【コラム前編】ITの進歩によるワークスタイルの変遷  
~ 「テレワーク」に対して企業がなすべきこと ~

2020年05月20日(水)掲載

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日本政府が推奨する「リモートワーク」の意味は?

新型コロナウイルスの蔓延を防ぐ目的で、昨今に日本の政府が推奨している「在宅勤務」のことを、「テレワーク」ではなく、敢えて「リモートワーク」と言う用語を使っている理由を、皆さん理解されていますでしょうか。
その理由を、IT面からワークスタイルの定義を明確にしつつ、私なりにご説明しましょう。

先ず、コトバンクでは、”リモートワークは、「テレワーク」に同じである”と記載されています。 しかし、私はIT活用の観点から厳密に言うと、この二つの用語の意味合いは少し異なると感じています。では、どうして政府は「テレワーク」ではなく、「リモートワーク」と言う用語を敢えて使っているのでしょうか。
これらの用語はどれも意味合いが似ており、辞書では余り明確に区別されていませんが、「テレワーク」はそもそもTele(離れて)+Work(働く)からその名が成り立っているように、「本来の(通常の)職場とは別のところで、働くこと」というような意味合いで、1980年以前から既に海外では使われています。 (テレワークという言葉は、1973年、当時南カリフォルニア大学でInterdisciplinary ResearchのDirectorをしていたJack Nillesによって提唱されました。)では、昨今、使われている「リモートワーク」や「モバイルワーク」等との違いは何でしょうか。

下記の「図1-1.「テレワーク」と「リモートワーク」等との包含関係」のようにIT面からこれらの定義、関係を整理してみました。

図1-1.「テレワーク」と「リモートワーク」等との包含関係:筆者作成

上記の図1-1.からもおわかりのように、テレワーク自体には、厳密にいえばITの活用如何は明確に定義されていません。その理由としては、テレワークという言葉が海外で使われ始めた1970年代には、まだIT技術はそれほど進んでおらず、オフィスで働くのがメインのところを一部「在宅勤務」をするように使われていたからです。実際、その後、IT技術が進んでからは、通常のオフィス以外で働く「モバイルワーク」と言う言葉も出てきています。
よって、過去からの変遷も踏まえると、テレワークはITの活用面をベースに定義する場合、大きく以下に二分されます。

(1)リモートワーク=IT技術の活用如何を問わず普段の職場外で働く形態

(2)モバイルワーク=IT設備が整っている、または活用しての職場外で働く形態

そして、これらの勤務形態の代表的なものとして、(1)自宅利用の在宅勤務(IT活用問わず、会社から離れて自宅で働く)としてのテレワーク(=リモートワーク)や、(2)企業の地方サテライトオフィスでの勤務(通常はIT設備が整っており、会社での自分のオフィスと同じように働ける)としてのテレワーク(=モバイルワーク)があげられます。
しかし、昨今はITインフラの進歩により、昔では考えられないことが自宅でも出来るようになってきております。その代表的なものにPCを使用して出来る「WEB会議」等があり、これは「リモートワーク」と「モバイルワーク」の中間で、両者がオーバーラップする領域とも言えるでしょう。

よって、テレワーク自体にはITの活用如何は定義されていないものの、何もITがない自宅での勤務も「テレワーク」と呼べるのです。更に、これはあくまでも私の邪推ですが、政府は仮にまだ「モバイルワーク」に対応したITインフラが整っていない企業がある場合でも、このような企業に対しても平等に(クレームが出ないように)「リモートワーク=在宅勤務」(ITの活用如何は問わず)を推奨するという意味で、「リモートワーク」という用語を使っていると解釈しています。

つまり、IT活用も視野に入れた一般的な用語の「テレワーク」ではなく、しかも、IT設備を活用する「モバイルワーク」でなく、単に自宅での「リモートワーク」を勧めているのだと解釈すると、昨今の新型コロナウイルス蔓延防止の意味合いでの「在宅勤務」=「リモートワーク」を使っている意味合いが良く理解出来ると思います。
 
このことは、「モバイルワーク」や「テレワーク」のもともとの意味を辞書で調べていただければ、政府の「リモートワーク」推奨に対しての私の邪推が、あながち間違いでないことがお分かりいただけると思います。

前置きが少し長くなりましたが、「うちの会社ではリモートワークができない」あるいは「出社して稟議書に印鑑を押さなければならない」等、敢えて会社に出社しなければならないと主張される方々は、政府が推奨しています「リモートワーク」の真の意味を今一度お考えいただくと、昨今の状況での「リモートワーク」の必然性を良くご理解いただけるでしょう。

長くなりましたが、「テレワーク」と言う用語の意味合いをご理解いただけた上で、いよいよ本題です。
政府の思惑は別としても、上記の「リモートワーク」実施へのクレームの例でも示しましたように、昨今の企業の「テレワーク」はIT技術の活用が必須になってきています。つまり、従来の「リモートワーク」でなく、より進化した「モバイルワーク」でなければ、政府の推奨する「在宅勤務」=「リモートワーク」が出来なくなってきており、逆にこのこと自体が企業の大きな課題でもあると言えます。
よって、このコラムでは、今後の「テレワーク」の進化に対して、企業が為すべき重要なことを、ワークスタイルの変遷と共に、「前編」及び「後編」の二つのコラムの中で、解説していきます。
また、「リモートワーク」の議論を契機として、私が企業側にお伝えしたいポイントがあります。それは、今後日本の企業がグローバルな世界の環境で生き延びるためには、「テレワーク」に対して真剣に考えなければならない時期に来ているということです。そして、これがBCP(事業継続計画;Business Continuity Plan)への対応策のひとつにもなり得るほど重要なことであると私は考えております。
つまり、BCPはITインフラなしには語れない時代になってきているということであり、そのひとつが昨今のワークスタイルにも影響してきていると言えるでしょう。今回、「テレワーク」がスムーズに進まない企業は、少し大げさですが、本当にBCP対応に問題がないのかということも、再度見直す必要があるかもしれません。

このコラムはIT面を中心に、「テレワークに対して企業がなすべきこと」を解説しますが、「テレワーク」の実現は企業のITインフラ面だけでなく、BCP対応に代表されるような企業の組織的な業務対応・災害時の対応、ひいては昨今では企業の要となっているERP等の企業の基幹業務システムのあり方にも、大きくかかわってきていると言えるでしょう。
 
以下、海外で「テレワーク」というワークスタイルが、まだITがそれほど進んでいない日本に入ってきた1980年代以降、「モバイルワーク」が進んできた2000年代、更には、昨今の急速にインターネットやPC、スマホが進化した時代での変遷を解説します。その後、このコラムの後編にて、今後企業にとって更に重要になってくる「テレワーク」の実現に向けて企業が為すべき課題について、IT面を中心に解説いたします。

海外のワークスタイル=テレワークが日本に入ってきた1980年代

そもそも、海外で「テレワーク」というワークスタイルはどのようにしてでてきたのでしょうか。
それは、今の日本でよく耳にする「在宅勤務」と同様に、欧米でも1970年代から課題としてありました。その背景としては、車社会の米国では、特に都心では通勤の混雑緩和やその他諸々の課題解決ために、「在宅勤務」としての「テレワーク」が開始されたのです。私が米国に駐在していました1980年代の初め頃には、会社では個人ひとり1台のPC利用は当たり前で、会議も自宅から電話にて参加する電話会議も頻繁に行われていました。
当時、米国出張時の打ち合せの際に、主婦の方で自宅から電話会議で打ち合わせに参加されているのか、後ろで赤ちゃんらしき泣き声が聞こえていた時もありました。広い米国では、共働きは当然のこと、在宅勤務もあたりまえだったのかと、まだ会社に入って間もなくて日本のワークスタイルしか知らない私は、あらためてその当時の米国のワークスタイルを再認識した記憶が思い出されます。

米国の「在宅勤務」=「テレワーク」を日本でも実践される企業も1980年代にはあったようですが、米国とは背景や理由も少し異なっていたようです。
また、「テレワーク」を導入する企業があっても、その当時のITインフラが十分でない日本の企業にとっては、まだ一人ひとりにPCが1台ある時代ではなく、まさに、「モバイルワーク」ではなく、あまりITに依存しない形態の「リモートワーク」レベルでした。というのも、TV会議を行うにも、TV会議機器は大きなディスプレイにつながった専用機器で、回線も専用線で各拠点とつないでの実施であり、VPN(Virtual Private Network:仮想専用線)も未だ無く、とても個人が自宅からTV会議ができるレベルではありませんでした。

ところが、その後のITインフラや技術の進歩は急速であり、身近な携帯電話で例えると、1980年当時は、ポケベル(ポケットベルの略であり、何か用事がある場合、こちらに電話を掛けると電話番号や簡単なメッセージが表示されるだけ)に着信があると、近くの電話ボックスから折り返し電話をするという時代から、あっと言う間に、PHPやシンプルな携帯電話、そして、昔のPCよりも性能の良い今のスマートフォンの時代となり、世の中のワークスタイルもこのITの進化に伴い変わってきたのです。

「テレワーク」がITにより更に進化した「モバイルワーク」の2000年代

2000年代になって進歩したのはスマートフォンだけでなく、スマートフォンが普及した陰にはITインフラつまり、PCのCPU性能向上や、ネットワーク回線速度の向上があります。これにより、企業の仕事のあり方も大きく変わってきたのです。
過去、1980年代は、日本では大手金融機関や大企業が導入していた大型コンピュータ(当時、メインフレームと呼ばれていました)の全盛期でしたが、今ではその当時以上のCPU性能、メモリ容量、ハードディスク容量を持ったPCを、驚くほど安い値段で個人が買える時代となりました。一方、回線速度も当時の遅い回線速度から今では高速回線となり、これもインターネットが普及した背景でもあります。

このように、PCの性能や回線速度が向上しなければ、昔は大変であったTV会議が、昨今では普通に行われているインターネット経由でのTV会議、いわゆる「WEB会議」は実現しなかったでしょう。ましてや、国や企業及び皆さまの多くが利用するようになってきているスマートフォンのアプリケーションを利用した電話も実現しなかったでしょう。

以前は、職場で会社のネットワークにつながれているPCしかメールやファイルサーバにアクセスできませんでした。しかし、2000年代以降、専用線(Dedicated Line, Leased Line)に代わり、安価でセキュリティーも担保されたVPN(Virtual Private Network:仮想専用線)が登場しました。更にインターネットの普及により、社員が会社のPCを自宅に持ち帰り、各家庭でも当然のようにインターネットにつなげてPCを利用でき、そのPCをWi-Fi等で接続してこのVPN接続機能をすることにより、会社のネットワークに入り、メールサーバーや共有ファイルにアクセスすることができるようになったのです。まさにこれこそが「モバイルワーク」と言えるでしょう。
このVPN接続による「モバイルワーク」の詳細は、コラム後編の「4.ワークスタイルの変遷過程で重要な企業のITインフラとは?」にて解説しますが、ここでは「図3-1.専用線とVPNとの違いは?」で、簡単に専用線との違いのポイントを簡単に説明しておきましょう。

図3-1. 専用線とVPNとの違いは?:筆者作成

VPNにも様々な種類があり、企業の使用目的やニーズによって選択肢の幅も広がりますが、昨今ではインターネットの普及により、「インターネットVPN」と呼ばれるVPN接続が幅広く利用されています。これは、専用線と違って安い導入コストも魅力ですが、それよりも、社員がこのインターネットVPN接続によって、簡単に自宅から職場のネットワーク環境に入り、あたかも職場にいるのと同様に会社のメール環境や共有ファイルにアクセスできるのが一番の魅力でしょう。
まさに今、「テレワーク」の時代は、単なる「リモートワーク」の時代から「モバイルワーク」の時代へと変遷・進化しているのです。

一方、更に変化したのはワークスタイルだけでなく、企業の業務システム自体も大きく変わってきています。昔は手作業であった業務を、今ではコンピュータが業務の大半を行っています。よって、職場での業務面も、昔の電話やFAX(ファクシミリ)主体の仕事から、今は皆さんが当然のように行っていますPCでのメール連絡や、企業の基幹業務システム(いわゆるERP)を活用してのデータ投入や業務処理、更には企業間のネットワーク利用によるデータ連携が主体となってきています。まさに、「テレワーク」がしやすい環境になりつつあります。

しかし、海外のグローバルスタンダードからみて、日本の企業の業務形態やこれらのITインフラの活用度合いは、「テレワーク」の実現と言う意味では、まだまだ欧米に比べて遅れていると言わざるを得ないと感じています。

では、ITインフラを活用して進化した「テレワーク」実現のために、また、今後の更なる「ワークスタイル」の変遷対応に向けて、今後企業は何を為すべきなのでしょうか。

コラムの後編では、更に詳しくこのあたりについてIT面を中心に解説して行きましょう。

ライターH.K氏

大阪大学工学部卒業後、電機業界の大手企業に入社し、情報システム事業部門に勤務。米国への社費留学にてコンピュータサイエンス修士号取得後、米国・東南アジア・欧州の関連会社に出向駐在を経験。日系企業の基幹システム導入支援等を多数実施。定年後はIT顧問として活動中。英語・海外関連著書30冊以上あり

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