企業がとるべきパンデミック感染症対策と事業継続計画(BCP)②

法務/ガバナンス

2020年03月17日(火)掲載

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事業継続計画(BCP)とは何か?災害対応と事業継続の区分の必要性

BCP(事業継続計画)とは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです。(中小企業庁 中小企業BCP策定運用方針より)

災害等の事案が発生した際に、行う対応が事業継続として混同されやすいですが、両者は区分して考え、連携して実施することが必要です。「災害対応」と「事業継続」は下記の点で違いがあり、実施する場所や組織階層が異なっています。

・目標の違い
災害対応…目前で発生した事象に対して対応する。例えば、地震で天井崩落により発生した傷病者の救出・救護や、配管破損による漏水の止水、火災の初期消火など「人命救助・二次災害防止」が主たる目標となる。
事業継続…発生した事象の事業に対する影響を最小限に止め、企業を存続させる。例えば、停止した工場の影響に対し早期再開と代替え生産、代替品調達などの対応を行い顧客のニーズ対応を中断しないことが目標となる。

・担い手の違い
災害対応…被災した現場や総務部門等が中心となり、対策本部体制を編成して対応する。予め準備した資機材を使い、事前の訓練で錬成したスキルが重要となる。
事業継続…顧客のニーズにどのように夢対応するかが重要であり営業部門が主軸となる。また、事業の取捨選択等経営判断を伴うことから経営陣が行う必要がある。

・事案ごとへの対応の違い
災害対応…災害ごとに対応は異なるため想定される災害ごとに対応計画を検討し、資機材を揃え、訓練する必要がある。
事業継続…発生事象の災害ごとではなく、経営資源に対する結果事象のインパクトに対して検討する必要がある。例えば、原因事象としては地震・風水害・電力事故のいずれであっても、停電による「システム障害」という結果事象に対する対応を検討する。

このように「災害対応」と「事業継続」は異なる点がありますが、特に事業継続は経営活動そのものに直結するため、軽々しく「本物」は外部には出てきません。現在展開している事業の優劣や将来の投資意欲、場合によってはM&A の意向など現場や株主等に知られてはならない事項まで踏み込む場合もあります。逆に、災害対応は取り組んでいることがステークホルダーの安心にも繋がるため開示されているケースもあります。このため「災害対応=事業継続」と誤解される要因にもなっていますが、事業継続は経営戦略であると考えるべきです。

事業継続としての対応

孫子に「彼を知り己を知れば百戦して危うからず」との言葉がありますが、事業継続における「彼」は災害ではなく「結果事象・事業への影響事象」です。
では、感染症対策として考えるべき事業継続はどのようなものか考えてみましょう。
結果事象・事業への影響事象としては次のようなものが挙げられます。

・顧客ニーズの変化
従来と異なる要求を行ってくる場合があり、商品やサービスそのものではなく提供の形態にまで要求が及ぶ場合があります。例としては、マスクの着用が今回も多数見られました。食品や清掃などマスクを平常時からつけている企業以外では「想定外」となったところも多く、店頭からマスクが無くなったため調達に支障がでています。マスクの生産の大半が海外だったこともあり、国内製造を増産しているが需要に追い付いていません。マスクの感染予防効果には懐疑的な見方もありますが、顧客要求に対しては応じる必要があり、自社にて手作りで行った企業も報道されました。このように、事案対策として何かを足さなくてはならない場合もあります。

・市場の変化
発生した事案の影響で市場が大きく変化してしまう場合もあります。今回の新型コロナウイルスでは、中国人観光客の大幅減少により観光業などで大きな打撃となりました。このような変化は感染症だけでなく、旅行客の志向の変化、航空機の運行状況、周辺での大規模災害など、感染症以外の要素でも影響が出る場合があります。また、イベント自粛や外出自粛により功業飲食業にも大きな影響が出ています。一方、デマに端を発したトイレットペーパー等の不足は逆に考えればビジネスチャンスでもありました。あの時期に在庫と商品供給が可能であれば、宣伝効果と売上増加の機会であったのです。このように著しい市場側の変化にも柔軟かつ迅速に対応できることが事業継続として重要です。

・サプライチェーンの影響 リソースの不足 
新型コロナウイルスの感染拡大はグローバル化したサプライチェーンにも大きな影響を与え、部品供給の停滞により工場が停止するなどの影響も出ました。国内でも感染拡大の地域とそうでない地域があり、生産拠点と協力業者の立地により感染拡大地域では影響が出ています。このように経営資源において「何か不足」する事態は、事前に代替え策を検討しておかなければ、事案発生後では調達が難しい場合があります。近年は製品について様々な認証を得ている関係から、部品の交換が設計全体や認証の取り直しなどに繋がる場合もあり、単なる代替えだけでなく事業の継続そのものを再検討する必要に迫られる場合もあります。

・世界的広域リスク 他の地域からの調達困難
感染症における事業継続が他の災害対応に比較して厳しい状況に置かれるのは、感染症の感染拡大により世界的な広域リスクになる場合があるからです。地震や津波なども広域災害ですが、世界中が巻き込まれる感染症ではリソースの調達が困難になります。例えば、マスクの国内での不足を海外の支店を通じて購入していた企業は、感染拡大と共に海外でも調達が難しくなります。このように、事業継続の一つの柱としての「他の地域からの調達」や「代替品調達」「被災地域外協力業者による代行」等の対策が困難になる場合があります。この点は、地震を元に事業継続を考えていた企業にとっては厳しい状況であると思います。

今後の備えとしての事業継続の対応

新型コロナウイルスの感染収束は原稿執筆段階では見通せませんが、今後の備えも含めて事業継続のポイントをいくつかご紹介します。

・財務力の確保
まず必要なことは、市場変化・ニーズ変化による大幅な売り上げ減少に対する支払い能力の確保が重要です。売上は減少しても施設経費・人件費等の固定的経費は減りません。また、季節もの商品等は販売の機会を失って不良在庫化することも懸念されます。しっかりした財務基盤を確保することが重要です。場合によっては資産売却や融資等を利用して財源を確保することも必要な場合もあると思います。

・事業の棚卸と仕訳
現在行っている事業について投資額や利益率、将来性など自社の経営指標に基づいて再確認を行います。現在の感染症拡大と終息後の市場動向を見越したうえで、事業の継続・拡大・縮小等を経営戦略として検討する必要があります。なお、一旦縮小した市場は再成長する可能性がある場合があります。それまでのシェアや優位点がリセットされる可能性もあり、新たなビジネスチャンスを掴めるかもしれません。マイナスの影響だけでなくプラスの影響も考慮して検討する必要があります。

・ボトルネックの確認
ISO等に取り組んでいる企業は、業務プロセスが可視化されていますので、この機会にボトルネックの再確認を行いましょう。その上で習慣的になっているプロセスや冗長なプロセスを整理しましょう。ハンコ文化や根回し文化を減らすことに努め、ネットワークで記録を残し業務を進め ていくことが生産性の向上に繋がるでしょう。また、会議のための資料作りも止める勇気が必要な時代だと私は考えています。経営に必要な指標は会計システム等で分析できる時代です。事業継続を進めることで業務の効率化を図ることが重要です。事業継続の取り組みは危機管理の取り組みと言うより、業務改善の取り組みとして進めましょう。

・ 連絡先リストの整備
テレワークやメールによる業務連絡などの活用により、便利さは増します。但し、メールなどの一つの連絡方法だけに頼るのではなく、携帯電話・メール・ショートメッセージ・SNSなど様々な連絡方法を確保してリスト化しておきましょう。また、先方担当者だけでなく、他の担当や上司の連絡先も確保しておきましょう。彼我の担当者が病欠となった場合でも、会社同士の連絡が取れるように連絡先リストを再整備しておきましょう。

・業務マニュアルの再確認
事業継続に、特別な現場の事業継続マニュアルは必要ありません。現場は今現場を回しているマニュアルと障害対応のマニュアルが重要です。もし、事業継続であるからと言って特別な手順や権限が必要になるのであれば、平常時からその取組みをしておく必要があります。一方、現場のマニュアルは更新が等閑になりがちです。現状に合わない事項やシステム、レイアウト変更などに対応していることの確認が必要です。事業継続発動においては危機的状況に対する「三割頭」または未経験者でも業務マニュアルに基づき業務を回せることが重要です。現に行っている業務のマニュアルが重要です。

事業継続は「貴方の会社の事業継続」です。近道やテンプレートはありません。同じ業界の同規模の会社でも、社内事情や顧客との関係、在状況や設備・施設の状況など条件は様々のです。

重要なことは「身の丈」と「汗をかくこと」です。立派な事業継続計画ファイルをコンサルタント会社に委託して作成してもらったとしても、社員に浸透しなくては意味がありません。とはいえ、講習会程度では事業継続は会社の文化・財産にはなりません。知識と技術の不足を補うためにコンサルタントに相談することは良いことです。しかし、重要なことは、自社の経営陣と社員が少しずつでも「汗をかいて」取り組み、会社の「身の丈」にあった事業継続を創り上げて改善していくことです。明日のための取り組みが事業継続です。

ライターH.K氏

日本大学卒業後、生活・公共サービス業界の大手企業 に37年間勤務。施設管理と危機管理の取り組みを行い、取締役常務執行役員を最後に2019年に独立。事業継続や災害対応に関するコンサルティング・セミナー・訓練等を行っており、判りやすい説明と実戦的訓練に定評がある。

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