医療業界にDX。スマートホスピタル構想とは?

ヘルスケア

2022年04月28日(木)掲載

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さまざまな業界・企業にてDX推進が急がれる昨今、医療業界も例外ではありません。スマートホスピタルは「医療業界のDX」と形容されることも多く、近年注目が集まっています。

これまでも医療現場ではIT化が着実に進んできました。電子カルテなどは良い例といえるでしょう。しかし最近では、業務効率化を目的としたものだけではなく、医療の質の向上や患者の満足度向上といった範囲にまで広がりつつあります。医療機関の経営戦略にも欠かせないとされており、今後スマートホスピタルは「当たり前」となっていくと予想されています。

本コラムでは、注目が集まるスマートホスピタルの概要と、スマートホスピタル化の事例をご紹介します。

スマートホスピタルとは

スマートホスピタルは「IT技術を用いることで、医療機関における質を向上させるための戦略」を指しており、“医療業界のDX”といわれています。

スマートホスピタルの目的は、主に三つあります。一つは、適切な医療の提供や適性な情報管理などの課題を解決し、医療サービスの質を向上させることです。次に、業務処理の効率化、また人員の異動や配置の効率化などの課題を解決し、医療従事者の業務効率化を図ることです。最後に、診察や検査の待ち時間短縮や、接遇の質などの課題を解決し、患者の利便性を向上することです。

IT技術を用いることで医療がより高度になったり、医療従事者の労働環境の改善や、患者の満足度向上が期待されており、ひいては医療機関の経営をより良くすることに結びついていきます。

スマートホスピタルによる医療の質向上、業務効率化などの事例

スマートホスピタルの事例をいくつかご紹介します。

音声認識ソフトと電子カルテの連携

本事例は、医療従事者の業務効率化を目的としたものです。音声認識ソフトと電子カルテの連携を行ったA病院が電子カルテに着目した理由は、一部の医療スタッフに対し業務調査を行ったところ、業務量のトップが電子カルテの記録業務だったためです。これまではその都度スタッフルームに戻り、パソコンを使用して電子カルテの記載を行っていましたが、音声入力に切り替えたことでスマートフォンを用いてどこでも入力が可能になりました。結果としてカルテ入力時間の平均が約70%短縮されるなど、効率化が図られました。

ウェアラブル端末の導入

本事例は、病院内の業務効率化および医療の安全・サービス向上を目的としたものです。B病院では、医療スタッフや患者に装着したウェアラブル端末やICタグなどから送信されるデータによって、医療スタッフや患者の位置情報、患者の身体状態などが可視化・閲覧できるシステムを導入しました。利点としては、患者の位置情報が分かることで在室状況を把握でき、治療やリハビリを行う際に起こる患者と医療スタッフのすれ違いの防止になることが挙げられます。また、患者の身体状態が可視化されることで、日常的な身体状況の把握や、歩行中の転倒などの早期発見につながります。

APM(アセット・パフォーマンス・マネジメント)の導入

本事例は、医療機器の稼働の最適化を目的としたものです。C病院では、超音波装置などに位置情報センサーを取り付け、稼働状況や利用の頻度、時間帯などを可視化しました。利用頻度の低い機器は複数の科で共有したり、台数や保管場所を見直したことで、稼働効率の向上が図れました。また、稼働状況のデータをもとに、よりハイスペックな機器を新たに導入することで、医療の質の向上にも貢献できています。

医療関係者間コミュニケーションアプリの導入

本事例は、医師の働き方改革や、遠隔による手術支援のニーズに応えることを目的としたものです。医療・福祉分野におけるICT企業であるD社では、医療関係者間コミュニケーションアプリを開発することで、リアルタイムに手術支援が求められるサービスを構築・提供しました。本アプリでは医療情報のガイドラインに則った安全な環境で、手術カメラの映像などを病院外でも参照できます。そのため、執刀医が院外にいる指導担当医などから、遠隔で手術の支援を受けられるのです。スマホが1台あれば簡単に手術をサポートできるため、指導医が常に病院の近くで待機している必要がなくなり、ストレスからも解放されるというメリットもあります。

遠隔チェックインの導入

本事例は、患者の利便性の向上や院内業務の最適化・効率化を目的としたものです。本件は複数企業の協働による「IoTを活用したスマートホスピタル実現に向けたプロジェクト」の一環として取り組まれました。遠隔チェックインでは、診察日に患者が病院の最寄り駅に到着すると、アプリ内で遠隔チェックインのボタンが起動されます。患者側でチェックイン操作をすれば、来院時刻までの時間を街の施設で過ごせるという仕組みです。患者の行動はリアルタイムで病院側の管理画面に通知され、自動的に再来受付が行われます。通常患者が通院する際には、再来受付でチェックインした後、自分の順番がくるまで待合室などで待ち時間が発生し、患者のストレスとなっていました。遠隔チェックインではそうしたストレスの軽減が見込め、また病院側としても、再来受付機や再来受付業務のスリム化が見込めます。

AI・IoTを活用したスマート・ホーム・メディカルサービスの導入

本事例は、AI・IoT技術の活用によって在宅医療を支援することを目的としたものです。E社が提供する本サービスでは、自宅にAIしか見られないAIカメラを設置し、取得した映像をAIが解析することで、転倒・長時間不在といった異常の検知が可能になります。さらに本サービスでは、病院から患者のもとにあるタブレットを遠隔操作し、患者の様子を伺う「お声がけ機能」や、患者の身体状態を明確に把握するための「バイタルデータ収集機能」なども提供しています。

スマートホスピタルライティングシステムの導入

本事例は、患者の利便性の向上を目的に導入されたものです。F社が提供する本システムは、通信技術が活用された、病院向けの照明制御システムです。生物にはサーカディアン・リズムと呼ばれる約24時間周期で変動する生理現象があり、人間の体内時計では“睡眠から覚醒する”、“ホルモン分泌をコントロールする”といったことを行っています。本システムではそのサーカディアン・リズムに沿った照明を手軽に実現できます。具体的には、一日を5つの時間帯に分けて個別に照明の設定ができたり、一年を四季に分けて季節ごとに照明を設定できるなどです。

まとめ

スマートホスピタルは「IT技術を用いることで、医療機関における質を向上させるための戦略」を指しており、“医療業界のDX”といわれています。本コラムでは、スマートホスピタルの事例として、音声認識ソフトと電子カルテを連携した病院や、ウェアラブル端末を導入した病院、スマートホスピタル化に関するシステムを開発した企業のご紹介をしました。

人口減少や少子高齢化が叫ばれる現在、医療従事者の確保は医療機関の大きな課題です。働き手を確保するためにも、働き方改革をし、医療従事者に選ばれる医療機関を目指す必要があるでしょう。一方で、医療の質は落とさずに、患者の満足度の向上も目指さなければなりません。その課題を解決する手段として、スマートホスピタルは病院経営に欠かせない戦略であり、今後の医療機関を支えていくといっても過言ではないでしょう。

スマートホスピタル化する病院は今後増加すると予想されますが、一方で従来のやり方を変えることは容易ではありません。専門的な知識や技術も必要となってきます。

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