VUCA時代の人材戦略~後編~

人事

2020年04月28日(火)掲載

三章:VUCA時代にアジャストした人材活用方法

個人の志向性が変化したことにより、人材戦略も見直しを迫られました。その変化を私なりにまとめたのが以下です。

(図:筆者作成)

1980年代までは、空いたポジションを埋めるアプローチが主流でした。しかし、これは人材マーケットの供給サイドに余裕があれば上手くいくやり方です。繰り返し述べているように、需給バランスが逆転した今、そのやり方は通用しません。ましてや、有能な人材を巡った競争は激化する一方です。皆さまが欲しい人材は、他社も欲しい人材です。有能で魅力あふれる人材にすぐにアクセスができるような人材プールを構築する必要があります。

なお、この人材プール構築を人事部に任せることは、私は間違いであると考えています。極めて先進的な企業を除いて、人事部は雇用を前提とした戦略を練るのがミッションであるからです。繰り言になりますが、現代の有能な人材は、雇用という枠組みの外にいます。したがって、「近い将来、我々の事業ではどのような人材が必要になるだろうか」と常に考え、現場からの都度の要望に応じてではなく、先回りして有能な人材にアクセスできる体制の構築を目指すのは、全てのマネジメント層の仕事です。

基本的に、人事戦略は経営戦略に紐づき、経営戦略はマーケットの変化に紐づきます。だからと言って、現場のマネジメント陣は、経営戦略が上から落ちてくるまで口を開けて待っている訳にはいきません。
再三繰り返して恐縮ですが、現代の変化は急速かつ急激です。やっと手元に来た時には、もう賞味期限が来ています。

そこで、人材獲得においても2020年代にどのような変化が訪れるか、私なりの仮説を追記しました。

(図:筆者作成)

私は、2020年代の組織は、「社内外のシームレスな人材プールから、プロジェクト単位で最適なチームを組成する」ことが基本思想になると考えています。

こうした考え方は、北米では2017年頃から「アジャイル・タレント・マネジメント」として表現されるようになりました。この「アジャイル」という単語は、人事よりもシステム開発に携わっている方が聞きなじみがあると思います。ウォーターフォール開発に対しての、アジャイル開発です。

ウォーターフォール型が、最初に要件をあらかじめ全て決めてから開発するのに対して、アジャイル型では、ビジネスの重要度で要件の優先順位を決め、これに従って必要機能を順次開発します。

今、事業開発に関わっておられる方で、AWSやAZURE、GCPなどのパブリッククラウドを意識しない方はいないと思います。サービスに必要な全ての機能をフルスクラッチで作ろうとするのは、もはや特殊なケースです。基本的には複数のサービスをAPIで繋いで、要求品質を最短期間・最低コストで開発しようとするでしょう。

人材の活用においても 「必要な人材を / 必要な分だけ / 必要な期間」 活用できる体制が求められると考えています。なお、このようなアジャイル・タレント・マネジメントへのニーズは、一過性のものではなく、2020年代後期までは継続するトレンドと考えています。

理由は、情報処理のインフラが整うまでに相当の時間が掛かるからです。集中処理型のクラウドコンピューティングの次に来るものは、分散処理型のエッジコンピューティングだとされています。ただ、この恩恵に与るためには、超高速・超高信頼・超低遅延・多数同時接続などの要件が求められます。5G・6Gの次世代移動通信システムが民間で広く活用されるまでには、最短で3年、長くて5年とされています。仮にエッジコンピューティングが主流の時代になっても、しばらくの間は、アジャイル・タレント・マネジメントの概念は変わらず、関連サービスのUXへの要求水準が高まるだけであると思っています。

アジャイル・タレント・マネジメントでは、初めから自社の人材リソースと外部に用意したタレントプールの双方をミックスした中から、プロジェクトに応じて最適なケーパビリティを持つチームを選定します。

あるグローバルなメーカーやコンサルティングファームの数社は、自社で常時アクセスが可能な外部タレントプールを作っています。しかし、戦略人事に優れていて資金に余裕がある企業以外は、自前で作るのは非効率ですので、すでにサービスとして存在する外部人材プールを活用しましょう。

活用をおススメするシーンは以下の5つです。
1.戦略策定における壁あて
2.新規事業のシーズ探索
3.課題の特定化・詳細化
4.仮説検証サイクルの短縮化・高速化
5.技術的課題の解消

なお、どのようなプロジェクトでも、PMは基本的に社内人材にすることが望ましいです。自分のスキルアセットを強化し、柔軟な思考を手に入れられる機会を提供することは、次世代の経営幹部育成にも効果的です。

さて、主な外部タレントプールの活用手法は、A.コンサルティングファーム B.顧問紹介サービス C.ナレッジシェアサービス D.クラウドソーシングサービスの4つです。それぞれについて、活用シーンと、メリット・デメリットなどを見ていきます。

A.コンサルティングファームの活用
└業績を大きく左右しかねない、重要な意思決定が控えているシーンに活用します。経営資金に余裕があり、権威性が重視される場合です。特にプロジェクトが国境を跨いだ連携が必要で、多くの人材が有機的に動かなければいけないケースが多いでしょう。

メリット:全世界的に展開しているグローバル戦略ファームであれば、各地域の特性を理解した上での戦略立案が可能となります。また、経営管理のために求められるシステムの大規模開発にも対応できるケーパビリティがあります。

デメリット:経営戦略そのものを変更する可能性もあるため、強烈な経営トップの決断力とコミットメントが求められます。基本的にはパートナーとシニア以上のコンサルタントをカウンターパートとして動き、内部で稼働するコンサルタント全てを指名することは出来ません。また、コンサルティングファームが下請けを使っているのか、どこに依頼していのかについても、ブラックボックス化されていることが多いです。

費用:数千万円~(目安)

B.顧問紹介サービスの活用
└プロジェクトの目的が明確で、不足しているケーパビリティをPMが自覚出来ている時に活用します。

メリット:必要なケーパビリティを有した人材の獲得に際して、採用する場合に比べて、大幅に時間を短縮することが出来ます。プロジェクトチームに自社社員を参画させることで、ノウハウやナレッジの蓄積を果たすことが出来るため、専門人材が離れた後の内製化が可能です。コンサルタントの多くが事業会社出身であるため、事業オーナーとして実経験を有している可能性が高いです。

デメリット:他社も求める高度専門人材であればあるほど、フルタイムに近い頻度でスケジュールを押さえることは困難でしょう。また、複数の案件を同時並行している個人事業主・コンサルタントが多いため、毎回必ず現地を訪問しなければいけないテーマへの対応が難しい場合があります。条件を事前に要求・確認しておくことが必要です。サービスの特性上、営業担当・コンサルタントが介在するため、営業担当の案件理解度が、提案の質を左右してしまいます。

費用:数十万円~数千万円(目安)

C.ナレッジシェアサービスの活用
└不足しているナレッジが明確で、定着は望まず、ヒアリングのみでよいケースです。

メリット:1週間程度のリードタイムで必要なナレッジにアクセスすることが出来ます。金額が比較的安価なため、アイデアがまだ固まっていない着想フェーズで気軽に活用することが出来ます。新規事業などで壁当てをクイックに行いたいなど、PMF検証フェーズで特に効果を発揮します。

デメリット:基本的には電話での面談となり、知見の買い取りになるでしょう。ナレッジの蓄積を目指した育成観点での利用は適しません。個人の特定に繋がるバックチェックが困難な場合があり、情報の信頼性についてはリスクがあります。

費用:数万円~数百万円(目安)利用形態:1回数時間の売り切り型、年間チケット制など

D.クラウドソーシングサービスの活用
└不足しているケーパビリティが明確で、手を動かす実行者が不足している場合です。

メリット:安価で固定費を抱えず、アウトプットを伴う業務を委託することが出来ます。正社員との適正な組み合わせにより、コストを圧縮することが可能です。特に、ITエンジニアとクリエイターを求める際に活用することが多いでしょう。

デメリット:個人の実力については、登録者により差が激しい場合があります。アウトソーシング先の個人の選定、条件交渉など、プロジェクト開始までにリードタイムが発生します。基本的には依頼~納品までがオンラインで完結するため、依頼者側で委託したい意図・目的・アウトプットのイメージが固まっていない場合には、成果物が期待と大きく逸れてしまう可能性があります。そのため、依頼者側に一定のリテラシーが求められます。

費用:数千円~数十万円(目安)
利用形態:成果物の納品依頼

以上、4つをシーンに応じて上手く使い分けてください。
さて、外部人材活用の手法について知った後は、次は、より効果的に成果を出してもらうための方法について考えます。

チェック項目10個を以下に書きました。これは特別なことではなく、誰かにものを依頼する時には当たり前のことであると思いますが、私の知る限り、意外に実施している企業が少なくて非常にもったいないと感じています。
なお、大仰な資料は必要なく、以下を記載した項目があるだけで十分です。

1.企業/事業の中期経営計画を示す。
2.今回のプロジェクトが事業の中期戦略において、どのような役割を果たすのかを示す。
3.今回のプロジェクトのありたい姿/現状/GAPについて出来るだけ詳細に示す。
4.ありたい姿と現状とのGAPについての仮説を示す。
5.GAPに対してのアクションプランの仮説を示す。
6.アクションプランの中で、外部専門人材には、どこを依頼したいのか期待値を示す。
7.期待値に対して、外部人材に提供して欲しいケーパビリティを明らかにする。
8.ケーパビリティの中で、絶対に譲れないものを一つに絞る。
9.絶対に譲れないケーパビリティを、どのような実績で測るのかを取り決めする。
10.マイルストーンを決め、ここだけは守って欲しい基準を示す。

これらの10項目を事前に書き、プロジェクト開始前に共有しましょう。間違っていても良いので、素直に書くことが大事です。むしろ、これらの内容を初めから完璧に書ければ、自身で課題を解決できるので、わざわざお金を掛けて外部に依頼をする必要はありません。

なお、マストではないのですが、あるとより良い情報が以下です。
1.プロジェクトチームの外にキーマンがいるかどうか。
2.そのキーマンがどのような人物で、何を基準に意志決定をする傾向にあるか。
3.プロジェクトメンバーのキャラクターや、行動特性が分かるアセスメント結果の共有。

これらが言語化されていると、「専門家が会議に同席する中で、微妙な空気を読んで傾向を学習する。」という無駄な時間を削減することが出来ます。
プロジェクトの進捗において一番避けたいのは、後から事実が発覚することによる出戻りです。最初から全部開示して本音で話した方が、お互い幸せでしょう。同じ成果を上げるなら、早い方が良いに決まっています。

外部人材活用のシーンと、効果的な方法について説明しました。
最後に外部人材における、良い人材と悪い人材についての注意事項を記載して終わりたいと思います。
なお、以下は3か月以上の長期プロジェクトに関わってもらう人材を念頭に書いています。

・プロジェクトメンバーに引き込むべき人材
ミッションドリブンな人材です。「このプロジェクトを達成することが、社会にとって何の意味があるのか?」を常に考えている人です。あなたの会社の利益が増すことは、重要ですが手段です。自分が引き受けるプロジェクトが、人々にとってどのような幸せをもたらすのかを聞いてくる方こそ、共に歩むべき人です。

ですから、「この人だ!」と出会えた時には、上記に加えて、「そのプロジェクトに参画することで、自身のケーパビリティがどのように活かされるのか」を、熱意をもって伝えてください。新規事業は常にリソースがありません。しっかりと対価を支払いたくても、どうしても十分なお金が手元に無い時もあります。その時は、あなたが会社員であろうと、ベンチャーの経営者のようにSOCIAL GOODなプロジェクトの意義を語ってください。共感してもらうことが出来れば、引く手あまたの人材が、他社より条件が悪くても支援を申し出てくれるかもしれません。

・プロジェクトメンバーには適さない人材
逆に、どれだけ有能であると思えても、適さない人材がいます。

それは、EQ(Emotional Intelligence Quotient)が低い方です。特徴としては、以下の5つが挙げられます。(注11)

1.批判に冷静に対処できない
2.オープンマインドでない
3.傾聴の姿勢がない
4.不都合な真実を隠すリスクがある
5.素直な姿勢がない
自分の専門性に自信を持っていることと、傾聴の姿勢があることは、トレードオフではありません。

外部専門家を活用する際には、この点を事前に確認しておきましょう。自身ですることが難しい場合には、仲介をするコンサルやエージェントに聞いてください。このような人材は、例え優秀であっても、トラブルの原因となる場合があります。逆に、EQの要素が優れている場合は、プロジェクトに参画してからのキャッチアップスピードが早く、チームに対しても良いインパクトを与えてくれる可能性が高いです。

最後に私の好きな言葉を紹介します。
パーソナル・コンピュータの父と呼ばれるアラン・ケイの言葉です。(注12)

「未来を予測する最も確実な方法は、それを発明することだ。」
何が正解かは、誰も分からない時代です。解を得るには、決断し行動するしかありません。

<引用・参考文献 一覧>
(注7)Rails Hub情報局
https://el.jibun.atmarkit.co.jp/rails/2011/06/51000-6676.html
(注8)ジェレミー・リフキン 『限界費用ゼロ社会<モノのインターネット>と共有型経済の台頭』,2015年
(注9)クリス・アンダーソン 『フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』,2009年
(注10) エド・マイケルズ ほか 『ウォー・フォー・タレント ― 人材育成競争 (Harvard Business School Press)』,2002年
(注11)ダニエル・ゴールマン 『EQ こころの知能指数』,1998年
(注12)ダイヤモンドオンライン 『未来を予測する確実な方法とは?アラン・ケイとスティーブ・ジョブズをつなぐビジョナリーワード』,2013年

関連コラム

ページTOPへ戻る