公共マーケットへようこそ~事業拡大に効く官公庁・自治体ビジネス営業術~

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2019年08月28日(水)掲載

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公共マーケットは古くて新しいフロンティア

官公庁・自治体との取引 には、以下の大きなメリットがあります。

メリット1:毎年必ず予算がある
メリット2:回収に不安がない
メリット3:自社の信用が高まる

年間おおむね20兆円にのぼる公共事業というと、大手ゼネコンによる道路工事や施設建設などがイメージされるかも知れませんが、官公庁の発注は〈工事〉だけではなく、〈物品〉〈役務〉といったカテゴリーがあり、あらゆる分野の製品、サービスが求められています。また官公需法という中小企業の受注の確保に関する法律があり、実に幅広く事業者への門戸が開け放たれています。

全国には1,741市区町村(平成30年10月1日時点) 、47都道府県、200以上の国の関係機関、合計2,000を越える公共体が存在 し、これらはそれぞれ独自に発注を行っており、貴社で扱っている製品・サービスを必要としているところがあるでしょう。20兆円の市場規模、2,000の見込み顧客が存在するのが日本の公共マーケットです。

官公庁・自治体は"好ましい”取引先

"お役所仕事”と言われるように面倒だったり、敷居が高いと思われたりしますが、意外なことに取引相手として"好ましい”のが官公庁です。

民間と比較したとき、たとえば企業秘密というものがありますが、官公庁では情報公開が原則です。説明責任が重視されるので、訊かれたことに答えようという慣性が働きます。"たらい回し”のイメージがありますが、適切な相手に適切に訊ねることで、欲しい情報を手に入れることが出来ます。

しかし何と言っても"好ましい”のは、役所の仕事とは「予算を使う」ことに他ならず、しかもそれは「使いきらなくてはならない」ものだということです(年度末の道路工事の多いのもこのためです)。また、官公庁には粗利という概念がありません。一円一銭の経費削減によって利益を生み出そうとする民間の相手先と比較するならば、その"好ましさ”が理解されると思います。

企業にとっての「予算」は、一般に「達成すべき目標数字」としてあくまで〈予定〉であるのに対し、役所にとっての「予算」は、多くの場合「使えるお金」として、前年度末の議会で〈決定〉されたものと認識されています。

予算編成は、事業を所管する所属の予算要求から、財政部門の査定、首長による査定を経て、議会での承認まで年間の半分にも及ぶ大仕事で、これにかかる時間と手間は相当なものです。そこで予算化された事業は執行され、予算化されなかった事業は執行されない、つまり次年度の事業がここで確定します。

官公庁の事業は、①何をするかを決めて(予算化)その後、②誰に発注するかを決める(事業者選定)。必ずこの順番になります。

入札の際の注意点

官公庁からの発注は効率と公平性・透明性を保持するため、原則として入札やプロポーザル等を経て契約者を決めることになっているので、どうしてもこの〈事業者選定〉に目が行きがちですが、もっとも注力すべきはこの段階ではないということに留意する必要があります。

役所の事業では「いろいろ頑張ってくれたので、全体のこの部分だけお宅にお願いしますよ」というようなことはありません。「取れるか、取れないか」「100点か0点か」なので、参加案件に対する成約率=打率を良くすることが極めて重要なポイントになります。「数打ちゃ当たる方式」は貴重な経営資源の浪費です。

これを避け、官公庁・自治体相手のビジネスで事業拡大するには、自社の強みを活かせる案件に「選択と集中」する必要があります。自社が公共の課題解決に役立つ提案をし、認知され、事業として〈予算化〉させる。

従来から、公共分野でビジネスを育て、成果を上げてきた企業は、ここに最大限の力を注いでいるのです。

重要なのは、人脈ではなく「段取り」

とは言え、自社の製品やサービスをいきなり持ち込んでも、 まず相手にはされません。それがいかに「優れた機能や革新的な提案」であったとしてもです。

民間であれば、年度あるいは半期、四半期での営業成績を上げるために、良いモノ、役に立つサービス、売れる商品があればタイムリーに取り入れるので、その権限を持つキーマンと会う必要があるのですが、役所相手では事情が異なります。必要なのは人脈か。いいえ違います。もっとも大切にすべきは「段取り」つまり〈やり方〉です。

自治体営業でよくあるケースですが、こちらの提案を担当者が大いに気に入ってくれたものの、「予算がない」と言われて行き詰まってしまう。「予算がない」は常套文句ですが、断りの方便というだけではなく、実は適切な回答でもあるのです。

先に述べたように役所の事業は、「今年やることは、去年」決まっています。今年度公示されている案件はすべて前年度中の予算編成の過程で執行の裏づけが取れているものです。それは、 入札やプロポーザルといった〈事業者選定〉の段階で目にする仕様書の内容や金額には、いずれどこかの事業者が出した見積りが反映しているということを意味します。この状況での参戦は、最初からハンデを背負っているようなものです。

これはしかし、逆に〈予算化〉に際し、自社の見積もりが採用されれば、戦いを優位に進められるということでもあります。"打率”を高めるためにはここが重要です。

注意したいのは、この段階では金額の多寡は問題ではないということです 。売り込みたい気持ちが強いと、つい値下げしたい気持ちにもなりますが、この時点でいくら安い金額を提示しても、逆に高い金額を出したとしても、受注と直接の関係はありません。むしろきちんと説明がつくのであれば、高い方が喜ばれることすらあります。

ここでのポイントは価格だけではない、別の差別化要因を付加することです。具体的には、提供し得るかぎりの機能やサービス、オリジナルな製品など、自社にとっての強みであり、他社にはマネの出来ない内容を見積りという見せ方で表現していきます。

事業者選定自体は公平性が大前提ですから、「だれ」という繋がりよりも、こうした「いつ」〈入札時ではなく予算時〉、「いかに」〈見積書の出し方〉の方が重要です。この段取りをサイクル化することにより、事業拡大に効く-自社の強みを活かせる、かつ収益性の高い商材、サービスの導入-官公庁・自治体ビジネスのフォーマットが整います。

※記事は執筆者個人の見解であり、パーソルキャリア株式会社の公式見解を示すものではありません。

ライター佐藤 幸俊氏

2019年3月まで株式会社サンケイリビング新聞社 ・行政協働事業部長、リビングくらしHOW研究所・地方創生研究室長を兼任。10年以上にわたり、300にのぼる自治体実績を持つ官公庁・自治体向け営業の専門家。現在は独立し、官民協働コーディネーターとして、官民双方のアドバイザーとして活動。

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