リモートワークでも成果を上げる営業とは〜チームで営業力を最大化する

営業

2020年10月12日(月)掲載

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リモートワークでの営業での課題

新型コロナウイルスの対策のため、営業活動にリモートでのタッチを取り入れている企業が多い。例えば、商談を一部リモートにし、オンラインで営業活動を行う、などである。営業マンは基本的にクライアントの意向にそぐうように行動するものなので、これにプラスして、クライアントのデジタルリテラシーや要望に対しても、考慮し柔軟な対応が求められる。

このため、例えば以下のようなことが大きな課題だと言える。

リモート営業でのコミュニケーションの難しさ

今まで対面していたものが急に対面で行うことができなくなってしまうため、そのコミュニケーションの仕方に「慣れ」や「ノウハウ」が必要である。例えば、リモート画面においては、画面上の相手の顔を見ても目が合わないため、カメラを見て話すことで、目が合っているように見せることができる、など、仕組みを理解した上でのノウハウが必要になるのである。

クライアントの意向に応える力があるか

デジタルリテラシーがなく、リモートでの商談に対応できないクライアントや、その他にも、オフラインを好むクライアントもいるだろう。その場合に、リモート環境での会議の指示を行う対応や、一部オフラインを混ぜる対応などがどれだけできるかも、企業によって差をつけられる勘所となる。

POINT

・リモートでの営業が増えてきている。
・リモートでの営業には課題が多くあり、コミュニケーションをとりやすくするためのノウハウや、クライアントへの対応力が求められる。

リモート営業でのコツは、いかなる個人より全員のほうが賢いということ

いかなる個人より全員のほうが賢い」、世界で最もイノベーティブな会社と言われる、IDEOの共同経営者トム・ケリー氏の言葉である。
セールスという機能や抱くイメージは人によって多少の差はあるものの、「個」の能力が重視される傾向が強い職種の1つでは無いだろうか。しかし、これからの営業はチームの力が勝敗を決める世界観となる。

昨今のAI化、デジタル化のスピードは、我が国でもコロナ禍によって10年以上一気に促進された。しかも既存の延長線という促進ではなく、未知の領域が多分に含まれた促進である。
時代が進むということは、新しい職種の出現と共に、変化のスピードに追いつけない機能や職種が淘汰される時代の到来ということでもある。

営業という職種においても例外ではなく、求められる役割の変化や進化が必要な機能が既存の延長線上には無い、大きな転換点を迎えようとしている
即ち、顔を出せば仕事になる、先輩や上司に聞けば解が見えやすくなる、顧客にニーズを聞く、或いは交渉すればある程度受注できるという世界から、顔を出せず、解を聞く相手がおらず、顧客にも決め手が見えない中で如何に価値を創出できるかが問われる時代なのである。

上記の世界観に適応するためには、1人のスーパーセールスだけでは力不足で、複数の視座、視点、視野からの価値を検討できるチームとしての機能が不可欠であり、冒頭の言葉通り、全員の知恵の集積が求められる世界、即ち、いかなる個人より全員で賢い知恵を出すことが求められる世界となる

例をあげよう。016年のリオデジャネイロオリンピックにおける男子100メートル×4リレーで、日本は見事銀メダルを獲得した。
データを客観的に見ると、金メダルのジャマイカチームの4人のベストタイム合計=38:89、失格とはいえ、実質3着のアメリカチームで=39:15、つまり個としての能力がずば抜けた集団であった。

対して日本チームは=40:38。ジャマイカとは約1.5秒の差だが、オリンピック選手の100メートル走の場合、およそ15メートルの大差が出る程の開きとなる状況だ。
しかし、結果はジャマイカ37:27、日本37:60、失格のアメリカは37.62という堂々の2着であったことはご存知の通り。
※出典:https://www.joc.or.jp/sp/games/olympic/riodejaneiro/sports/athletics/result/0819.html
1+1が>2となるチーム力を発揮し、集団力で勝利した好例と言えよう。

POINT

・いかなる個人より、集団がもたらす力は大きい。リモートワーク営業においても「集団」や「チーム」を意識していくことが重視される。

セールスチーム最大化のキーポイント=リードセールスのアサイン

セールスという文脈で考えた場合、これからの不透明な時代において、営業力最大化として今回筆者が提言したい役割が「リードセールス」である。

リードセールスという役割を担うということを一言で例えるなら、「目的を明確にし、達成すべき目標と必要な要素をデザインできる人材」となる。
言葉で定義すると、特段目新しい感じはなく、どこか既視感が漂うのではないだろうか。

しかし、大多数の企業組織では、リードセールスという役割を意図して実践し、成果につなげる活動を明示的に行ってきたことがないのではないかと思う。

まず、リードセールスの重要なスキルを3つ挙げてみたい。
1. マルチ専門領域、マルチ視点の活用
2. 仮説立案力
3. ブリッジする力

1. マルチ専門領域、マルチ視点の活用について

1つ目のスキルである、2つのマルチ能力については、最近の人材像の定義で言えば、π型人材、H型人材が近い概念である。
どちらも、複数の専門領域を持ち、知識・経験が豊富であることが共通項だが、もう一歩明確に踏み込みたい内容としては、複数のステークホルダーの視点を持つことである

少し極端な例を考えてみた。

・医学部を卒業し、医師免許を持っているが、製薬会社の開発部門に所属
・実家が調剤薬局
・弟が同じく製薬会社の営業(MR)
・妻が看護師
・父親が病気がちで数年入院
・高校時代の親友が厚生労働省の官僚で毎月会食をしている

稀ではあると思うが、上記のような人材が居た場合、医療という分野を複数の当事者として経験し、更には考え得る情報を持つことが可能な、希少な視点の持ち主であると言えよう。
実際に上記の状況でなくても、ある業種を異なる立場で経験するか、若しくはそれぞれの立場で当事者として考えられる知識を持ち、統合するスキルを持てることがその本質である。

2. 仮説構築力

次に、仮説構築力について述べる。仮説構築ができるという表現は特に新しいものでは無いが、問題はその範囲というか領域である。これまでの延長線では無い中での仮説構築が求められる。

皆さまの中には、フェルミ推定という考え方をご存知の方も多いだろう。イタリア生まれでアメリカの物理学者エンリコ・フェルミ氏が得意であった考え方だ。フェルミ氏は理論物理学と実験物理学の両分野の達人で、極めて稀な才能の持ち主である。
考え方としては、実際に調査することが難しいような捉えどころのない量を、いくつかの手掛かりを元に論理的に推論し、短時間で概算するというもので、未知の領域に対するアプローチとしては極めて重要な方法だ。

代表的な例題として「アメリカ合衆国イリノイ州のシカゴに何人の調律師がいるか?」というものがある。

冒頭でも述べた通り、誰も解を持たない事象に対して、わかっている数少ない事柄から想像し、仮説を導き出す力を鍛えることが今後は貴重な能力となるだろう。
確度の高い仮説を構築できるか否かは、今後の営業の成否に直結することとなろう。

また、当然のことであるが、仮説は検証して初めてその機能を最大化できる。本シリーズ拙著(以下記事)も参照されたい。

3. ブリッジする力

3つ目のスキルであるブリッジする力は、以下の3つの要素をブリッジできることが求められる。

1つ目は、営業的視点と開発的視点、さらにはマーケティング的視点である。
提供する商材が製品であれサービスであれ、機能としての営業、開発、マーケティングは殆どの企業に存在するだろう。
営業は顧客の個別の事情に詳しく、時に顧客側の利益代表者になるほど顧客との関係性を強く持つケースや、売り易さを求めて「売れる商材」を強く求める場合が非常に多い。

一方、開発側は会社のビジョンや製品コンセプトについてのプライドを持ち、時に顧客ニーズより開発視点が優先されるようなケースが起こるほどに自社や自社商材に愛着も持つ場合が多い。

他方、マーケティングはどれだけ伝えられるか、浸透させられるか、そのために大切にすべきポリシーは何かということを最重要項目と位置づけ、商材の詳細な内容や営業のし易さとは別の軸を持つことがあり得る。

本来全員が同じ目標に向かっている筈にも関わらず、個別案件においては必ずしも利害が一致しない場合、その間を繋ぐ機能がリードセールスなのである。

顧客が求めている本来のニーズ(インサイト)と、会社が目指すべき方向性を繋ぎ、向かうべきゴールを明示することで、All-winの実現を担う、方向性、利害のブリッジである。

2つ目のブリッジは、専門領域のブリッジである。
上記の利害調整を踏まえた上であるべき役割を定義し、自社都合でもなく顧客都合でもなく、All-winの実現に向け、足らない要素をどのように調達するかをデザインする。
必ずしも既存の機能では達成できない場合、新規に立ち上げる、若しくは外部からパートナーを調達するなどにより実現する、機能間のブリッジである。

機能のブリッジでは先の仮説構築力が試される。
機能を代表する専門家は自身の領域を深堀する傾向が強く、得てしてサイロ化が進みやすくなる。即ち、専門領域以外の知識や経験、想像力が極端に低くなることもしばしばだ。いわゆる象牙の塔になりやすい。

機能全般を俯瞰し、機能間をブリッジする役割もリードセールスなのである。

最後に3つ目のブリッジは納品までのサポートと、納品後のサポートの架け橋である。
筆者は20年以上コンサルタントを生業としているが、コンサルティングではよくあることとして、納品(導入)前と納品後が連動しないということがしばしば起こる。
主な理由は、運用段階は顧客企業サイドが担当し、コンサルタントに依頼するケースは殆どなく、あってもアウトソースサービスとして別の部門のコンサルタントが担当することが殆どとなるためだ。

つまり、コンサルティングの導入とその後の運用サポートを同じコンサルタントが行うケースは稀となる

コンサルティングに限らず、納品までに起こることや必要な知識・経験と、運用段階で起こること、必要な知識・経験は必ずしも一致せず、想定外の事象が発生することはしばしばである。にも関わらず、そのプロセスがブリッジされていないことが実情だ。

運用状況を知っているからこそ、納品段階で差別化が図れるため、その知識・経験をブリッジし意図してつなぐ役割もリードセールスなのである。

3つのブリッジを説明させていただいたが、それぞれ密接不可分であり、統合して整理する必要があることは既にご理解いただいていると思う。しかし、社内の視点や機能、プロセスをブリッジする役割が、リードセールスが担うべき機能で、全員の知恵を結集し最強チームをリードする。

POINT

チームでの効果を最大化させるためには、
・統合的な視点を持つことが重要であり、
・自社都合でも顧客都合でも効果的になる専門的な視点を持ち、
・納品後もきちんとサポートをしていくような運用をすることが非常に重要である。

リードセールス育成、キャリアパス

最後に、どのように育成するかについても触れておきたい。
ここまで読んでくださった方は、昨今注目されているジョブ型採用と逆行しているように思われるかもしれない。
しかし、多様な経験を積むことと専門性を際立たせることは矛盾しないのである。

経験には深さだけではなく、幅が重要な要素となる。幅だけを増やすようなローテーションを実施しても、深さのある経験値としては十分ではなく、頭でっかちになってしまう危険もあるだろう。

その意味ではまず、しっかりとした深さ(=専門領域)を極める経験を積み、それをベースに幅を広げることが必須となる
脳のシナプスをつなげるようなイメージである。

例えば、数多くのデータサイエンティストを採用しても、それだけでは機能しない。しかし、彼らが自身の専門領域である分析手法やツールの扱いだけに止まらず、自社のビジネス、自部門及び関連するであろう、 別部門の強みや課題、顧客のビジネス、インサイトを理解し、消費者やトレンドを理解していたら最強のビジネスパーソンになることは容易に想像がつくのではないだろうか。

上記を意図するような育成方法やプログラム、キャリアパスを組織の現状を踏まえてデザインし、実施することが肝要である。関わる人々の時間を有効に活用し、顧客にまた会いたいと思わせるために、個人技ではなく、様々な機能、経験、知識の集積で初めて強いセールスチームとなる。その旗振り役であるリードセールスをお薦めしたい

POINT

しっかりとした深さ(=専門領域)を極める経験を積み、それをベースに幅を広げるような、人材育成のプログラムが必須である。

まとめ

リモートワークの営業においての課題と人材育成の方法を見てきた。重要なのは、アフターコロナと呼ばれる世界でも、きっとリモート営業の分野は発展を遂げる必要があるということだ。

コロナ対策により浸透したリモートワークだが、これをきっかけに、今後もリモートワークや在宅勤務を増やす方針の企業が増えてきている。まだまだオフラインでのコミュニケーションが占める割合が多そうだが、業務としてオンラインが伴走するのは間違いない。以上により、一時的な対策だけではなく、長期的な目線でリモートワーク営業を戦略立てていく必要がある

執筆者R.K氏

大手総合電機会社にてシステム開発。その後、外資系コンサルティング会社の3社にて戦略、組織・人事のコンサルティングをリードした後独立。英国海兵隊OBとリーダーシップ開発コンサルの日本立上げを行う。現在は多様性の最大化、不確実性の時代を戦う組織の潜在能力の最大化を実現するサービス提供を行う。

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