【前編】新規事業を成功に導くビジネスフレームワークとアプローチスタイルの活用ポイントと意義

新規事業

2020年07月22日(水)掲載

重要性が増す新規事業開発

企業が持続的に成長していくために、今、新規事業開発の重要性はますます高まってきています。この背景には、少子高齢化による市場構成の変化がまず根底にあります。そして、指数関数的ともいえる速さで進行する技術革新、そこから派生的に生みだされる新たな可能性が、従来の“モノ”だけでなく、人々のライフスタイルや考え方、価値観までをも変えつつあることも挙げられます。まさに、この10年の間によく使われるようになった“VUCA”(Volatility 変動性、Uncertainty不確実性、Complexity複雑性、Ambiguity 曖昧性)という概念に表される社会に、今私たちは生きています。

当然ながら、企業活動においては、このように変化する社会や人々の求めるものに合わせて、製品やサービスを変え、事業を継続していかなくてはなりません。結果、製品のみならず市場や業界そのもののライフサイクルがますます短くなってきました。つまり、多くの企業において、今まで通りの製品やサービスを、今まで通りに市場に提供していくだけでは、前に進めなくなりつつあるのです。

このような背景において、近年、新規事業開発や既存事業のあらたな展開(たとえば、海外市場の開拓など)は、多くの企業にとっての重要な経営課題になってきていると思います。

一昔前までは、新規事業部門というと、稼ぎ頭の事業部門からは少し疑わしい目でみられるということもありました。筆者も会社勤めの頃に、部門名は異なりますが、仕事の内容は新規事業展開でしたので、このような環境をまさに身をもって経験してきました。ところが、このような環境の急激な変化から、多くの企業では本格的に新規事業を考えるようになり、新規事業担当者や新規事業部門に対する期待が高まってきています。その結果、既存の稼ぎ頭の部門から様々なことを言われたとしても、少なくとも経営者は、新規事業部門こそが企業の命運を左右する鍵であることは十分に分かっておられると思います。

現状を理解し、共有するための「市場ライフサイクル」

試しに、読者のみなさんの会社の各事業を、ビジネスフレームワーク(思考の枠組み)の一つである市場ライフサイクル(時間経過によって導入期、成長期、成熟期、衰退期と推移していくサイクル図))上にプロットしてみてください。業種によって、ライフサイクル(事業の寿命)の長さや形はかなり様相が異なりますが、おそらく伝統的な業種の多くが、現在、成熟期や衰退期に位置しているものと思います。

もし展開する事業がこれからも一つしかないのであれば、そのライフサイクルはそのまま企業のライフサイクル(寿命)になります。また、複数事業があるものの、すべてが成熟期後期に集まっているような場合にも、やはり要注意です。今は、売上や利益が十分に確保できていたとしても、この先にはどのような未来が待っているのか容易に想像できるはずです。その想像は、社員の皆さまにとっては、いったいこの会社で自分の将来はどのようになるのだろうという不安と自然と結びつきます。

理想は、常に新しい事業や既存事業の新規展開が模索され、ライフサイクル上の各所にバランスよく各事業が並んでいる姿です。これによって、はじめて会社が持続的に成長していく姿を、全社員が思い描くことができます。フレームワークとしては少々使い古された感のあるライフサイクルの概念も、一目で、かつ動的に状況を把握し、社内で共有する上でとても有効なツールなのです。

まずは、自社がどのような状況におかれているのか、このまま行くと将来的にどのようになるのか、できるだけ客観的に理解して危機感を感じることが、新規事創出や新規事業展開の担当者やチームにとってのスタートポイントです。 この段階を踏まえずに、たとえば会社から与えられた新規事業のテーマにいきなり取り掛かっても、往々にして説得力に欠けたプレゼンテーションに終始し、何度もやり直しの指示を受け続けることになってしまいがちです。

思考の触媒としての「成長マトリクス」

会社によっては、ある程度絞り込まれた新規テーマがはじめから与えられていることもあるでしょう。この場合は、このテーマに沿って事業化に向けた検証作業(本当に事業化できるかどうかの見極めと同時に、どのようにすれば実現できるかを模索する作業)をすすめていくのですが、中には、まったくフリーハンドで何か新しいものを考えるように言われる場合もあり、それぞれの会社によって事情が異なります。

後者の場合、何はともあれ“仮のテーマ”をみつけなくてはいけません。仮のテーマとは、平たく言えば”たたき台“のことです。また、会社からテーマが与えられている場合にも、そのテーマはやはり”たたき台“にすぎません。新規事業立ち上げのプロセスの中で、事業実現に向けてさまざまに変容していくものです。しかし、この”たたき台”としてのテーマがなければ、やみくもに環境分析(自社を取り巻く外部環境、自社リソースなどの内部環境)を行い、たとえばおなじみのSWOT(強み・弱み・機会・脅威の4象限に分類したマトリクス)の形で整理し、さらにクロスSWOT(機会・脅威と強み・弱みをクロスさせて戦略の”方向性“を導くマトリクス)を描いてみても散漫で表面的なものになりがちです。なぜなら、そこには「どうしたいのか」というシナリオが欠けているからです。

ところで、新規事業における“テーマ”とは何でしょう。会社から与えられている場合、そのテーマはおそらく具体的な場合もあるとは思いますが、多くの場合は「この方向性で考えてみてほしい」といわれることが多いのではないでしょうか。そして、“方向性”とは、新規事業の“ねらいどころ”のことです。その“ねらいどころ”を考える上において役立つビジネスフレームワークは、ここでもやはりオーソドックスな“成長マトリクス”(製品と市場、既存と新規で掛け合わせてできる4象限のマトリクス)であると筆者は考えます。

既存製品と既存市場とはつまり既存事業のことです。この現在のポジションを基点に、まずは新規市場にあたる象限にはどのような事業展開が来るのだろうと考えてみます。たとえば、既存事業をあらたに海外で展開することかもしれません。あるいは、今までとは異なる年齢層や用途(アプリケーション)の場合もあるかもしれません。

次に、既存市場を基点に、この市場(顧客ネットワーク)であらたに自社が展開できる製品・サービスは何が来るだろうかと考えてみます。その際に、自社の強みとなるリソースには何があるだろうかと合わせて考えてみましょう。たとえ今は成熟期後期に差し掛かっている事業でも、それまでに積み上げてきた無形の知見やノウハウ、あるいは権利化された特許(群)、また生産設備や試験機器などの有形資産など、まだ活用できるリソースは必ず会社の中にあるはずです。その掘り起しのために、新規事業チームで手分けして自社の関係者にインタビューしていく作業は有効です。このように、実際に手足を動かしながら考えをめぐらし、チームでブレインストーミングを繰り返していきます。

「成長マトリクス」は一見するだけでは、何か特別なものを示唆してくれるわけではありません。また、厳密に見ていくと、既存と新規の境界はそれほど明確に分かれるわけではなく、グレーゾーンがあります。しかし、ここではあまり細かくこだわるよりも、このマトリクスを思考と行動のための“触媒”として活用することに意味があります。このマトリクスを活用する本来の目的は、具体的な新規事業テーマ(方向性)を見つけることです。また副産物として、真剣に自社の成長を目指して取り組む新規事業チームの姿勢は、社内インタビューなどの積極的な行動を通して、社内に少しずつ活気をもたらしていくきっかけにもなるのです。

“仮のテーマ”をより具体化する「中心と周縁」概念

ここで、一つ留意すべきポイントは、たとえ既存製品・サービスを別の市場を目指して新たに展開するとしても、それに合わせて製品の改良や付属するモノやサービスをあらたに開発する必要性が往々にして生じます。さらに、海外展開ともなれば、ビジネスの土俵やルールそのものが大きく変わるため、もはや単なる新規市場展開という括りでは済まないほど複雑になります。したがって、単純に、新たに市場を開拓して終わりとはならないのです。その意味で、新規市場への展開とは新たな事業開発とほぼ同義です。

もし仮に、単純に横に見えている新たな市場に展開するのであれば、これは既存の事業部門の新たな営業先の開拓であり、このコラムが対象とする新規事業開発ではありません。(もちろん、これはこれで重要な事業活動ですので、その価値を低く見ているわけではなく、単に事業活動のカテゴリーが異なっているだけであるという意味です。)

そこで、次に登場する思考の“触媒”は「中心と周縁」という概念です。(あえてビジネスフレームワークとは呼ばすに“概念”としているのは、一般的にビジネス社会であまりフレームワークとして扱われていないためですが、意味するところは同じであると考えてください。)

さて、「中心」が意味するのは、会社の本業です。長年、会社を牽引し利益をもたらしてくれている既存事業です。そして、「周縁」が意味するところは、文字通り中心を取り巻く周辺の部分です。つまり、本業(既存市場・業界)ではないが、まったく関係のない分野ではなく、たとえば自社の得意な関連した技術が使えるという分野があてはまります。たとえば、自動車市場にとっての発電機市場、スーパーマーケット市場から見たドラッグストア市場など、多くの例をあげることができます。 そして、さらにその先には本業とは関連性のない広大な市場が広がっています。

次に事業リスクとの関係を見ていくと、”中心=既存”分野に近ければ近いほど、既存のビジネスインフラ(顧客、技術、製造ライン、さまざまな人脈やノウハウなど)がそのまま使え、あらたな参入リスクは小さくなります。一方で、既存分野から遠ければ遠いほど、参入リスクは大きくなります。これは容易に想像できることです。

それでは、新規事業は“中心=既存”に近い分野をねらえばよいのでしょうか。一見すると、よく知っている分野であり、既存のビジネスインフラもフル活用できそうで、リスクも少ないと考えられます。ところが、あまりに近すぎると、既存の製品・サービスと代わり映えせず、また顧客からしてみてもまったく新味がないなど、とかく自社の自己満足に陥りがちです。

また、既存の製品・サービスと、いかに異なっているかを強調する必要が生じ、新たなジャンルを創造(という自社の論理に基づく理屈付けにおいて) するためのコスト増大要因になりかねません。結果、社内的には、「既存の営業部で扱うべきテーマであり、新規事業部としてはもっと目新しい構想を期待する」となってしまいます。

次に、逆のパターンを考えてみましょう。“中心”から遠ければ遠いほど、リスクは増大しますが、既存市場の“レッドオーシャン”からは抜け出せるかもしれません。もちろん十分な見極めが必要なのですが、隣の芝生は青く見えるものです。一見、合理的かつ実証主義的なビジネスの世界でも、人間である以上、行動経済学が説く通り、それほど理性的に行動するとは限りません。今から30年ほど前のバブル期絶頂の頃、有り余る資金を使い、事業多角化の号令の元、このような新規参入がこぞって行われましたが、結果は死屍累々でした。

しかしながら、そのような“遠い”新規事業がすべてうまくいかないかというとそうでもありません。ざっと見渡しても、某大手企業をはじめとして、豊富な資金力とその市場を良く知る人材の登用、M&Aなど、精緻な事業戦略により成功している事例も多々あります。

一般的な新規事業開発においては、特にその初期の段階では予算には大きな制約があるものです。このように見ると、一般的な企業はどこをねらえばよいでしょうか。答えは、各社によって大きく異なるものの、一般的には近からず遠からず、既存のビジネスインフラをある程度活用できる範囲において、比較的遠い分野の中でテーマを設定することができるのであれば、まずはそこがねらい目であると筆者は考えています。そして、潜在的な競合他者には、あまり真似できない自社の強みが活用できるのであれば尚良しでしょう。

次のねらい目は、既存に近くても、まだ誰も気づいておらず、大きな需要が見込める分野です。たとえば、携帯からスマホへの展開(あるいは進化)が最も分かりやすい例です。もっともこのテーマは、そもそもその需要に気付かなくてはならないのと、他の参入を防ぐだけの時間と戦略が必要になるため、かなりハードルは上がりますが不可能ではありません。このため、柔軟な発想力がポイントになります。これからの時代は、積極的にこのような分野を探索すべきと筆者は考えます。

このように、思考の“触媒”としての「中心と周縁」という概念は、仮のテーマをより具体化させていくところに意味があります。また、自社のリソースやビジネスインフラをあらためて見直し、別の市場(枠組み)に当てはめてみたり、リスクとのバランスを考慮するきっかけになったり、自社や自社事業を客観的に、より大きな枠組みから視ることを通して、多くの気づきを与えるきっかけにもなるものです。

ライターT.O氏

資源・素材業界に入社し、15年間一貫して海外事業に携わる。
事業体制確立、新規市場展開、現法経営など、本社、アジア圏、米国において様々な職務を経験。独立後は、新規事業開発コンサルタントとして、国内外市場においてのべ100件超の新規関連プロジェクト参画実績を有する。

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