているのか」ということを理解しており、現場は「経営陣の了解を経て動ける」と、自信を持って業務に取り組むことが出来ています。

たとえば、私のお客様の事例ですと、構築したストーリーを元に、中長期的なWebサイトのリニューアルの計画を遂行する一方、現在の応募フォームの質問を「たった1つ」変えたことで、申込を前月比150%になった事例があります。

これは、直近においては大きな成果ですが、中長期を考えれば「まだ、はじめの一歩」に過ぎません。メンバーは、その結果に浮足立つことなく、着実にプロジェクトを進行していきました。

彼らは「大きなリニューアルに備えて、目の前の改善をしないのも間違いですし、日々の小さな改善に追われて、ツギハギの様な施策になるのも誤りだ」と、「戦略策定」を通じて、理解していたわけです。

戦略立案と、その共有こそが「強固なマーケティング組織を構築する仕組み化の第一歩」と言える良い例と言えるでしょう。

STEP2 数値化~全員が同じ言葉で会話する

時に広告やプロモーション施策でありがちなのが、声の大きい人の意見に流されてしまうことや、役職の高い人の意見を優先してしまうということです。こういったことを無くし、公平・公正を期するために絶対に必要なのが「数値化」です。数字は雄弁です。感覚で語ることを許しません。少し事例を出してみましょう。

次の3つを読んで、3人に優劣をつけてください。

A君「テストの点が悪かった」
B君「テストの自己採点が55点だったよ」
C君「テストが55点だっただけど、クラスで1位だったよ」

さて、あなたは、誰が「最も優れている」と思いましたか。

答えを書くと、A=B=C君。つまり、彼らは「同一人物」です。しかも、さらにいうと、これは彼が同じテストに対して「言い方を変えただけ」です。しかし、恐らくあなたは、3人に対して「違う印象」を持ったことでしょう。

A君は「主観」、B君は「絶対評価」、C君は「相対評価」なのですが、この例のように、マーケティング報告を「数字を伝える文化」として徹底的に意識してもらうことで、その企業の風土が変わり、わずか数か月で、マーケティング組織が評価されるようになったという事例があります。

無論、その行程においては「数字の見かた」や「優先度の付け方」など、あまた無数にある「数字」についての理解を深める必要はあった訳ですが、ただ、ひとつ勘違いしないでほしいのは、これらすべては「算数」であり、難しい統計でも、数学の世界でもなかったということです。

もともと担当者は「君の意見は聞いていないと言われる」と悩んでいた訳なのですが、彼が「数字の徹底」によって、自信を取り戻したことは言うまでもありません。

彼は経営層に対し「主観」の報告をせず「数字」を使うという武器を手に入れ、自社のあるべきマーケティングをロジカルに推進できた訳です。

無論、経営層が安心して予算を預けたことは言うまでもないでしょう。

STEP3 PDCA~各人が、より視座を上げる

3は、1と2を受けての将来像となるのですが「戦略と数値化が徹底されている」様では「指標が高度化」していきます。たとえば、あるBtoB企業様があるとします。これまでは「資料の問い合わせ件数」だけを見ていた企業様が、

(1)資料の獲得単価を見るようになり、
(2)それらを、商談化率と掛け合わせるようになり、
(3)その商談の成約率を求めるようになり、
(4)その成約の平均単価を見るようになり、
(5)成約した顧客の解約率まで目を通すようになる

というように「1つの資料請求の先にある、終わりまでのストーリー」を追い始めるのです。無論、企業様としては「ロイヤルカスタマーになる確率が高いユーザーだけを、効果的に集客するアプローチ方法」がわかっていれば、それに越したことはありません。

ただ、一つ忘れてはいけないことは、このような「高度な施策」を展開する企業様も、最初は「(1)だけを見ていた」という時代があったはずです。それを少しずつ、事業とスタッフの成長に併せて育んでいった訳です。

ここまで行きついた企業様では、いわゆる多くの企業が「説明できない」としているテレビCMや、認知系の記事広告を数値化~分析することも珍しくありません。

彼らが巨額の費用を認知系広告に投じるのは、単純に彼らに予算があるからだけではなく「それらを可視化することで投資対効果を経営層に対して証明することが出来るから」という側面もまた、存在しているということです

まとめ

特に「デジタルマーケティング」と言うと、どうしてもホームページやSNS、検索連動型の広告と言った「手法論」ばかりが先行しがちですが、その実、よく考えてみれば、それらはすべて「手段」に過ぎず、上記に述べたような「仕組み」や「文化」の中にあって、はじめてデジタル最大の特性ともいえる「数字になる」という長所を生かるようになります。

シンプルに数字を見るのではなく、戦略という大局とその「目的」を持ち、数字を見て、それを「相対的」に見ることで客観性を持たせて経営の指標と繋いでいく。

それこそが、いわゆるマネジメントレイヤーのマーケターに求められる本来の資質であると思います。そして、それはいわゆる純粋なコンサルタントとは違い、企業様と共に歩む「プロ人材だからこそ持てる視点」でもあると私は感じています。

執筆者D.S氏

マーケティング担当者として豊富な実務経験を持ち、各社の業績向上に寄与。その活躍により、多数のイベント登壇、商業出版などを果たす。
その後、マーケティング専属プロ人材として独立。業種・国内外を問わず、マーケティング課題解決のプロとして活躍中。

関連コラム

ページTOPへ戻る