リポジショニングによる再活性化の事例、効果や重要性とは~戦わずして勝つマーケティング戦略

マーケティング

2019年07月08日(月)掲載

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そもそもブランド・ポジショニングとは、自社ブランドが発したいイメージ・位置付けをターゲット顧客へ正確に植え付け、自社ブランドと他ブランドの位置付けの違いを明らかにすることをいいます。

 そして、リポジショニングとは、そのターゲット層であった顧客の嗜好やライフスタイルの変化などによってブランドのポジショニングが適切でなくなった場合に、ブランド・ポジショニングの見直しを行い、再活性化させることをいいます。

なぜいまリポジショニングが急務なのか?

 戦後のベビーブーマーによる人口急増は世界的に見られた現象ですが、日本でも1947年~49年(広くは51年)生まれの人たちは、他の年に生まれた人たちに比べ人数が突出しています。この世代は団塊の世代と呼ばれ、消費文化や都市化などを経験した戦後を象徴する世代です。そして、この団塊の世代が現役であった時代に、日本は高度成長を遂げ、さまざまな産業や流通がその基礎を作ってきました。

 この団塊の世代もいまでは70歳を迎え(図2)、その上に少子化が進んだことから、日本は少子高齢化時代に突入し、さまざまな分野で社会問題が起きています。現在の日本経済の基盤が団塊世代の成長とともに形成されてきたので、その団塊世代の引退に経済全体が準備出来ていないのです。

図1
図2

百貨店の売上高推移(図3参照)を例にとると一目瞭然です。

図3

団塊の世代が消費世代の入り口となる30歳を迎えた1980年以降(図1)、来る大量消費に応えるべく大規模小売店舗法の緩和も受けて、百貨店の出店ラッシュが続き、日本の百貨店は黄金時代を築きました。この百貨店売上は1991年にピークを迎えてから、下降の一途を辿っています。そして、団塊の世代が還暦引退を迎える2009年以降は急激な減少を記録し、ピーク時の4割減のまま停滞しています。

 ここ10年を振り返ると、こうした団塊世代の現役引退による少子高齢化社会と高度デジタル化社会による流通革命、さらにはグローバル化によって、社会は複雑化し、価値観も多様化しています。そうなると、当然ながらこれまで団塊の世代をターゲットにして成長を遂げた企業・ブランドが、そのままでは立ち行かなくなりリポジショニングは必然的になるのです。

リポジショニングで絶対にやってはいけないこと

 ポジショニング、あるいはリポジショニングにおいて、やるべきでないことは、よく経営本に出てくるような競合他社(またはブランド)とのポジショニングマップを作成して、戦略を練り直すことです。

 例えば、X軸にデザイン性、Y軸に価格を置いた際、自社は価格的にもデザイン性的にも他社に比べて中途半端な位置にあると判明した場合、競合他社が空いているポジションに自社の位置づけを変えるということです。これは、あくまでも競合との競争のなかで、現在の立ち位置では勝ち目がないので競合他社がなるべくいない場所を見つけて避難することであり、つまり戦いに負けたことを意味します。

『戦わずして勝つ』ために、目指すことは至ってシンプルです。
ナンバーワン」、または「オンリーワン」になれるポジションを見つけることです。

 それは、ポジショニングマップ上の二次元レベルではなく、ターゲット顧客が想起するブランドイメージの位置づけに、時間軸を加えた四次元レベルでなければならないのです。

リポジショニングを進めるステップ、大事なポイントとは?

ブランド・ビジネスを進めていくうえでのミッションとは、ブランド・バリューを上げることと一般的に言われています。それでは、ブランド・バリューとは何でしょうか? 

 これまでの経験から、ブランド・バリューは次の単純な方程式で表すことができると考えています。

    ブランド・バリュー = ブランド認知度 X 購買意欲

 ここで大事なポイントは、「ブランド認知度」も「購買意欲」もターゲット顧客に対してということを念頭に置かなければなりません。

 例えば、15年ほど前にスイスの名門老舗時計ブランドのオーデマ・ピゲからミッションを受けました。日本市場における中心顧客が65歳を超えていたので、これを若返りさせたいというのが課題でした。当時の中心顧客に、「ブランド認知度」や「購買意欲」を調査していたら、数値は高かったであろうことは容易に想像できます。したがって、ターゲット顧客が変わらなければ、ブランド・バリューはそれなりに高かったということになります。しかしながら、ターゲット顧客を40歳前後に置いた場合、「ブランド認知度」はあったとしても、ブランドイメージが高齢紳士の好む老舗時計であったために、「購買意欲」はほとんどありません。知っているけど、父親世代の時計だから別に欲しくはないということになり、ブランド・バリューがあるとは言えないわけです。

 特定のブランドが、これまでの顧客では思うように売り上げが伸びない、先行きの見通しが立たなくなったときに、ブランド・リポジショニングを行います。
ブランド・リポジショニングを進めるステップとして、次のフローが一般的です。

 市場環境の定量的分析 ⇒ 自社商品・サービスがこれまでの顧客に与えるベネフィット、これまでの顧客のライフスタイルの変化などの顧客分析 ⇒ 対象市場の細分化(セグメンテーション) ⇒ 新たな顧客ターゲットの絞り込み ⇒ 新しいポジショニングの決定 ⇒ 新しいターゲット顧客に合わせた商品戦略及びマーケティング戦略策定(流通・価格・コミュニケ―ション) ⇒ リポジショニング実施・検証

 新しいポジショニングを決定する際に、「ナンバーワン」、または「オンリーワン」になれるポジションを見つけることになりますが、ここでの大事なポイントは、ブランドの原点からブレないコンセプト(ストーリー)を創り上げることです。

リポジショニングの実践 -ケーススタディ-

それでは、いくつかこれまで実際に指揮を執ったブランド・リポジショニングの実例をご紹介します。

【ケーススタディ1】 モンブラン

 モンブランは「キング・オブ・ペン」の代名詞として、特に万年筆では業界のトップブランドとしてその名を馳せていました。しかしながら、PCの普及により世界中でペンの需要が落ち込み、ブランドの新しいポジショニングを見つけてやっていくことになりました。

 中世においては法の執行など、ペンは地位の高い人だけが持つことが出来る、権力の象徴でもありました。そこに注目して、モンブランの頂きの万年筆をシンボルマークとする、ライフスタイルブランドへ転換しました。「モンブランを持つことでインテリジェンスな人物に見られる」というコンセプトのもとに、時計、名刺入れ、財布、眼鏡など、いろいろな商品へブランドを幅だししていきました。自らの努力により、ある程度の地位を得て権力やパワーを掴んでいくことに憧れる方々から受け入れられるブランド・ポジショニングへと方向転換したのです。

【ケーススタディ2】 オーデマ・ピゲ

 スイスの老舗時計ブランドのオーデマ・ピゲは、当時日本に上陸してから40年くらい経ちました。気付くとほとんどのコアユーザーが65歳以上の紳士になり、時計の3大ブランドのひとつと言われていましたが、高齢紳士の時計のイメージが付いていました。百貨店の外商員がアタッシュケースにパテックフィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマ・ピゲを入れて顧客の家に伺い、「これを買ったら上がりです」とセールスしていたようです。車の世界では、ロールス・ロイスとフェラーリを一緒にセールスすることはありません。ブランドの世界観があまりにも違うからです。

 時計も本来同じですが、それをきちんとコミュニケーションしてこなかったのです。パテックフィリップは伝統を後世に伝えることを宿命としているブランドです。それに対して、オーデマ・ピゲは常に革新的な技術にチャレンジして歴史を作って来ました。つまり、生き方が全く異なるのです。ブランドの価値は、そのブランドの生き方に共感できるかという点に尽きます。オーデマ・ピゲは世界三大ブランドから脱却するために、「ラグジュアリー・スポーツ・ウォッチ」という新たなカテゴリーを自ら作ることで王者に君臨しました。

【ケーススタディ3】 リヤドロ


 リヤドロはまさに団塊の世代の女性に愛されたブランドのひとつと言えます。かつては欧米に駐在した人たちが現地で大きな家に住み、キャビネットにリヤドロを一つずつ増やしていく豊かな暮らしを経験していました。そのライフスタイルを日本に持ち込んだことで百貨店にもリビングフロアが作られ、ウェッジウッド、バカラと並んで全国に販路を広げました。

 しかし、時代が変わり団塊の世代が現役から退き、若い世代は家にキャビネットを置いてリヤドロを集めることをしません。「リヤドロは何のブランドですか?あなたはリヤドロを買いますか?」と、ブランドに携わるいろいろな人たちに聞いて回りました。すると、ほとんどの回答が、「人形のブランドです。私は買いませんが、今まで作って売ってきましたし、大事にしているお客様がたくさんいます」でした。まずはその認識から変えることにしました。

 「人形」のブランドから、「ヨーロピアン・ラグジュアリー・ポーセリンアート」ブランドへの転換です。それによって、それまで工場と呼ばれていた製作現場をアトリエに。作る人も、職人からアーティストに。商品も人形ではなく、アートピース、作品と呼ぶことにしました。そう変えたことでできることが増え、ブランドの原点である、ポーセリンの造形美をどう現代のライフスタイルに取り入れられるかをテーマに、シャンデリアやアクセサリーなど様々なカテゴリーで創作の幅を広げています。


データ引用元:
図1・2 国立社会保障・人口問題研究所ホームページ (http://www.ipss.go.jp/)
図3 経済産業省ウェブサイト
(https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/archive/kako/20170217_2.html)


※記事は執筆者個人の見解であり、パーソルキャリア株式会社の公式見解を示すものではありません

ライター麦野 豪氏

リヤドロジャパン株式会社 代表取締役社長 兼 アジアパシフィック・オセアニア総支配人を経て現在は相談役。モンブラン、オーデマ・ピゲのブランド・リポジションを指揮し、成功に導く。2019年よりオフィス麦野を立上げ、さまざまな企業やブランドのリポジショニング業務を請け負い、多方面で活躍中。