営業力を強化するセールスイネーブルメントとは?

マーケティング

2020年08月07日(金)掲載

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VUCAの時代です。環境変化が大きく先行きが見通せない中、企業の収益に直結する営業活動はダイレクトに影響を受けています。企業ではビジネス変革へ向けて従来からSales Techとも言われるSFA、CRM、WEB、MAなどの各種ツールの活用やデジタルマーケティングなど戦略手法が研究されており、その様な中でセールスイネーブルメント(Sales Enablement)という言葉を耳にすることが増えてきました。
近年、日本の労働生産性や国際競争力の低下が止まりません。今回はそのような状況打破のためにも、セールスイネーブルメントという言葉が意味することを企業活動の本質の観点で解説します。

セールスイネーブルメントとは

その言葉を筆者は、『営業機能強化を企業としての全体最適で推進する戦略的施策』と表現します。その施策は持続的に改善サイクルで進めるため、目標達成へのKPIを用いて科学的に対処していく活動を行います。
従来の営業機能は営業担当個人に依存することが多く、特に勘と経験と度胸(いわゆるKKD)に頼る部分が大きくありました。しかし現在では、大きな環境変化や社員の定着率低下などにより、営業担当個人に依存していられなくなってきています。
そこでSales Techなどのマーケティングツールの活用効果を向上させ、事実データを活用することで、全体最適での組織活動を定量化し、評価しながら推進する様に見直されてきており、セールスイネーブルメントという言葉が注目されるようになってきていると筆者は考えています。

この言葉自体はマーケティングの進んでいるアメリカで使われはじめたようです。ビジネス用語は様々なものが出てきますが、営業を全体最適で戦略的に強化していこうとするこの取組みは、本来ならば当然のことであると筆者は考えています。

なぜ今セールスイネーブルメントが必要とされているのか

2020年に始まった新型コロナウイルスの急速な感染者増大によって、ビジネス市場は大打撃を受け、企業での働き方はリモートワークが取り入れられ、コミュニケーションや情報入手の方法が一気に変わってきているように思います。 ビジネス環境としては3年の変化を3か月で強いられたとも言われています。
その様な中、外食ルートへのBtoBビジネスであった食品製造事業が、消費者が直接オンラインで購入するBtoCになってしまい、販売方法を変えなければならなくなったケースもあるようです。
その変化はアフターコロナを待っても、以前の状態に完全に戻ることはもう無いであろうと筆者は見ています。戻らないだけでなく、環境変化という意味では今後は更にインパクトが拡大し、高頻度化すると予想しています。

だからこそ、徹底的にビジネス変革の本質を見つめなおさなければなりません。

収益に直結する営業は、その最たるものであり、従来からも言われていたように企業活動そのものは常に変化しなければならないということがいよいよ本格化し始めたということです。

では、従来の対応はどのような対応であったのでしょうか。
例えば、『XXマーケティング』の様な言葉が氾濫しており、様々な手法と共に活用されるSales Techツールが組織毎にそれぞれで導入されてきました。その個別最適の対応には課題が多いことも事実です。

ITツールを選定する際に、その設計思想が導入目的と自社個性に合致しているかどうかを検討するのですが、個別に導入されるツール間でそれを統一することはできません。ツール間でのデータ連携も大きな課題です。
従って、それらのツール群を使いこなすのは非常に困難であり、期待していた効果が得られないケースが少 なくありません。

図:筆者作成

設計ポイント

Sales Techの個々の機能強化は、優秀な営業担当を想定して設計されますので、まずは成功している営業担当の【担当市場とお客様】、【実際の行動】、【保有しているability】の3つを分析して、そこからわかることを、他の営業担当育成や各種機能強化へ繋げることが有効です。
今回はセールスイネーブルメントがテーマですので、このような人事戦略については別の機会に譲り、営業部門個別ではなく、本来あるべき着眼点として企業の全体最適での設計ポイントに重点を置いて解説します。
特に以下の2点については本質的なセールスイネーブルメントとして重要な項目です。

① お客様中心と自社の強みを生かす両極アプローチによる戦略策定
徹底的かつ定期的な市場分析とお客様理解によるターゲティングは当然ですが、そこに自社の強みを掛け合わせた【機会】を見出すことが重要です。営業のみならず、サプライサイドやバックオフィスなどにも強みがあり、自社の個性を生かす全社での戦略策定を、社内に散在しているナレッジを融合/蓄積/活用しながら推進します。

② 企業全社での戦略共有と全体最適
戦略を全社で共有して、営業やサービスだけでなくマーケティングや更には商品企画開発や品質部門とも連携してトータルにカスタマーサクセスを目指します。全社で取り組むため、Sales Techの各ツールと基幹システムとを連携させてデータ活用を行い、事実データによるKPI管理で持続的活動に繋げます。
個別最適より時間が掛かると考えがちな全体最適ですが、しかし、得られる効果は圧倒的に全体最適の方が大きく、持続性も得られます。従って、スピード感と効果目標を意識して推進することが必要です。

従来は、短期間でのコスト削減にフォーカスされてしまうことで本質的な対応になりにくく、社内調整に時間を費やすのではなく、身近なところで出来ることをやっていこうとすることで、個別最適での推進になりがちであったと筆者は考えています。
そのような目の前の課題対応だけではRoot Causeへの対応に行きつきません。従って、セールスイネーブルメントを設計する際は、スピード×効果×持続性に着目して、効果を最大化する変革をアジャイルかつ持続的に進める、という活動コンセプトが必要です。

上記2点をもう少し詳細に下記に解説します。

お客様中心と自社の強みを生かす両極アプローチによる戦略策定

マーケティング戦略の3Cでは、特に市場と自社の分析が重要です。まずは環境変化に影響を受けている市場の分析からお客様を理解して、お客様定義をします。そのお客様のベネフィットに繋がる自社の強みを生かすことで、効果の最大化を狙います。このようにして『お客様』×『強み』を戦略のベースにします。

事業や商品の成熟度または市場の環境変化によってターゲットとすべきお客様は変わるので、定期的にお客様定義を見直し、それを一連のバリューチェーンに関わる関係者で共有します。
戦略策定において、他部門との議論が噛み合わないことが起きます。そのような経験が筆者にも度々あり、そのような時は『あなたが想定しているお客様は誰ですか?』と問いかけて思考の軸合わせをするようにしていました。ターゲットとしてのお客様定義を共有することで、関係者それぞれが保有するノウハウを融合して活用することが可能になり、それが企業としてのナレッジとなって効果的な戦略策定に活かせます。

その戦略では自社の強みを生かすことで競争力を強化できます。その強みは決して営業力だけではなく、商品企画や品質またはサポートなど多くの現場に存在しています。それがお客様のベネフィットになるように戦略策定をすることが重要です。例えば、営業やサービスは既存客の生の声を把握しており、マーケティング部門は市場動向をマクロで研究しています。また、商品企画は技術も網羅したナレッジを保有していて、これらのノウハウは企業として重要なナレッジであり、戦略策定の重要な根拠になります。

企業全社での戦略の共有と全体最適

全体最適で進める以上、全社で共有するKPIを事実データに基づいて管理することが必要です。
部門内の個別最適であれば、ある程度の曖昧な、または多少個人に依存するような評価で運営は出来たのですが、全社で効果の最大化を狙う為には、全社で納得のいく管理指標が必要です。
SQLとMQLの取扱いや、またはチャネル別のCX設計などに関する営業部門とマーケティング部門の顧客接点側での連携だけでなく、全体最適として重要なのはサプライサイドやバックオフィスとの連携です。

DXとしてデータの利活用と業務システムを設計する際には、お客様データを共通語にするためにそのデータレベルに注意します。例えば、以下のように機能毎で異なるお客様の単位を連携する設計が必要です。
✓webアクセス :お客様はアクセスログのアドレス
✓MA :お客様は個人
✓ SFA/CRM :お客様は組織と個人
✓売上実績 :お客様は企業
✓SCM :お客様は届け先としての組織または倉庫
✓生産計画 :お客様は地域としての集合体

これらのシステム間連携は、お客様をキーにしたデータ連携を中心に設計を行い、その必要性はバリューチェーン自体が連携することの重要性を示しています。これは個別機能では限界があった効果を最大化させるための課題であり、セールスイネーブルメントがDX戦略と連携するべき理由と言えます。

このように、マーケティング戦略と同時に個別デジタルツールや全社データ活用するDX戦略との連携は非常に重要です。

更に連携が重要な管理部門として人事部門がありますので、次項で解説します。

推進の体制とステップ

営業部門だけではなく、以下のような関係部門でダイナミックチームオペレーションを行い、活動マネジメントをするチームを設置して、目標と進捗をKPI管理します。全体最適な仕組みにするため、そのKPIは全社の関係者が納得できる事実データで見える化します。
✓マーケティング部門:カスタマーサクセスとしての勝てる戦略の中で最適な営業機能を設計します。
✓経営企画部門 :経営方針との連携によって営業機能を全社活動に整合させます。
✓商品企画部門 :販売する商品の狙いや特性を営業と連携し、次期商品企画へフィードバックします。
✓サプライ部門 :サプライチェーンと営業機能を連携させることで最適な配送を実現します。
✓品質管理部門 :使っていただく中でのCS向上とサービスや開発製造へのフィードバックをします。
✓DX推進部門 :データサイエンスによる戦略策定や、Sales Tech各ツールと業務システムの連携による最適化を推進します。
✓人事部門 :従来の受注金額での営業評価ではなく、全体最適で活動する社員評価制度を制定し、自社ブランドを体現する人財を開発します。

社員行動を自部門都合ではなく、企業としてのブランドを体現するように強化するため、社員の評価基準を見直す必要があり、人事部門の参画は必須となります。
(「3.設計ポイント」でも紹介したように、人事戦略の必要性は今後益々大きくなります)
特に従来の営業評価は、受注金額または売上金額で行われましたが、今後は新規客開拓とのバランス、またはクロスセルとしての販売商品バランス、更には新商品企画への情報インプットなど、戦略に基づく内容に評価基準を変えることで行動改善を仕向けていきます。
それに合わせてSales Techの各ツールへの投資バランスも全社でのDX戦略として検討を行います。

要するに、制度と仕組みをセットで構築するのですが、それは戦略の見直しがベースになるのです。
これら【制度×仕組み×戦略】を徹底的かつ定期的に教育することで、社内にセールスイネーブルメントとしての考え方や施策を刷り込んでいき、それをその企業独自の人財開発とするのです。

まとめ

営業強化の施策は常に必要ですが、やみくもに自社の売上げを伸ばすだけで良いのでしょうか。
企業として成長を目指して日々努力をしていくのですが、自社の売上や利益だけの目標ではお客様中心の考え方から逸脱しかねません。
お客様のベネフィットに繋がることを提供価値として支援していき、その結果が自社への受注となるように、自社の営業強化は即ちお客様へのソリューションであるべきです。従って、時には売れなくとも市場に対して将来への提案も必要であり、また自社商品だけではない解決策の検討も本来ならば検討すべきです。
それこそが多くの企業のMissionやVisionなどの理念で貢献として謳われている企業ブランドです。
そして、企業ポテンシャルをフル活用しながらそれを体現することで、お客様と企業とのWIN-WINの関係が構築され、その結果として得られるのが売上なのです。

図:筆者作成

このようにブランドプロミスは、個々の営業効率化施策によるのではなく、関係者全員が経営視点を持って行う活動として示すものであり、セールスイネーブルメントという言葉によって改めてその本質を見つめなおす機会にしていくべきです。

このコラムで筆者が最もお伝えしたいことは、【売るべきモノを作る(又は調達する)のであって、作ったモノを売るのではないということです。従って、営業活動は営業部門を中心にマーケティング、商品企画、SCM部門などのバリューチェーンとして連携し、企業の個性を生かすために管理部門も含めた【経営視点による活動】で変革を推進するべきである】ということです。そして経営リーダーは自ら社員をその方向へ導くリーダーシップを発揮するべきです。
失われた30年の間、それが出来なかったがために、冒頭で言及したように日本の競争力が低下しているのであろうと筆者は考えています。この本質は、本来新型コロナウイルスが蔓延する前から同じなのですが、今こそ着目すべき時期なのだと筆者は考えています。

ライターH.Y氏

31年間製造業界の大手企業3社でITとマーケティングを推進。ITでは業務改革から情報システムを構築し在庫半減を実現。マーケティングでは営業と商品企画およびブラディングとしての経営計画をデータ分析の活用と共に戦略推進し、デジタルマーケティングで当時の引き合い数の10倍化に成功した実績も有り。

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