【後編】新規事業を成功に導くビジネスフレームワークとアプローチスタイルの活用ポイントと意義

新規事業

2020年07月22日(水)掲載

テーマをブラッシュアップするためのアプローチスタイル、「ロジカル・シンキング」「デザイン思考」

ここまでの過程で、仮のテーマ、つまり新規事業の方向性が定まり、さらにより具体的なアイデアにまで近づいてきています。ここでは、この「より具体的なアイデア」を”仮設“と見做して、そもそも市場/事業性はあるのか、どうすれば事業化を実現できるかを模索する検証プロセス(テーマのブラッシュアップ・プロセス)に入っていきます。

検証プロセスには、いくつかの有効なアプローチスタイルが提唱されています。みなさんも、「ロジカル・シンキング」や「デザイン思考」、また近年クローズアップされてきた「アート思考」など聞かれたことがあると思います。いずれも、“シンキング”や“思考”となっていて机上で繰り広げられる“戦略会議”を思い浮かべるかもしれません。しかし、いずれも新規事業での検証プロセスに用いる場合には、積極的な“行動“が伴います。ただし、ここでいう行動とはそれぞれのアプローチによって、意味が異なります。

「ロジカル・シンキング」の場合の行動の例は、まさにロジカルな「仮説―検証」の作業プロセスです。具体的には、ある製品を開発するにあたって、その市場性を確認するために、様々な手法で市場調査を行い、その結果を統計分析し、定量的に市場性を推定するようなプロセスです。 この場合のメリットは、ずばり定量的に表すことができる点です。定量的であることは、ビジネス社会において求められる説明責任の要ですので、説得力があります。デメリットは、人間のライフスタイルや思考は直線的な計量モデルでは推し量れないところがある点と、競合他社も同じような結論にたどり着きやすい点です。結果、どこも同じような展開になりがちで、優位性を見出しにくい点です。

次に「デザイン思考」的なアプローチは、仮説の対象となる市場などの現実の姿を徹底的に“観察”し、そこから得られた“洞察”(あるいは”気づき“)に基づき素早くプロトタイプを製作します。そして再度、市場に戻ってフィードバックを得、そこで新たに得た気づきに基づいて、さらにプロトタイプを改良、より受け入れやすい製品・サービスを模索していく、ある意味徹底した行動アプローチ手法です 。

社会科学系であるビジネスの世界は、あまりにも多くの複雑な要因が絡み合い、もつれあった生態系です。そのような生態系には、自然科学とは異なり、唯一の正しい答えなるものは存在しません。したがって、試行錯誤していく中で、あらたなものを生み出していく「デザイン思考」的なアプローチが有効となります。ここでのポイントは、「いかに競合他社より速く、より多くの小さな失敗を繰り返すか」、という言葉で表されます。つまり成功は失敗の積み重ねの上に連なる、という経験則が背景にあります。また、近年提唱されはじめている、成功する起業家の行動・思考様式から生まれた「エフェクチュエーション理論」と通ずるものがあります。

しかしながら、ポイントであった”早さ“は逆にデメリットともなります。つまり、すでに目に見えている、あるいは観察することで気づける具体的な課題の解決には大きな効果が期待できるものの、まだ誰も気づいていない、目にすることのできない課題発見型のテーマには不適だといわれています。課題解決型、いわゆる”ソリューション“型のテーマに向いているアプローチと言えます。

イノベーション創出において重要になりつつある「アート思考」的アプローチ

今、どの企業や政府においても“イノベーション”や“革新”という言葉が多用され、本来の意味が薄れてきてしまっているのではないかと思います。し かしながら、本来の”イノベーション“は、まだ誰も気づいていない課題発見型のテーマによって生まれる技術・製品・サービスであるはずです。この課題発見型、あるいは本来のイノベーションは、今の時代、特にイノベーションが生まれにくいといわれる日本において、最も望まれている事業開発の分野であることはみなさんも同意いただけると思います。

ここで登場するのが、「アート思考」的なアプローチです。「ロジカル・シンキング」や「デザイン思考」的アプローチと大きく異なるのは、対外的に積極的に働きかけることではなく、自分の内側を徹底的に見つめるプロセスと、その中で醸成される無意識の働きによるところが大きい点です。さらに、自分の内側には、無意識の思考の“触媒”となる、さまざまな人生経験、知識や教養、趣味、美的センスなどの、とらえどころのない“糧”が必要となります。このため、ハードルが高く感じられ、自分には無理と思われる方も多いかもしれません。

あるいは、内面を見つめるためには、たとえば禅の修行をすればよいのではないか、と思われた方もおられるでしょう。実際、世界の多くのエリートビジネスマンがなぜ昔から禅や瞑想を実践し、近年ではマインドフルネスを積極的に取り入れているのかという話題とつながってはきますが、ここではイノベーションの創出に限定します。

その場合、やはりここでも”たたき台“の無いところには、めったにイノベーションにつながるひらめきは生まれてこないでしょう。ただし、具体的なテーマがあった上で、徹底的に内面を見つめるプロセスには効果があると思います。実際に、このような形で新規事業を生み出していくプロセスを取り入れている先進的な企業もあります。

さて、ではどのようにすれば、一般的な企業において「アート思考」をイノベーションの創出につなげていけるのでしょうか。

実は、それは瞑想やマインドフルネスの実践ではありません。

「アート」には、もう一つ鑑賞という側面があり、そこで行われる思考と行動を活用することができます。たとえば絵画であれば、実際にその絵画をじっくりと見て、気づいたこと、そこから湧いて出た感情を“言葉で表現してみる”という行いです。実際に、みなさんも試していただきたいのですが、言語化することで今まで見えていなかった形や、色の微妙な配分、筆遣いやデザイン構成が浮かび上がってきます。そして、ある程度の時間をかけてこの作業をしてみた後、どのような感情が湧きおこってくるか、またそれも言葉にしてみてください。恐らく、絵画を鑑賞したという実感、すっきりした気持ちや満足感などを感じられるのではないでしょうか。

ここでのポイントは「言語化」です。「言語化」してみることで、はじめて今まで視界に入っていても見えていなかったものが意識に上ってきます。つまり、“気づかなかったことに気づくことができる”のです。そして、次に鑑賞する対象をみなさんの新規事業テーマにあてはめてみましょう。たとえば、「デザイン思考」的なアプローチを取り入れているのであれば、観察した事象とそこで感じた気持ちや心の動きなども徹底して言語化し、記録し、チームで共有するのです。このようにすることで、今まで気づかなかった新たな切り口や今までうまく表現できなかった自分の心の中のひっかかりや、こだわり、好き・嫌いといった微妙な現象のグラデーションが見えてきます。こうして、「デザイン思考」的なアプローチをより深いレベルで実践することが可能になります。

また、言語化することで、はじめてチームのメンバーと正確に情報を交換することができるようになります。さらに他者の情報(アイデア)と融合したりすることで、あらたな視点や仮説にたどり着くきっかけが生まれるのです。

アプローチスタイルの融合による総合力の発揮

「ロジカル・シンキング」、「デザイン思考」、「アート思考」と3つのスタイルを見てきました。実際の活用に関して、筆者は ソリューションやイノベーションの違いにはこだわらずに、それぞれのスタイルのメリットを臨機応変に融合させていくアプローチを提唱しています。

簡単に言うと、基本のアプローチは市場との積極的なコミュニケーションに基づく「デザイン思考」的な行動アプローチを採ります。そのプロセスにおいて、「アート思考」の鑑賞者の思考・行動様式である徹底した「言語化」によって、より多くの気づきを得、同時に自己の内面との対話を実践します。そして、新規事業立上げのプロセスの要所々々で必要となる経営者や関係他部門などの説明においては、「ロジカル・シンキング」に基づく合理性のあるシナリオでプレゼンテーションを行い、事業計画書を仕上げていくというイメージです。

ここまでで、最初の段階において新規事業チームで共有した危機感と覚悟、多くの気づきや発見に裏打ちされ、かつ論理的に構成された合理性のある事業シナリオ、および自己の感情などの内面との対話から得た深い納得感が揃いました。この上に、妥当性のある収益シミュレーションを重ねることで新規事業立上げの設計図は整うことになります。

最後にお伝えしたいのが、”設計図“そのものと、そこに至る過程で作成される文書類、さまざまな関係者やチームメンバー間で交わされるコミュニケーションは、すべて「言語」に基づいているという点です。私たちの生活もビジネス活動も、国の成り立ちも、ほぼすべてが「言語」によって体系化された世界の上に成り立っています。まさに、聖書の「はじめに言葉ありき」の世界に、私たちは住み、仕事をし、新しい価値を生み出しているのです。

そのような意味で、新規事業を立ち上げることは、新たに自分たちの手で「言語による体系」をつくりあげ、新しい価値を世の中に提示することとも言えます。とても意義深い営みであると筆者は考えます。

ライターT.O氏

資源・素材業界に入社し、15年間一貫して海外事業に携わる。
事業体制確立、新規市場展開、現法経営など、本社、アジア圏、米国において様々な職務を経験。独立後は、新規事業開発コンサルタントとして、国内外市場においてのべ100件超の新規関連プロジェクト参画実績を有する。

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