タレントマネジメントシステム導入の課題とポイント

人事

2020年03月27日(金)掲載

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アメリカでタレントマネジメントが概念化し、システムとして普及し始めてからすでに20年近く経過し、近年日本でもその導入が進んできています。しかしテクノロジーを導入したという企業は増えていても、システムを活用し、大きくマネジメントが変化したという話をあまり聞くことがないというのが実情です。今回は私自身が人事として経験したこと、現場で起きている課題感をまとめました。

タレントマネジメントシステムとは

そもそもタレントマネジメントとは、事業戦略から結びついた人事戦略を描き実現するための手法です。そして、タレントマネジメントシステムは社員情報を一元管理し、採用・育成・配置・評価などのHR関連業務、施策をシームレスにつなぐためのサポートシステムです。

*タレントマネジメントの詳細については本コラムでは詳細は記載いたしませんが、Society for Human Resource Managementでは「人材の採用、選抜、適切な配置、リーダーの育成・開発、評価、報酬、後継者養成等の各種の取り組みを通して、職場の生産性を改善し、必要なスキルを持つ人材の意欲を増進させ、その適性を有効活用し、成果に結び付ける効果的なプロセスを確立することで、企業の継続的な発展を目指すこと」と定義しています。(2006)


図:筆者作成

なお、人事関連のシステムとしては各業務に特化したものも存在しています。

・採用管理システム *ATS(Applicant Tracking System)
・学習管理システム *LMS(Learning Management System)
・勤怠管理システム
・給与管理システム
・エンゲージメントシステム
・人事管理システム                etc

現在、それぞれ多種多様な製品が展開されていますが、一方で製品を検索するといずれもタレントマネジメントに紐付けて機能説明がされていることが多く、結局何を選べば良いのかと担当者を悩ませるタネになっている実態もあります。

また、人事関連システムにおいてあえて「人事管理システム」を分けて記載していますが、これも本来は設計思想が異なるシステムと理解する必要があります。

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*両方の機能をもつシステムを一般的に統合型マネジメントシステムと呼ばれます。

タレントマネジメントシステムが必要な背景

タレントマネジメントシステムが必要とされるようになった背景はいくつも論じられていますが、一言で言えば、終身雇用や年功序列という日本型雇用システムが事業の変化(グローバル化、テクノロジーの進化、競合の変化、財務評価指標の変化、ダイバーシティ経営など)についていけなくなったことであると考えています。

一般的にタレントマネジメントが語られる記事やコラムにおいては、人材の流動化や少子高齢化に伴う人材確保が困難なことを主な要因として語られることが多いと思います。しかし、個人的には雇用の仕組みがそこまで急に変化しただろうかという疑問を持っています。

私自身は、特にタレント(才能)の発掘(採用・育成・見極め)という文脈において、ITテクノロジーの進化とそれにともなうボーダレス化の影響が大きい要因であると考えています。
ヒトが単純な労働力であった時代と、現在のITやAIの発展が凄まじい時代において、一人の才能やチームの組み合わせで生み出す生産性に大きな違いが出てきており、その差は100倍とも10000倍とも言われています。

つまり、テクノロジーが発達した現在では、今まで複数人が手作業で行っていた作業を、システム構築による自動化で一気に効率化できる人材や、AIなど先端技術を用いてビジネスモデルを創り上げて、それまでの成功モデルを短期間で陳腐化させて稼げる人材などこうした「人才」が生産性を高めます。

しかし、企業の人事機能はテクノロジーの進化に追いつけておらず、「人才」を目の前にしたとき、経験が短いから、今の給与制度がこうだから、終身雇用を約束するから、という理屈で獲得・確保し続けることが困難になってきています。

これは一人の天才の話ではなく、実際に一人ひとりのタレントの能力・適性を把握して最適に配置することで、生産性が今より数%〜数倍上がる可能性があるとわかれば、マネージャーや人事部門はこれまでの成功体験を捨てても行動変化を起こさなければなりません。

社員一人ひとりの能力・適性を把握し、そのデータを可視化・分析することでインサイトを得てアクションにつなげていくために、タレントマネジメントシステムの導入が進んでいます。

タレントマネジメントシステム導入のポイント

タレントマネジメントシステムを導入するポイントは「自社にあったものを選ぶこと」です。そして自社にあったものを考えるのに2つの観点での検討が必要になります。

■目的の整理
・自社のどのような課題を解決するために使うのか
まずはどのような課題を解決するものかを考える必要があります。それは一つでなくても構いません。タレントマネジメントに関する課題であるかの見極めが大事です。
仮に課題は採用の効率化、高度化のみとなれば採用管理システムを見直す方が適切です。

・その課題の解決主体者は誰か(=誰が使うためものか)
次の章でも書きますが、個人的には誰が主として使うのかが一番大事なポイントであると考えています。人事が使うのか、現場マネージャーが使うのかでその選択肢は大きく変化します。

・継続的に使い続ける必要があるか
タレントマネジメントシステムは継続してデータをアップデートしていかないと意味がありません。継続して使うということは、HR部門はもちろんのこと、現場社員にも負荷がかかりますので、継続的に使い続けるか慎重に見極める必要があります。

・投資行為であると言い切れるか
人事管理システムとの違いでも述べている通り、タレントマネジメントシステムはHR業務の管理・効率化を目的とするためのツールではありません。タレントのパフォーマンスを最大化するためのもので、データから得たインサイトを基に具体的なアクションにつなげることが重要になります。そのため、効率化のシステムとは異なり、システム投入=費用の低減とならないため、純粋に費用増であるが、それを上回る効果を出すという考え方が必要となります。


■システム評価(機能面での評価)
・どのような機能を有しているか
タレントマネジメントシステムは経歴・スキルなどのプロフィール登録・検索機能、人事評価機能、要員管理機能、そしてそれらのデータをレポート・簡易分析ができる機能をベースとして有するものが多いです(むしろこれがない場合はタレントマネジメントシステムとは呼べない)。
くわえて製品ごとの特徴としてサクセッション、アロケーション、報酬管理、育成・キャリア計画、採用管理など様々な機能があるので、製品のネームバリューに関係なく、自社の導入目的に合わせて製品を選択する必要があります。

・使用者にとって使いやすいか
システムを選ぶときに、HRだけでなく、現場の社員にとって使いやすいかを考えることが非常に重要です。人事システムに限らず、アクション主体者が使いづらいものであれば、そのシステムが使われ続けることが困難になります。

・拡張性があるか
システムの拡張性には2つの観点があります。まず一つ目は柔軟性です。基本情報以外の会社の独自データを投入する、そのデータをシステム上で自社の定義や表現方法で表示・レポート・可視化することができるなど設計の自由度があるかどうかです。
人事部門がもつ基本情報自体は、各社の独自性はあるものの、種類が多いわけではありません。ですがその他にも多種多様なデータが存在しており、そのデータを連携して使いたい時に追加できるフリーカラムが少ない、入れることができても表示ができないなどの問題が発生することがあります。

拡張性についてもう一つの観点は接続性です。現在のタレントマネジメントシステムは、採用システムや労務システム、給与システム、教育システムまでHR業務を全方位でカバーしているものが少ないのです(海外の大手ベンダーの製品に機能はあっても日本が対象になっていないなど)。そのため、実際に全データを統合して使おうとすると、結局エクセルで管理をせざるを得ないという本末転倒な自体に陥ることがあります。

人事領域に限らず、近年のクラウド型のサービスにはAPIが公開されており、自動かつリアルタイムでデータ連携できる主流となっています。APIがなくても、その他の連携システムを有しているもの、最低限CSVでデータを吐き出せるものがあると、将来的なデータの拡張に対応が可能になります。

・セキュリティが万全であるか
人事情報は非常に機微なデータですので、そのデータ管理は万全でなければいけません。PマークやISMSが取得されていることはもちろん、そのサービスの情報管理体制も確認することが必要となります。
一方で、オンプレミスの方が社内にある分、クラウドよりセキュリティが高いという話を聞くことがありますが、その点は自社のネットワークセキュリティに依存します。人事データだからといって使用する際にネットワークが遮断したセキュリティルームで作業する人事担当はいないと思いますので、オンプレミスであっても社内ネットワークに脆弱性が見つかれば自ずと人事データもリスクにさらされます。一方、クラウドを運営する会社は常にネットワーク監視、セキュリティソフトがアップデートされているので、実はオンプレミス環境よりセキュリティが高い場合もあります。

・コストパフォーマンスに見合うか
目的の部分でも記載していますが、タレントマネジメントシステムの導入はあくまで投資ですが、そこから得るインサイトを通じたアクションがどれだけのパフォーマンスにつながるかということも事前に考える必要があります。
特にSaaS形のタレントマネジメントシステムは使おうが使うまいが、社員数×単価(もしくは○名〜○名まではいくらという社員数の幅で設定)です。人事部しか使わないとしても、データが入る以上は社員数課金になることを理解しないといけません。また、機能面でご説明した通り、全方位的なシステムがほとんどないため、完全な入れ替えということにはならず、現状のHR関連システム群にアドオンになる可能性が高いです。

(タレントマネジメントシステムの費用感のご参考)
タレントマネジメントシステムは導入コストをのぞいて、月額@300〜1500円という価格設定が多く見られますので1000人規模の会社であれば…

1000人×300円=300,000円/月(年間3,600,000円)
1000人×1500円=1,500,000円/月(年間18,000,000円)


5000人を超える規模の会社であればおよそ年間1億を超える投資(それが毎年)です。
あなたは経営者に対して、投資回収ができますと宣言できますか


■プラスアルファで考えておくと良いこと
私自身がこの数年、ピープルアナリティクスやデータレイクに携わってきた中で、以下のポイントを考えてデータを収集・整備・統合すると、将来さらに価値のあるデータ活用ができるのではないかと考えています。
(ピープルアナリティクスについての考え方の共有についてはまた別の機会に)

・ピープルアナリティクスに備える
ピープルアナリティクスを実施していると、必ずと言って良いほどぶつかるのが、あるピープルアナリティクスの第一人者(一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 上席研究員 丸吉 香織 氏)が問題提起している「データ三大疾病」です。

 バラバラ病:縦割り業務によりデータの在処、保管方法、組織毎の加工の違いなど。
 ぐちゃぐちゃ病:手入力による入力ミスや認識違いによる選択ミスなど。
 まちまち病:制度変更による評価記号の変更など継続したデータになっていない、担当者がデスク
       トップで加工してしまい、ある年だけデータがないなど。

このような人による病を克服目的だけでも、人事データ管理にシステム導入に意味があると言えるかもしれません。

また、実際の分析に入ると、意外と使えるデータが少ないことに気づかされます。ピープルアナリティクスというと例えば退職リスク分析などを最初に思い浮かべる方が多いと思いますが、個人の行動や情緒の動きを測定する「動的データ」はほとんどなく、人事データのほとんどが「静的データ」であることがわかります。

このような点からもシステム導入時には、今ないデータをどのように取得するかを考えるのも大事なことです。

・タレントマネジメントシステムの落とし穴としての「退職者データ」
もうひとつ落とし穴になることが多いのが、退職者データです。タレントマネジメントシステムの多くが、退職者データを保持する機能を有していない、もしくは追加で費用がかかることもあります。実際にいろんなデータを統計情報として活用する際には、過去データを活用することも多いため、退職者データの取り扱いについては導入時に検討しておくのが大切です。

タレントマネジメントシステム導入の課題

現在多くの会社でタレントマネジメントシステムが導入されておりますが、実際の活用につなげられていないというご相談を頂くことが多いです。

一番の課題は、データがアップデートされていかないことです。
海外の雇用環境との違いから生まれてくるものですが、社員がキャリアを自分自身で切り開いていくという意識が低く、マネージャーにも人事裁量(異動や採用)が少ないため、データをアップデートするメリットが感じづらく、単純に負担が増えるという悪循環に陥っていきます。

ここでHRが考えるべきことは、タレントマネジメントにおいてアクションする主体者は誰かということです。色々な考え方はできますが、
事業戦略に基づいた目標設定・評価をする、退職リスクが発生した場合に対象者とコミュニケーションを図る、採用時の採否判断(スキルレベル判定など)をする、異動することを対象者に伝えるなど、いずれも最終的なアクションは現場のマネージャーです。

システムの導入にあたっては、この点を理解した上で設計していくことが重要です。
マネジメントをする上で必要な情報は何か、どのようなアラートを出すと助けになるのかなど、HR部門だけが嬉しく、現場が「しらける」ということが起きない様、巻き込みながら導入していきましょう。

タレントマネジメントシステムの活用に向けて

これまで述べたように、タレントマネジメントシステム≠人事管理システムではありません。
システムを十二分に活用し、社員一人ひとりのパフォーマンスの最大化をめざすために、以下の考え方をもつことが重要です。

① エンプロイージャーニーマップ
会社が大きくなり人事部門が拡大していくに連れて、採用・労務・教育・人事というように業務が細分化されることにより、各業務の最適化が図れるようになります。しかし一方で、社員や組織の状態把握や業務を超えた戦略立案が難しくなります。

そこで各業務で発生する重要なデータをシステムで統合し、社員の会社における「ジャーニーマップ」をイメージしながら、どのタイミングでどのようなアクションが必要になるかという人材戦略の立案が大切になります。

図:筆者作成

② システム導入が目的ではなく仕組みづくり
タレントマネジメントシステムの導入自体にも非常に大きな負担がかかりますが、これまでの人事管理情報と異なり、社員が自発的にデータをアップデートしていく仕組みを回し続けることがさらに難しいため、既にシステムを導入している多くの企業がこの壁にぶつかっていると感じています。

この壁を打破していくには、現場のマネージャーや社員がシステムに触れるタッチポイントを増やしていくことや、何より自らデータを入れることが自分にとってメリットがあると感じてもらうことが重要です。

つまりEmployee Experience(従業員体験)向上を図っていくことが大事です。
例えば、現場の社員からはデータをアップデートすることで活躍の場が広がる、教育の機会が増える、またマネージャーへは社員の状態変化(退職リスクや勤怠など)のアラートが届いたり、他の部門の人材を検索し異動計画を容易に立てたりすることができるなど、メリットが実感できることです。

そのためにはデータのオープン化や、採用・異動の権限を現場マネージャーへ移譲していくことなど、人事部門自身も考え方や仕組みを変化させていくことが大切です。

最後に

現在、世界では高度なタレントの獲得競争が激化し「War for Talent」と言われるようになっています。そのような状況であるからこそ、人事部門は社員の能力や適性をしっかり把握し、一人ひとりのパフォーマンスが最大化するために何をしないといけないのかを考えてアクションにつなげることが何より大切です。

私自身、「働く人々が不幸にならない社会創り」を理念にもち、現在は人事の仕事から離れ、スタートアップでのHRテクノロジーの事業開発、そしてHRのデジタルトランスフォーメーション推進のコンサルタントと二つの面で人事部門のみなさまを支えるお仕事をさせていただいております。

タレントマネジメントシステムの導入は、HRの仕事だけでなく会社全体マネジメントの仕組みを大きく変化させるものです。自社にあった製品・サービスを選択し、社員一人ひとりの才能を発掘・開花させ、事業が勝ち続けていく、人材戦略の実現をめざしていきましょう。

図:筆者作成

ライターR.N氏

株式会社日立製作所にて14年間HRを経験。2015年より人事データ分析に従事し、その後IT業界の大手企業にて人事部門のDXを担当。
2020年より人事データの統合・活用するEXプラットフォームを手がけるスタートアップへ参画し、事業開発を担当。