イノベーションから考える技術マーケティング~成功事例と失敗事例を紹介

研究開発

2019年07月29日(月)掲載

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技術マーケティングを考える上で、特に考えるべきことは「イノベーション」とは何かということである。「イノベーション」は「技術開発」、「技術革新」だけを意味するものではない。現代の「イノベーション」とは「コトの再定義」と理解する方が自然ではないかと思っています。

イノベーションには目的があるが、現代におけるイノベーションのそれとは、生活様式の変化など、既存市場の刷新するような「前向きな変化」を能動的に起こすことです。このための行動の一つが技術開発であり、また技術マーケティングと考えるべきでしょう。

技術マーケティングは組織機能改変ツールにもなりうる

成功した企業の技術マーケティングの姿を振りかえると、多くの場合、圧倒的な「コト」と「技術」の革新性により、顧客が最初から存在しているわけではない状況から、彼らが示す世界観に共感する顧客層(アーリーアダプター)が出来上がっている。もし、業界一番乗りを目指すなら、そもそも顧客ありきの発想などやめた方が良いです。

よく言われる「普及率16%」の論理。イノベーターは技術やサービスの「新しさ」に注目していますが、一方アーリーアダプターはそのサービスを利用することで得られるベネフィットを重要視します。イノベーターと合わせて16%まで普及しても、残りの8割以上はサービスに「不安や認識不足」があります。商品やサービスが革新的であればあるほど、不安がありますが、しかし、アーリーマジョリティ層まで利用し始めると、使わないことが逆に不安になるという特徴を持ちます。

近年IT業界で新職種として注目され始めたテクニカルエバンジェリスト(最新のテクノロジーを大衆に分かりやすく解説し、啓蒙する役割)を、アップル社では1980年代からそのポストを設置していました。

Uber、Airbnbなどもこの壁を越えた事例として浮かびますが、技術は企業の世界観を叶えるためのツールであり、他社を凌駕すべき部分は明確であり、ここを徹底的に磨き上げています。技術の磨き上げと同様に、いや、それ以上により多くの、より強力な顧客層を構築するブランド戦略を推し進めており、例えば、「モノ」の所有の優越を付与することに成功している。だから顧客は離れないどころか、顧客が次の製品やサービスの推進エンジン役を果たす場合すらあるのです。

ただし、常に業界一番乗りのイノベーターは追われる存在である。技術的な磨き上げとコスト低減が両立するまでの期間、イノベーティブなコトとモノは富裕層や一部の新し物好きの道楽のポジションです。従って、製品や技術、サービスのライフサイクルは、「常に飽きさせず、夢を見続けさせる」ことを強いられる。ちょっとでも手を抜けば、後発企業があっという間に追い越していきます。

電気機器業界でいえばパナソニック、筆者の専門である診断薬業界であればアボットは、極めて優秀な2番手企業として、先発企業のイノベーティブなサービスや製品に(新たに見出されたコト)に「広範に普及させるべき要素(価格、品質、使い勝手、デザイン、きめ細やかなサービスなどの要素)」をもれなく、かつタイムリーに盛り込んで地引網のように新規形成市場をさらっていきます。実は、この2番手戦略においても、技術マーケティングがいかんなく発揮されているのです。

先発企業における「コトの再定義」のための技術利用を促す技術マーケティングも、2番手企業では、「コトの普及と深化」のための技術利用を促すものとして機能している。どちらも立派な技術の使い方ですが、使う技術(=開発すべき技術)やビジネスの仕組みは両者において大きく異なります。

ここまでのイノベーションプロセスを具体化するためには、技術開発、製品開発、サプライチェーン、マーケティング、ライセンス、サービスの全てを「コトの再定義」が可能にするための攻撃的な組織構築を求められます。少なくとも職能集団が寄り集まった組織ではなく、専門職が常に刺激的な衝突を起こし、常識をリセットしながら、会社を前に動かす仕組みと風土が必要です。技術マーケティングとは、企業にとっては組織機能改変ツールにもなりうるという証左でもあるのです。

同時に、技術マーケティングとは、コア技術をいかにうまく機能させて、グローバル視点で「飛び抜けた(時代を超越する)」顧客価値を提供するか、そして、活性化した顧客をいかに巻き込み、最終的には他社企業も巻き込み、「こうありたい」世界を作り出すエコシステムを作り出すことに他なりません。

技術マーケティングの進め方

ビジネスの上位概念としては決めるべきことは、「社会はどうあるべきか」ということを発散収束させることで、企業としての「わがまま」を明らかにすることである。別の言い方をすると、ビジネスの初期に決めるべきことは、いつのタイミングで、どんな市場で、何をどのような形で顧客に提供し、顧客の満足度を最大化しつつ、顧客を囲い込んで、継続的に利益を上げるかの実現プロセスや組織を明確にすることです。

そして、ビジネスを通じた適切な利益の確保は、より良いサービスや製品の提供の源泉となり、いかに長い期間、利益水準を最大レベルに保つかは、すなわち継続的なビジネス実行の基本中の基本。製品やサービスの陳腐化はいずれ訪れるが、これを遅らせること、時代によってサービスを再活性化させるための仕組みを作ることは決して不可能ではありません。

技術マーケティングの原点はコア技術。企業としてどのようなリソースをかけてビジネスを構築するかを決める上で重要です。アップルのポスト事例を先に述べましたが、そのアップルも初期の頃と最近ではコア技術に変化があります。

元々、ユーザーインターフェースは売りでしたが、彼らが今、世の中から求められているものは、いわば人工知能とのインターフェース技術であり、最近ではサービスビジネス支援技術でしょう。

コア技術というからには、技術の競争力(模倣困難性)、応用性(可能性)など他社との差別化がしっかりできること、市場で「アッと驚かせる」イノベーションを後押しできる技術特性を有するか、何より、顧客が惚れるような製品やサービスの提供価値があるかを冷静に分析評価することが肝要です。同時に、誰と仕事をすべきかも明確になります。

2つ目の要素は顧客に提供する価値(製品やサービスを使うことによる利益享受や精神的な満足)は何か。ともすれば、既存マーケット分析からみえてくる顧客をターゲットとして、議論が進む場合が多いが、それは2番手企業が真剣に議論すべきこと。一番手企業は、今、「かくあるべき」世界の想像の上に、初期ユーザーをいかに「わがままに」創造するかが重要です。これら顧客の創造や顧客の満足を得るために、コア技術はどう使うべきか、どう育てるべきか、何と組み合わせるべきかを考えることになります。

3つ目が市場のイノベーションである。実はこれが最難関。コア技術を利用した製品やサービスを仕掛けることで、市場を切り開くところまでは斬新さ・資金力などでできる。問題はその後で、初期のターゲット顧客や周辺企業が市場をいかにイノベートする(ここでは共創する)仕組みを作るかは、巧みなマーケティング戦略を必要とします。

特にIT系のサービスではエコシステムの構築は重要です。それはコア技術開発における提携、アプリケーションを介したビジネスの横展開と継続的収益モデル構築、顧客情報の価値再発掘など、サービスから生み出される価値の循環的換金システム構築などを指します。

最終的には事業計画にうまく投影できるような、組織機能と技術/ビジネスロードマップを明らかにした技術マーケティング戦略を書き出すことになるが、ここで注意すべきは、事業の時間軸の決め方ではないかと感じます。

「コト」の時間的理解が事業構築にとって最重要

筆者が現役時代に取り扱った案件では、臨床検査現場向けの検査ロボットと非放射性物質利用の高感度特殊分析技術の事業化が、技術マーケティングの成功例です。

当時、高感度特殊分析技術が生きる世界では、すべて用手法(非自動化)が当たり前であり、ほぼ誰もが「特殊検査で自動化は不要」という、市場調査の結果でした。

当時の全自動ロボット利用は、1検体あたりの検査数が多く、反応系が単純な生化学検査項目といわれる非特殊検査のみで高感度の部分においても、当時の常識では放射性物質を用いた検査で、感度は十分であるというコンセンサスがありました。

普通であれば、「そこに市場はない」という結論になり、実際、某有名シンクタンク調査では、本案件は成功しないという結論だったと記憶しています。しかし、ここで誰も引き下がることなく、わがままに新しい市場形成に向けた努力を継続した背景は、リーダーとプロジェクト構成員、企業全体にあった「21世紀の検査現場はかくあるべき=全自動、24時間365日受け入れ可能な検査体制の実現」であり、そのための技術マーケティング活動があったからです。

既存商品と比較して圧倒的な性能向上という顧客が享受できる利益が明確に書き出せたこと。収益性を最大化する仕組みとして、様々な消耗品ビジネスを構築することが可能であったことも成功要因でした。

そして、最終的にうまく機能した背景は、いきなり「臨床検査現場向けの検査ロボットと非放射性物質利用の高感度特殊分析技術」のフルセットでの市場投入ではなく、検査技術の導入の先行と理論的コンセンサスを広く得ることでの顧客の囲い込み、そして、自動化ロボットの投入という道筋がうまく機能したことを補足しておきます。

物事にはタイミングというものがあり、やはり顧客がターゲット化できるまで育成するプロセスが重要で、そうでなければ、未来指向の突き抜けたアイディアに基づいた製品やサービスの共感を生まないでしょう。

一方、(自慢するべきことではないが)筆者には技術マーケティングの失敗事例もあります。それは20年前の多重化プロテインチップ利用の全自動物質間相互作用解析装置の開発案件でした。

技術的には、恐らく20年経った今でも最先端だろうと自負していますが、残念ながら20年前の世界で、高度に多重化されたプロテインチップで測定するほどの解析対象が存在せず、もっと残念だったことは有力顧客が増えなかったことです。

この装置は、抗体医薬シーズの高速かつ連続でのKINETIC解析を可能とするもので、現在、汎用されている類似技術の50倍以上の速度で連続解析が可能なシステムでした。しかし、当時、高速解析が必要なライブラリーを有する製薬企業は世界中でもわずか数社。実際、その数社には製品導入はできましたが、いかんせん、その後が続かなかった。技術的には世界的にも高い評価を受けていたにも拘らず。

2000年前後はヒトゲノム解析初期の結果が出てきた頃。このシステム開発に従事していたメンバーは、世の中の動きがゲノミクスからプロテオミクスに速やかに動くだろうと予想していました。しかし、その流れは予想以上に遅く、最近になって、ようやくタンパク質の相互作用解析の高速化という話が出てきた状況です。時代を20年も先に走ってはビジネスにならないという典型でしょう。

これは、「コト」作りの「コト」を正確に理解することがいかに難しいことをよく表しているとともに、「コト」の時間的理解が事業構築にとって最重要であることをよく表しています。

技術マーケティングは異なる類型企業も結びつける

現在、筆者は、モノづくりを通じたコトづくり企業と、ICT 系のコトづくりからさらなるコトづくりの連鎖を作り上げる企業の両方のコンサルティングを行っています。どちらかというと重厚長大型のモノづくり企業出身である筆者にとっては、両者の狭間で感じることもあります。

ICT 系の企業においては、驚くほど「新規事業」という言葉が飛び交う。コンサルタント業初期の頃、このような光景を目にして、「モノを作ることなく、何が新規事業なのだろう」と不思議な思いをしたことを記憶しています。

重厚長大型企業のモノづくり出身の目には、モノがない、モノを作る基盤技術開発もなければ、サプライチェーン構築もない、ビジネスアイディア一本で出発する新規事業という言葉は本当に不思議でした。しかし、逆も真なりで、ICT 系出身者からみれば、モノばかり見ている人間が、大掛かりな組織と資金を必要とする新規事業など危なっかしくて見ていられないかもしれない。

この国では、企業の類型や業界ごとにセグメント化されすぎており、サービス系のビジネスに関するアイディアやお金儲けの知恵が、モノづくり系企業に注ぎ込まれることがない。また、サービス系企業に、モノ作りの知恵が注ぎ込まれることもない。この状況で、いつまでもお金にならないモノづくりを続ける企業があり、一方で、世界的には全く広がらないローカルサービスだけで深みがないビジネスが乱立するのは、かなりもったいないことであると、常々思います。

技術マーケティングという話は、上述いずれの企業にも適用可能なだけでなく、異なる類型の企業同士を結びつけるツールとして機能させることが可能です。両者の強みを事業プロセスにおけるエコシステム構築に利用することで、互いの強みを利用できるだけではなく、日本の総合力を発揮させることにも繋がると考えられます。

筆者がこの仕事をやっていて思うことは、事業の触媒としての機能をいかに効果的に発揮できるかということですが、コンサルタントを利用する企業の各位にも、外部の知見をうまく取り入れることで、人類の生活環境を大きく革新する「コト」を生み出し、日本のモノづくりの知恵と優れたアイディアの融合を図る機会を活用頂きたいと思う次第です。

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