BtoBマーケティング①
なぜ、BtoBにマーケティングが必要なのか

マーケティング

2020年03月03日(火)掲載

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BtoBマーケティングに課題を抱える企業は非常に多くなっています。そのBtoBマーケティングを3回連載で解説をいたします。まず初回は、BtoBマーケティングの特徴とそれが必要な理由を探っていきます。

経営環境の変化


バブル崩壊以降、日本経済界に言われて久しい「失われた10年」は20年になり、既に30年を超えようとしています。最近では、2030年に日本のGDPがマイナス成長を始め、2050年には先進国から外れることまで危惧されている状況です。

その間、各社リーダー達が発信してきたキーワードは、構造改革、イノベーション、トランスフォーメーション等と時代に合わせて多岐に亘ってきましたが、果たしてそれらが日本の経済力発展に向けて機能してきたのでしょうか。
グローバル化、人生100年時代、VUCAの時代またはシンギュラリティなどが叫ばれ、各社の経営を取巻く環境の変化は、今後ますます加速していき、従来の取組を大きく変革させることが今まで以上に求められます。特に人が取り扱う情報量は新旧の世代間に歴然とした違いが起きており、それによって人が多様化することは、その企業経営にとっての変革の必要性を物語っています。

企業はそれら変化への対応を続けています。
筆者自身の経験にもありますが、経営効率向上へ向けて業務変更やITシステムの導入などを推進してきました。しかし今振り返ると、本質的な全体最適の観点に不十分だった点があったと気付かされます。やみくもにIT化やオートメーション化をすることによってその業務がブラックボックスになってしまい、仕事のやり方を変革しようとしてもその影響度を把握できなくなってしまうことがありました。また、ソフトウエアや設備に関するノウハウが人に蓄積されなくなってしまうために、緊急時の操作に問題が出てしまうことなどもありました。マーケティングの分野でもデジタルマーケティングやマーケティングオートメーションなどの言葉も飛び交っており注意が必要だと感じています。

先進国であるほど環境変化にさらされていますが、特に日本は超高齢化社会として注目されています。日本のGDPにおけるEC取引では、企業間取引額が消費者の消費額よりも圧倒的に大きく、またBtoBの企業数はBtoCと比較しても同様に多い状況です。このようなことから、日本経済界全体を見るとBtoB企業の変革への期待は大きく、BtoBマーケティングの強化は急務であると言えるでしょう。

マーケティングとは?

競争が激化する中で各企業に求められるのは、上述のような変化する経営環境の中で自社の競争力を見出して強化していくことです。そのために必要なのが、「マーケティング」であり、それは企業としての思想と思考から成る戦略です。
有識者が示すマーケティングの定義は様々です。それだけ広い意味を持っているということですが、筆者は以下の様に定義しています。

市場に適合するため、 ⇒ 変化する市場とお客様のベネフィットになる価値を提供する
又は 市場を創出するために ⇒ 時にはたとえ売れなくても、提案する専門性と技術を持つ
企業全体の活動を変革し、 ⇒ 事業だけでなく、支える管理部門も含めた全社での変革
社会貢献を継続すること。 ⇒ 社会に必要なビジネスであるからこそ持続的成長が求められる

しかし現実には、マーケティングという言葉を宣伝広告の視点のみで使用されていることが少なくありません。
新規客のMind Share獲得や、既存客のLoyaltyアップなどのための認知を推進することは重要であり、そのために宣伝広告に投資をします。しかし、そのコンテンツが示している実態をカスタマーエクスペリエンス(CX)として実現するための全社視点が必要です。
リードジェネレーション、ナーチャリング、ソリューション提案、アフターサービス、クロスセル、アップセルの様にお客様とのコミュニケーションをストーリーとして拡大していく前提は、お客様に必要とされる商品やサービスです。
更には、信頼される企業としての継続的な活動がその基盤であり、その方向性を確固たる信念としてのビジョンで表現して浸透させねばなりません。
それを持続的に活動することによってお客様と共に未来社会を共創するのであり、ブランドプロミスを体現する中でお客様とのWIN-WIN関係を築く活動全てを意味するマーケティングは、相手のある全ての活動に必要な思想であり思考であり【経営そのもの】なのです。

BtoBマーケティングの特徴

BtoBはBtoC以上に環境変化から受けるインパクトが大きいと言っても過言ではありません。例えば、消費者行動や市場からの需要だけではなく、規制、原材料、社員またはパートナー企業、更には政治や技術動向などは代表例で、そのような環境変化を把握し、そこから市場理解へと繋げることはBtoBマーケティングの難しさの一つです。

そしてBtoCと最も大きな違いは、お客様の購買における意思決定方法です。
少し乱暴な表現かもしれませんが、BtoCでは主に嗜好性によって購買商品選定が決定される一方、BtoBではROIと信頼性がベースになります。


図:筆者作成

BtoBでの購買の多くは組織としての導入であり、そこには多くの人(提案者、決裁者、購買担当、ユーザー、契約元会社等)が絡んで意思決定されるため、それぞれのお客様を理解する必要があります。それがBtoBの難しさと言えます。
また、判断材料に経済価値である「ROI」が求められることも難しさの一つです。お客様にとっては業務改善が目的であるために「信頼性」が重要なキーとなり、お客様社内の関係者全員の同意と承認が必要です。これが購入意思決定までに長い時間が掛かる理由でもあります。

ここまでBtoBマーケティングの特徴をご紹介しましたが、下記にもう一度整理します。
・様々な外部環境変化に影響を受けている
・購入決定までに多くの人が関係する
・導入によるROIと商品/サービスの信頼性が求められる
・購入意思決定までに時間がかかる

BtoBのお客様は「働く組織」です。
従ってBtoB企業は、経験に基づく専門性の高いナレッジや技術力に長けています。それこそがBtoB企業の特徴であり同時に強みなのです。その個性をポテンシャルとして正しく発揮させ、変化する市場へ価値を提供し続けるために成長していくことが必要です。それ故に、以下のような課題が想定されます。
① 提供価値とその効果をお客様へ訴求することが難しい。
② 社内事業部をとりまとめることが難しい。

難しい訴求

お客様を理解しなければ何をどのように訴求すべきかが決まりません。
そのためにまずは、お客様を確実にターゲティングすることが必要です。3Cから分析を進めますが、このような基本をしっかりと実践することが第一歩となります。
Customer :何処で戦うか
Company :武器は何か
Competitor :どう戦うか

図:筆者作成

特に重要なのは「Customer」です。
ターゲットとするお客様市場とその課題となるテーマを「戦う場」として定義することで「お客様市場のSCOPE」が定まり、戦略策定が開始されます。ここからお客様を具体的に理解していくのですが、それよりも社内都合だけで考えてしまうことによって戦略が絵に描いた餅になってしまうことは容易に想像できます。
この「何処で戦うか」を検討する際にBtoBで多く使われる軸が以下の3つです。

業種 :業種毎にお客様業務に特徴があり、課題解決のテーマも絞られてきます。
地域 :地域性や民族性によってお客様の市場性は異なります。国だけでなく首都圏と地方などの分類でも特徴が分かれます。
技術 :どの専門性や技術で何の課題を解決するビジネスなのかによって戦い方が異なります。

図:筆者作成

お客様を分析する際に特に重要なのは、「そのお客様に影響を与える外部環境は何か」ということです。
この環境変化によってお客様の活動に課題が発生するために、この分析はお客様理解に必須です。外部環境変化へ向けて地域毎に目指しているテーマ(日本のSociety5.0、欧州のIndustry4.0、北米のSmart America、中国製造2025など)も要注目です。

戦略を具体化する効果的な分析の一つにSTPがあり、市場定義の次にお客様を具体的に絞って理解を深めることができます。

Segmentation :お客様分類
Targeting :分類別の優先付けと対策施策
Positioning :戦い抜くレベル

筆者の経験で、お客様分類キーを34個洗い出して営業戦略担当と商品戦略担当と議論を交えたことがあります。マーケティング担当としては予想しない分類キーを販売戦略が採択し、そこから全体戦略の議論へ繋がったことがありました。多様な視点でマーテケィング戦略を策定するために広い視野で情報を洗い出し、その中から優先度を議論するスタイルが、変化する環境の中での戦略策定には有効だということです。

このお客様分類を、具体的な戦略活動が考えられるレベルにまで落し込んでいくと、お客様の人物像が見えてきます。それがペルソナです。そこまでくればそのお客様個人の行動(課題や情報収集方法など)を想定することができ、それをもとにシナリオを作ってコミュニケーション戦略へ繋げます。
ここまでくれば分類毎のお客様が明確ですので、それぞれに対応する効果的な戦略を振り分けることができるようになります。

図:筆者作成

SegmentationとTargetingの検討を進める際に注意が必要なのは、市場としてのポテンシャルと自社が入り込める可能性の掛け算で考える必要があるということです。とても魅力のあるお客様分類を特定しても、そこへの活動の障壁があまりにも高い場合は、そこへの優先度は慎重にならざるを得ません。その障壁もお客様理解として調査すべき重要な項目になります。

このようにお客様を理解することで、何をどうやって訴求すれば良いか糸口が見えてくるだけでなく、いわゆる4Pとしての商品戦略や販売戦略等との全体連携を可能にします。いずれにしろ、「お客様を理解」することはマーケティングの出発点と言えます。

お客様への訴求に関して少し補足します。
BtoBの特徴として商品やサービスの導入にROIが求められる事は上述の通りですが、ソリューションをROIとして表現するのは難しいケースが多いのです。しかしEconomic Valueとして提案することはとても大切ですので、日頃からそのような定量化する訓練が必要です。
この場合は、事例コンテンツが有効です。
筆者の経験では、BtoBのwebサイトで最も閲覧されているコンテンツの一つが「事例」です。ソリューション効果が実例として理解できるために、導入を検討しているお客様担当者は社内関係者に事例で諮ることができます。

さて、代表的なフレームワークの一部を紹介しましたが、時折見受けられるのはマーケティングの研究がフレームワークの素振りになってしまっていることです。あくまでフレームワークは気付きや発想を得るためのツールであり、それを作り上げるだけでは不完全です。作り上げたフレームワークを徹底的に考察し、次の検討へ繋げ、気付いたことを実践することがマーケティングの本質であることは間違いないと考えています。
下図に筆者が頻繁に使う代表的なフレームワークの例を示します。検討分析のそれぞれを密接に連携し、時には戻って再検討するなど使い方を工夫していくことで効果が向上します。

図:筆者作成

いつも苦しい社内とりまとめ

もう一つ採り上げるBtoBマーケティングの難しさは、社内のとりまとめです。
専門性の高いナレッジと技術力が強みのBtoBですので、事業部門の発言力が強いことは当然です。しかし、事業部毎に個別の戦略を推進していては、企業理念に基づく一貫した事業経営としての信頼性は得られません。また、個別に市場調査をしてもコスト分散してしまうどころか、マーケティング戦略の方向性を見誤ってしまうことに繋がりかねません。
要するに、マーケティング担当者は常に経営視点を持たなければならないのです。その経営視点と論理的戦略思考によって事業部門へ提案しながら活動をすることが大切です。

トップダウンは必要ですが「決定事項です」の一辺倒では、技術屋集団の事業部門は納得しません。お客様を外部環境の変化から分析して理解をするのがマーケティングであるように、社内各部への働き掛けも、各部門を理解しながら提案をして戦略を共有していくという重要なマーケティング手法の一つです。
BtoB企業をソリューションカンパニーと言うのであれば、まずはマーケティング担当者からソリューショニストとして社内活動をしていくことが大切です。

以上のようにマーケティングは、お客様と市場を共創するBtoB企業に必須な戦略です。
そして冒頭で触れた日本経済低迷からの脱却は急務です。このままでは日本の子供たちに、将来戦う場を残すことができなくなってしまうでしょう。一方、グローバルでの環境問題や新興国の近代化に、日本の技術とおもてなしが必要とされているのも事実です。要するに、日本の停滞は世界の損失なのです。今こそ日本経済復活へ向けて、基盤となるBtoB企業だからこそマーケティングを強化するときです。そのマーケティングに課題は多いのですが、広い視野を持つために企業間の繋がりや有識者の知恵も活用して、共に未来社会を築いていきましょう。

図:筆者作成

お客様への提供価値の方向性や、また社内統制のためにも重要になってくるのが企業としてのブランドビジョンです。次回のコラムではブランドをテーマにして「BtoBマーケティングに重要なブランディングと商品企画」を解説いたします。

ライターH.Y氏

31年間製造業界の大手企業3社でITとマーケティングを推進。ITでは業務改革から情報システムを構築し在庫半減を実現。マーケティングでは営業と商品企画およびブラディングとしての経営計画をデータ分析の活用と共に戦略推進し、デジタルマーケティングで当時の引き合い数の10倍化に成功した実績も有り。