自動運転時代に向けたビジネスを考える|生活変化から考えるビジネスチャンス

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2020年11月11日(水)掲載

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生活には欠かせない存在である自動車。車がないと生活できないと感じる人も多く、人間にとって非常に重要な存在であることは間違いありません。今回はその自動車運転の時代が来たときにどのようなビジネスチャンスがあるのか解説していきます。

自動運転を待ち望む声

数年前のことですが、不動産会社の友人に首都圏郊外のオールドニュータウンの再生プロジェクトをいっしょにやらないかと誘われたことがありました。東京から少し距離があるのですが、約25年前に丘の上を大規模に開発され、緑も町並みも大変美しいので、当時はちょうど現役を引退された方々の移住先として大変人気だったそうです。最寄りの駅から約5km程度あり、生活にはクルマが欠かせませんが、最近では在宅勤務が可能な若い夫婦にも人気があるそうです。しかし、当時の第1世代の方々は既に80歳を迎えています。

 そんなところですが、まずは住民の方々の意見を聴こうと言うことになり、自治会の協力を得て住民意見交換会を開催していただきました。出た意見は予想通り、「免許返納後は出て行くしかない」、「家族が頼りだ」、「自動運転車が解決してくれるんじゃ無いのか」、「すでに歳なのでそれまで待てない」など。みなさん現地が好きで生涯住み続けたいと思っているものの、いよいよとなると都会のマンションに再度住み替えを考えている人が多いことが解りました。

POINT

・高齢者は自動運転を待ち望んでおり、特に郊外に住んでいる人は、免許返納になった後に暮らしづらい世界に懸念を感じている

自動運転車実用化のロードマップ

自動運転車の実用化計画に関しては、7月に内閣官房から「官民ITS構想・ロードマップ2020」が公表されています。一般道路(生活空間)における自動運転(レベル4相当)の実用化は、自家用車では2030年でも実現しないことになっています。しかしながら、移動サービス、すなわちバスやタクシーなど公共交通では2026年以降に、遠隔監視が必要なものの、自動運転サービスが普及し始めるとあります。

自家用車の自動運転

前者の自家用車の自動運転化については、たとえ実現できたとしても、車両価格は非常に高くて一部高級車のみの適用になると思われます。むしろ、自動運転技術が先進安全自動車(ASV)として一般車へも適用されるのが現実的かつ有益だと思います。すなわち、ドライバーの疲労低減や、まさかの時に安全に停止してくれる、いわゆる“ぶつからないクルマ”として役だってくれることでしょう。

移動サービスの自動運転

後者の移動サービス分野での活用が例えば高齢化および免許返納後の移動手段などの社会課題解決に強く求められており、早期に実用化されることが期待されています。
 実用化までには、技術のみならず、法整備、自動車保険、社会受容性など解決すべき課題が山のようにあることは言うまでもありません。例えば技術一つとっても、高齢者が自動車への乗降する際の支援や無事に着席したことの確認などが必要で、自動運転技術のみでは運転手の役割の全てを代替できているとは言えません。

POINT

・自家用車の自動運転化については、車両価格は非常に高く、一部高級車のみの適用になる見込みである。
・移動用サービスなどの自動運転の実現が早期化しそう。

今できるモビリティサービスを検討

移動サービスでの活用が強く期待される自動運転技術ですが、それでも普及時期は2026年以降になるとの事でした。先にご紹介した首都圏郊外のオールドニュータウンでのご意見は「すでに歳なのでそれまで待てない」です。なんとかして、今できるサービスから始めて行こうということになり、検討した結果、以下のような案に集約されました。

・団地内のみを定期的に周回する乗合いタクシーの運営
・日常生活圏を周回するコミュニティバスの運営
・周辺地域を運行範囲とするフルオンデマンド型の乗合いタクシーの運営

住民アンケートの結果、いずれもそれなりの利用率が見込める見通しとなったものの、具体的に事業化検討したところ、残念ながら、ドライバー人件費が高くてとても継続できないことがわかりました

 実は、地元の市では既にオンデマンド乗合いタクシーが運営されているものの、利用料金を安く設定するために、市役所による補助金によってようやく維持されているそうです。一般タクシーを終日借り上げて運行しているのに、一回の利用料金がバス並みの料金なのだから、その差額が補助金によって賄われていることになります。その点、自動運転車ならドライバー人件費が基本的に不要になるのだから、補助金に頼らなくても事業成立だろう、と期待されるわけです。

POINT

・高齢者は自動運転を心待ちにしており、確実にニーズがあるので、2026年の実現までの間の代替サービスは、かなりの利用率が見込めるだろう。
・ただ、ドライバーの人件費は非常に高く、事業化するとなると、なかなか難しいのが実情である。

事業化成立に向けて

幸いにして、現地は非常に地域活動が盛んで、夏祭りはもちろん、住民有志によるマルシェ開催やコミュニティサークルなどの活動が活発に行われています。その活動をさらに広げて、団地内全域の防災システムや留守宅の警備保障サービス、団地内宅配物などの一括受取りと再配達の集配センター、老齢者の健康みまもりサービスなどなど、団地内住民のための互助サービスを実施してはどうかとの意見が出ました。先に述べた地域内モビリティサービスも含めて、団地内の全住民のための共益サービスとして位置づければ、モビリティサービス単独で実施するより、事業性が高くなります

 周知の通り、一般の分譲マンションでは共益費が徴収されて共用部や集会場などのサービスを提供していますが、その戸建て団地版のイメージです。これに似た例として藤沢市の“Fujisawa SST(サスティナブル・スマートタウン)”があります。太陽光発電などを活用した「創蓄連携システム」や団地内各所に防災施設が設置され、「見守りカメラ」で24時間監視されるなど、自治会傘下にタウンマネジメント会社を設立して運用されているそうです。

 今回の郊外オールドニュータウンでは、事情があって具体的な検証まで着手できませんでしたが、今後期待されるビジネスモデルかも知れません。
 その他にも、地方の観光地では来訪客向けのみならず、地元住民用の生活交通としても利用可能なオンデマンドタクシーを導入する方法も考えられます。この場合は、地域内の観光施設や商業施設から協賛金を頂くことにより、事業性を確保する方法などが考えられます。伊豆下田市で東急電鉄(株)が行っている“Izuko“などがこれに当てはまると思います。

POINT

・モビリティサービス単独では事業化は難しいが、団地内の全住民のための共益サービスとして位置づければ、利益は生み出しやすくなる。

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自動運転車事業化に向けての課題や注目ポイント

モビリティサービス単独での事業性確保のための課題を今一度整理しましょう。

ドライバーの確保

ドライバー人件費が基本的に不要となる自動運転によるサービスが期待される訳ですが、どこまで有人なのかは予め整理する必要があります。

技術的課題など

事業化に向けては技術的課題、規制緩和・各種法律整備、利用者自身の受容性確保はもちろんのこと、これまで地元の交通サービスを担ってきていただいた交通事業者との調整が重要です。将来、いずれ自動化されることが予想されるにしても、期間をかけて徐々に準備をしつつ切り替わることが望ましいと思います

全ての関係者の関係性

利用者、既存の交通事業者、そして自動運転サービス導入者がそれぞれウィンウィンになることが望ましい。それをターゲットとして、今できる有人によるサービスを共同して充実しつつ、利用者や交通事業者双方の理解を得ることが重要では無いかと思っています。

POINT

・実際に事業を作成する際は、ドライバーの確保(自動運転)か、技術的課題、関係者同士の関係性を加味し、ベストな策を考える。

自動運転車のさらなる活用領域

 以上、デマンド型乗合いタクシー等によるモビリティサービスの事例を紹介しましたが、他にもいろいろな活用シーンが考えられます。住民意見交換会のなかから出たいくつかの例を紹介します。

・団地内を自動周回するモビリティなら、お客さんのいない時には、例えば各家庭からゴミ集積場までのゴミ出しの支援や各種の荷物宅配・回収への活用が出来ないか。
・駅前スーパーの移動店舗としての活用や近隣の病院の移動診断車としてのサービスができないだろうか。
・空いている時間帯は、地域の商店等、複数の事業者に共同して使っていただく事により運行効率向上が期待できそうだ。

自動運転車の実用化には自家用車への適用と移動サービスへの適用の2つのルートがあります。前者は先進安全自動車(ASV)の進化として期待されているが、後者は高齢化社会の社会課題解決の手段として、前者に先立ち、早期の実用化が期待されています。
 自動運転車による移動サービスの事業化には、住民および交通事業者双方に対して時間をかけて理解醸成することが必要です。

そのためには、今できる有人運転での移動サービスから着手して、理解醸成と運用ノウハウを蓄積することが重要だと思いますが、現状では地方自治体等による補助金に頼らなくては単独での事業化は困難です。
 持続可能なモビリティサービス実現のためには、スマートシティをはじめとした「まちづくり」「コミュニティ」の構成要素として検討するのが重要だと思います

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VUCAの時代がやってきて、個の力が重視される時代になってきております。会社という枠組みを越えて、外部の人材に頼り、自社を成長させることを少し視野に入れてみましょう。

執筆者H.K

大手自動車メーカー開発センターにてエンジン研究開発・全社環境戦略策定・モビリティ研究・モビリティサービス事業の企画/実証を担う。とくに、高齢者移動支援ではさまざまな地域自治体と共同プロジェクトを実施した。現在は、独立してモビリティサービス事業のアドバイザーとして活躍中。

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