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 サクセッションプランの取り組み事例と今後の課題

経営全般・事業承継

2020年03月12日(木)掲載

サクセッションプランとは?企業成長のため重要度が増す考え方

サクセッションプラン(Business Successions)とは、企業成長に重要な役割を果たす幹部人材の採用と、リーダーとしての育成を目的とした、後継者育成計画のことである。サクセッションプランの議論の焦点は、組織の規模及び事業状態などによって異なってくる。 大企業の場合は指名と選抜、小企業の場合は、事業承継とM&Aが焦点と思える。中規模企業の場合、事業状況と戦略によって異なる。

特に上場企業では、2015年に東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード(注1)の適用開始時に、サクセッションプランの項目が明記され重要度が増している。

取締役の任命及び選定例

 指名委員会は経営者層の選定を行うが、某機械・製造業の大手企業などは社外取締役のみで構成されている。某エレクトロニクス業界の大手企業では、CEOを除いた経営層で検討する。某化学業界の企業では、アバイザリーボードが会長職やCEO職の業績評価や報酬を決定し、進退も検討する。この方式はドイツのコーポレートガバナンスに類似する。ドイツでは経営層(ダイレクター)の任命や報酬に関しては労働者サイドで構成する委員会が言及することがある。

 先日亡くなられたJ.ウェルチ氏がCEOをつとめたGEではメンターによる幹部候補への推薦制度がある。某電機業界大手企業では、指名委員会を設け、6項目における取締役指名基準をもって選定する仕組みをとっている。上記は法的責任を有する取締役を対象とした制度及び仕組みである。

後継者育成の主な取り組み 8つのサクセッションプランの事例

選抜のサクセッションプランは、指名委員会といった独立組織とは別に、主に人事部が主導なって人材マネジメント制度と連動しながら日常的に行っている。人材委員会のような組織もその一つといえる。結論からいえば、その取り組みは様々であるが、幾つかの特徴に分けることができる。

(1) 世代別選抜…先の某化学業界の企業では30代、40代、50代と主に年代別に選抜を行う。類似の取り組みは某IT業界の企業でも採用されており、40歳前後を対象に選抜を行う。この某IT業界の企業の場合、キャリア別に選抜を行うことが特徴で女性登用も組み込まれている。

(2) 階層別選抜…某小売業界の大手企業は課長クラス、部長クラス、役員クラスの3つに分けた選抜を行っている。階層別であるため、人数も一定数決まってくるという特徴がある。某化学業界の企業は35歳~42歳の間で課長になるが、40%は課長になれない。つまり課長になる時点である程度の選抜が行われている。

(3) ビジネスリーダープログラム…名称は様々であるが、次世代経営者のための選抜教育プログラムである。企業内大学と近しい。電気業界の某企業では、6か月間のプログラムで育成を行う。そこで資質や適性を見抜く。見抜くというのは既存事業タイプかイノベーションタイプの2つをいう。某物流企業はグローバルでビジネスリーダープログラムを展開している。マルチナショナル化している中、グローバル各拠点にどのような人がいるかが単純にわからないという背景がある。また、優秀な人材を統一されたグローバル教育で選抜することでリテンションとモチベーションを高める目的もある。

(4) 外部コンサルタント…某IT業界の企業は執行役員クラスの選抜に外部コンサルタントを活用することがある。ビジネスリーダープログラムなどを通じて、スキルやマインドなどを検証していく。外部コンサルタントの評価を参考にしている。別の某IT業界の企業は取締役クラスを対象にプログラムを展開し、試験などを通じて登用と降格の参考としている。

(5) ローテーション…某食品業界の大手企業は開発系とマーケティング系のバランスを考えたローテーションを行っている。資源・素材業界や自動車業界系など多くの会社でみられるのが、子会社での経営者経験である。或いは特定部門(海外、特にリスクの高い国など)の経験を前提にしているものもある。某化学業界大手企業は子会社の業績を高めた者を本社に戻すなどの仕組みをとっている。

(6) 相対評価…外資系企業に多く見られる。会社の独自の評価スキーム(注2)において一定の割合で選抜する。例えば、幹部候補を10%に限定する等である。

(7) キャリアパス…ローテーションに近いが、キャリア・ビジョンを前提に個別育成していく仕組みである。これは公式及び非公式の二つがある。非公式というのは所謂一本釣りである。社長が信頼できる部下を呼び、名前が上がった人を育成していくものである。名前の上がった人は社長室に就き、マンツーマンで鍛えられる場合もある。公式というのは人材マネジメント制度の中のキャリア制度として運用されているケースである。これは研究開発業界やコンサルティング業界系にみられる。

(8) オープン・ポスティング・システム…野球ではない。サクセッションプランとするかどうかは微妙であるが、面白い取り組みであるため紹介したい。米国のIT業界の大手企業でみたものである。例えば、購買部長のポジションが空くとする。一定の条件、報酬を明記した上で、社内からエントリー者を募る。それぞれが自分のキャリア形成を考えエントリーを行う。エントリー者同士で誰がそのポジションに最適かを決める。

以上特徴別に8つのサクセッションプランをあげたが、複数をからめて運用することも多い。人材育成の仕組みは固定的なものではないため、組織のビジョンや文化に合わせ試行錯誤を通じて最適な仕組みと運用を構築していくことが重要である。

サクセッションプランにおける今後の課題

2019年、「日本の人事部」が5022社を対象に行った調査では、5割以上の人事部門は経営戦略の意思決定に関与できていないという報告がある。人材マネジメントというのは人材プール戦略であっても、人材リスト戦略(注3)であっても戦略に応じ設計・運用するものであるが、戦略と充分にリンケージしていないか、経営者感覚と人事部門がずれていることを示唆しているように思える。 

この背景にあるのは、事業開発や事業改革にあると思える。結論から言えば、今の評価尺度や目標管理が機能していないということだ。これまでの人事制度は次世代育成に適した評価尺度になっていないということではないだろうか。

例えば、一定年数を経験すれば課長職へというのが一般的な仕組みだと思うが、その人が、時を過ごしてきただけの人か修羅場を経験してきた人かで異なる。修羅場を経験して初めて経験といえる。そうであるならば、修羅場の数と質を評価すべきだろう。
 また、事業開発においては、実験能力が求められ、優秀さよりは、好奇心や多様な他者とのコミュニケーション能力が求められる。無形資産特に知とチームワークが価値を生む時代において、サクセッションプランは機会の場作りといえる。仕組みと試行錯誤への挑戦が戦略優位を決めるだろう。

サクセッションプランが機能するかどうかの基本は、日々の対話である。クロントンビルでのディスカッションで印象深いフレーズがある。Frequent performance calibration discussions が基本であると。


(注1) コーポレートガバナンスは経済性または効率性と社会性または遵法性の二軸で構成される。社会性はアカウンタビリティを意味する。アカウンタビリティの本質はオープンでシスティマティックであるといえる。
(注2) 独自のスキームといっても原理はどれも近しい。能力とパフォーマンスの二軸である。能力には必ずリーダーシップが入ってくる。価値観なども重視される。この原理はPM理論やThe Managerial Gridが底流にあると考えられる。一般的に知られている9ボックスも同様である。
(注3) 人材プール戦略とは、特定のポジションと候補者を紐づけるものである。例えば、5年後に東南アジアに工場を2つ立てたいとする。では3年前に段階で候補者は何人必要か、といった具合である。人材リスト戦略とは、あるポジションに対して厳選を要するもので特殊なスキルや専門知識を必要とする場合の育成に適している。例えば、M&Aなど企業評価などを求められるCFOなどである。


ライターM.M氏

大手コンサルティング会社を経て米国NYにてコンサルティング会社設立。自動車、電機、精密機器、家電などのメーカーや小売、物流、製薬、IT、公益法人など幅広い業種での支援実績を有する。事業開発・組織開発・人材開発の3領域を中心に、多様な課題を解決してきた。英国国立大学大学院の特定教授。

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