社外取締役のあるべき姿をどのように考えるか【後編】

社外役員

2019年10月01日(火)掲載

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企業側(執行担当役員など)の社外取締役への対応

企業のほうから見ても、社外取締役とどう接してよいのか、を悩んでいることがあるのではないでしょうか。日常的に議論をしている相手ではないこと、終身雇用の仕組みのなかで「長い付き合い」ではないことなどが、どうしても心理的な抵抗感を生み出してしまうのではないかと思います。

とくに、社外取締役のところで記した「意思決定の妥当性の確認」という部分については、企業側が決定したことに反論される場のような意識を持たれるでしょう。しかしこの部分については、執行担当の皆さんに意識を変えていただくしかありません。

世の中の流れが、意思決定の論理性、透明性をより強く求めるように変化した結果、社外取締役という仕組みができたわけです。これからは、関係者全員がいかにうまく社外取締役を利用するかを考えていただきたいと思います。

前述したように、リスク管理の面、他のビジネス上の可能性などにおいて、社外取締役からいかに自社では考慮しなかったような情報、アイデアを引き出すかを考えていただければ、それぞれの役割がうまく果たせるようになります。逆に言えば、そういう反論や、別の可能性の提案をできない社外取締役だとしたら居てもらう意味がない、と考えていただければと思います。

社外取締役の採用で失敗した例もいくつか聞いたことがありますが、ありがちなケースとしては、「的外れな質問、コメントが多くて、取締役会の議論が迷走してしまう」、「これはこうするべきだとの主張が強すぎて、経営判断の原則がないがしろにされる」というようなことでしょうか。

いずれの場合も、その社外取締役の適性判断が十分でなかったか、あるいは就任後のコミュニケーションが不足しているということだと思います。やはり、企業側は自社の事業にとって有効な貢献をしてくれる社外取締役を採用すべきで、CGCで決められた形式要件を満たすだけのために採用すべきではありません。

社外取締役の適性という意味では、弁護士、会計士などのプロフェショナルに加えて、その企業の事業の本質、ビジネスモデルに土地勘のある事業経験者をチームに加えることをお勧めします。

社外取締役の役割のところで書いたように、社外取締役が取締役会での意思決定の妥当性を検証するには、上程される資料が必要十分であることが前提です。多くの企業において、重要な意思決定は経営会議のような下部組織で行われ、その概略が取締役会に上程されて追認するというようなプロセスがとられています。

しかし、どういう情報が社外取締役にとって必要かということへの理解が不十分なケースがあります。このあたりについても、社外取締役と執行担当役員とのコミュニケーションのなかで、少しずつ改善していくことを勧めます。一つの具体的な策としては、過去の決定事項について、こういう情報が不足していた、こういう情報が不必要であった、というようなレビューを行うのも一考です。

社外取締役に対して、必要十分な情報を提供する、ということは、取締役会に上程される資料に限りません。たとえば、経営会議、常務会などの取締役会から委任されて運営されている委員会の議事録の取締役会への報告であったり、重要な職員の人事異動の報告であったり、取締役会に報告すべき案件は少なくありません。また上述したように、広報関連の情報の社外取締役へのすばやい連絡も仕組みとして作っていただくに超したことはありません。

社外取締役がモニタリングの機能を果たすということは、結果的に執行担当役員の皆さんを守ることにもなります。つまり、取締役会の意思決定が善管注意義務を果たしている限りにおいて、ほとんどの意思決定は経営判断の原則で守られています。

ですから、今後日本でも起きていく可能性のある株主からの訴訟などに対応する準備という意味でも、社外取締役が納得できるレベルの情報共有をして、すべての意思決定の妥当性を社外取締役がサポートできる体制をとるようにしていくべきです。ここでも、やはり「信頼関係」をどう構築できるか、が重要な要素となると思います。

取締役会の将来像

CGCは今後もさらに充実していく(強化されていく)ものと思います。

もはや過去のやり方に後戻りするということはまずないでしょう。CGCを遵守する、さらに言えばCGCで書かれていることの主旨、精神を前提として、より透明性の高い企業経営を目指していくという方向に舵を切る時期にきていると思います。執行担当役員が社外取締役・監査役とどう向き合うか、という議論自体が、短期的なtransitionの課題であり、本来向かうべき方向に向かって一歩ずつ前進するという意識を各企業が持つことが第一歩だと思います。

大きな流れとしては、取締役会と執行の分離、つまり取締役会のモニタリング機能の強化が経営の透明性を高め、株主に対する必要十分な情報を提供するために必要なことと考えられます。

最近では、これまでの単純な利潤追求型の事業経営に加えて、ESGの観点、そしてSDGsという新しい要素が取締役会の課題となります。取締役会の役割自体が、株主に対する責任(利潤追求)に留まらず、より大きな意味での社会的責任をどう全うするかということにシフトせざるを得ないということでしょう。

特に日本企業においては、一つの会社、一つの事業に携わって取締役になった人材が多いということもあり、このような大きな視点で企業経営を考えることに慣れていない方が多いのではないかと思います。だからこそ社外取締役の役割もより一層重要なものとなっていくのではないでしょうか。

日本企業が今後も世界で競争力をもって事業を行っていくことを考えると、株主の外国人・企業比率もさらに高くなっていくものと思います。そうなると、IRという意味でも社外取締役の責任は重くなります。CGCに先駆けて施行されたステュワードシップ・コード(SC:投資機関の行動規範)が、あまり話題にならないとともに、国内の大手投資機関の対応が遅れ気味のように感じます。

しかし、海外の投資機関はSCに準じた動き方を強めてきています。遅かれ早かれ、機関投資家への説明においても社外取締役の役割、貢献などが議論されることが想定されます。

社外取締役に就任している私たちも、こういう時代の変化に遅れることなく対応しなければなりませんし、その変化の形式ではなく本質を見極めることが必要となります。要は情報収集と勉強を欠かせないということです。

正直なところ、法律そのものの変化の速度も速くなっていますし、SDGsのような新しい考え方もどんどん入ってきます。その意味を理解し、取締役の責任を負っている企業にとってどういう意味があるのか、具体的なアクションを求められるのかなどについても、客観的な立場での持論を持つ必要があるように思います。

また、5Gに代表される通信環境の変化、ロボティクスなどの技術革新もあらゆる事業に多大な影響を及ぼすでしょうし、これまで以上に速い速度でビジネスモデルの転換を迫られることになります。私自身、その速度についていけるのか、不安な部分がないわけではありませんが、あらゆる新しいことに好奇心を持って取り組んでいく姿勢だけは保ち続けたいと考えています。


※記事は執筆者個人の見解であり、パーソルキャリア株式会社の公式見解を示すものではありません。

ライター上田 昌孝氏

アメリカンホーム保険会社会長やセシール会長、フジ・ダイレクト・マーケティング社長、ディノス・セシール会長を歴任。現在は、公益社団法人会社役員育成機構(BDTI)理事、日本マクドナルドホールディングス株式会社社外取締役、株式会社東日本銀行社外取締役などを務める。

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