200社以上を変革してきた経営コンサルタントが語る
ビジョン・ミッション・バリューの重要性と浸透

2020年03月24日(火)掲載

ビジョン・経営理念とは?

キング牧師の“いつの日かジョージア州の赤土の丘で、かつての奴隷の息子たちと、かつての奴隷所有者の息子たちが兄弟として同じテーブルにつくという夢である。”これはI have a dreamの一節である(注1)。これはビジョンである。目を閉じると情景がありありと浮かぶ。ジョン・レノンのイマージンも同じだ。ビジョンというのは映画のワンシーンのようなものだ。ありたい姿を示す。そこの戦略はない。戦略で人は動かない。管理はできても、人を突き動かすのはビジョンである。本田宗一郎は述べている。“いつだって、僕らを突き動かすのは、好奇心だ。”

リーダーが示すのは戦略にあらず、ビジョンである。戦略はビジョンと現実のギャップを埋めるための手段である。さて、ビジョンは普遍的かというとそのようなこともない。中期的なものもあれば、長期的なもの、夢みたいなものもあるのだ。ビジョンを何と訳そうか、ワクワクする未来像とでもしておこう。

ビジョンに近しい用語に、フィロソフィーというものがある。経営理念、経営哲学或いは社是、社訓、社憲といってもよいだろう。時を超えた普遍的なものだ。信念や信条というものもこの範疇にいれてよいかと思う。例えば、ウォルマートは1962年にThree Basic Beliefsを設定した。Respect for the individual, Service to Our Customers, Strive for Excellence である。三井家憲(109巻)(注2)には家督相続人が守るべき行動原則が記されている。パナソニックの綱領、信条、精神(産業報国の精神、公明正大の精神など)(注3)も普遍的なものである。後述のバリューも意味するところは行動規範であるが、それとは違う。経営理念を含め根底にあるものだ。

フィロソフィー、Belief、経営理念、綱領、ビジョン(普遍ではないが)の類を“経営理念“としてまとめておこう。

ミッションと私たちの事業及び目的

ミッションを達成したらビジョンが実現する。よって、ミッションは経営理念を反映したものである。元々、ミッションというのは使節団またはキリスト教伝道を意味する。ミッションスクールはその一つである。トランスミッションといえば動力伝導装置である。ミッション・インポッシブルという映画がある。ミッションは使命である。目的といってもよいのだが、使命よりは弱い印象があるため、存在価値という方がよいだろう。“我々の事業は何か”という問いに応えるものだ。戦略の領域になるが、事業ドメイン(事業領域)というと分かり易い。

企業(組織)使命を実現するために、どの事業領域で、どのような人材で、どのような設備でというものを示したものが経営方針になる。社会に対し、この事業領域において、このような便益を提供する、よって存在価値が認められる。

ピーター・ドラッカーはミッションについては様々な著作で触れている。“効果的なリーダーシップの基礎とは、組織の使命を考え抜き、それを目に見える形で明確に定義し、確立することである。~”(注4)

バリューとは?

バリューは価値であるが、経営においては行動規範または行動指針(注5)ととらえるとよいだろう。人材の評価尺度のモデルまたは基本計として、バリューとパフォーマンスの2軸が使われる。つまり、人材マネジメントおいて、バリューは必須の概念であり、価値基準をもとに行動するという捉え方である。

ヒューレットパッカードエンタープライズ社は2015年にHP Wayを根底に新たな企業理念Our Valuesの3つを定めた。Partner:協働の力を信じ、真の信頼関係を、お客様・パートナー・仲間とともに築こう。Act:全てを絶好のチャンスにして動き続けよう。Innovate:常識の壁を超える革新、意味ある進歩を生み出していこう。これらは、私たちが掲げるミッション・ビジョン・戦略を実現していくとき、「私たちはどんなやり方でそれを成すのか」という行動規範(Way)であり、コミットメントであり、カルチャーであり、ブランドであり、差別化因子です、とある。(注6)

グーグル社には10の行動指針がある。例えば、ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる。情報のニーズはすべての国境を越える。というものだ。(注7)

ジョンソン・エンド・ジョンソン社にはOur Credoというのがある。一般的には信条と訳されている。企業活動の拠り所となる価値観を行動規範として示したものだ。今ではバリューというよりワーク・ルールといった方がsounds goodではないか。

ビジョン、ミッション、バリューを一つの文章にするならば、“バリュアブルな行動でミッションに挑戦しビジョンを実現する“である。

組織文化の形成

何故ビジョンやミッションを作成する必要があるか。答えは組織文化を形成するからだ。バリューは行動指針であるので、社員に訴えかける。そこに共感と賛同がなければ組織の求心力は失われる。ビジョンはステークホルダーに夢と期待を与える。ミッションはステークホルダーに具体性を示す。ビジョン、ミッション、バリューが示すのは組織行動である。
この3つが無ければ組織の規律と学習そして存続はない。組織は多様な課題に直面する。その際、最も力となるものが組織文化である。よって、組織文化が最高のコア・コンピタンスといってもよいだろう。

ミッション・ビジョン・バリューの作り方

考え抜くだけだ。考え抜き、実践を通じ、学習し、洗練させていくプロセスを繰り返して信念を得る。それができなければリーダーの資格はないため、やめた方がよいと私は考える。
 
敢えて伝えるならば、ブランドである。理由は、付加価値を示すものだからだ。それは価格に現れ、人々の記憶に刻み込まれるものだ。社会に貢献する、という表現では当たり前すぎて、インパクトもなければイメージさえ湧かない。

Harvard Business Schoolのブランド・エッセンスを紹介する。“我々はビジネスのやり方を根本から見直す(fundamentally review)ようなリーダーを育てる。”(注8)

どうだろうか、少しはわくわくするだろうか。何を考え、何をしなといけないのか、これで良いのか、自ら考えるだろう。近頃は働き方改革が話題であるが、向くべき方向が偏りすぎていないだろうか。

ミッション・ビジョン・バリューの浸透方法

大事なことは3つある。一つは、評価尺度にすることである。多くの組織の人事制度をみてきたが、複雑すぎる。頭に入らない。シンプルにすべきだ。バリューである行動指針(規範)をそのまま評価尺度にするとよい。仮にパフォーマンスが良くてもバリューに沿ったものでなければ意味がない。

二つ目の方法としては壁にはることだ。看板である。ビジョンやミッションの類は、ことあるごとに目にするか言葉に出すことで沁みてくる。目標管理もそうだ。半年か3か月に1回程度の振り返りで行動が変わるだろうか。記憶していないものに気づきはない。規範となるものだから常に意識できる状態であることが好ましい。
三つ目はリーダーが直接語ることである。背景にあるものも含め、直接語りかけることだ。

最後に、企業や組織の信頼性や本物性が問われている時代であることを忘れてはいけない。


(注1)「私には夢がある」C.カールソン、K.シェパード編(新教出版社)
(注2)「事例で学ぶ経営学」(白桃書房)今口忠政(著)より
(注3)パナソニック株式会社ウェブページの行動基準より
(注4)「未来企業―生き残る組織の条件」P.F. ドラッカー (著),上田 惇生 (翻訳), 田代 正美 (翻訳)
(注5)行動指針という用語もある。指針とは参考となる基本的な方針とある。規範とはドイツ語ではnormであり標準という意味があるが、行動や判断の基準となる模範という意味なので標準的な行動というニュアンスではなく、行動ルールといってよい。
(注6)HPのウェブページより
 https://h50146.www5.hpe.com/info/hr/hpe/graduates/company/our_culture/
(注7)Work Rules!: Insights from Inside Google That Will Transform How You Live and Lead 、Laszlo Bock (著)
(注8)Aaker on Branding: 20 Principles That Drive Success、 David Aaker(著)

ライターM.M氏

大手コンサルティング会社を経て米国NYにてコンサルティング会社設立。自動車、電機、精密機器、家電などのメーカーや小売、物流、製薬、IT、公益法人など幅広い業種での支援実績を有する。事業開発・組織開発・人材開発の3領域を中心に、多様な課題を解決してきた。英国国立大学大学院の特定教授。

ページTOPへ戻る