《前編》経営層が心掛けるべき4つの視点 ―コロナ禍をきっかけに激変する社会・ビジネス環境―

新規事業

2020年10月19日(月)掲載

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激変する社会・ビジネス環境

2020年は、年初から現在まで、私たちの日常はコロナ一色となり、今まで誰も経験したことのない社会環境の大きな変化の只中にいます。人との接触を制限する措置がほぼ全世界で取られたことから、それまで先進資本主義社会に生活する私たち日本人があまりにも当たり前すぎて疑問にも思わなかった、「グローバルで開かれた社会」の一角が脆くも崩れてしまいました。

グローバルで開かれた社会とは、すなわち、「人の移動」、「モノの移動」、「お金の移動」、「情報の移動」がとてもスムーズに行われていた社会です。それらのうち、もっとも直接的かつ身体的な「人の移動」が、全世界的な規模で制限されたことに、まずはすべての変化が起因します。この制限が、その他の「移動」に大きな影響を及ぼし、連鎖反応的に社会のほぼすべての分野に広がっていきました。

たとえば、人の移動の制限は、モノの輸送の制約にもつながり、結果、原料調達から製造、販売、消費さらに廃棄までを含む一連のフローを抑制し、経済活動を縮小させ、さらにお金の流れにも影響を与えるという連鎖反応です。ただし、「人の移動」以外の移動が、一概に減少方向のみの影響を受けたのではないことは、たとえば、EC(Eコマース)経由での販売・消費増、各国政府によるさまざまな金銭面での生活・企業救済策や「Go Toキャンペーン」のような景気刺激策、そしてオンラインによるコミュニケーションの増加、データセンターの負荷急増など、皆さんもすでにご存知のとおりです。

また、私たちの日常の生活にも、同様に大きな変化を及ぼしています。たとえば大都市圏在住であれば、つい昨日までは、朝早く起きて、満員電車に乗り、会社に出勤し、終業時間まで働き、さらには残業までこなして帰宅するという毎日でした。ところが、コロナ禍の影響で多くの企業で在宅ワークに切り替わり、社内外のミーティングはほぼすべてオンライン会議で行うというような毎日が、今では常態化しています。

このような環境の激変が、人間の意識や行動に影響を与えないことはあり得ません。皆さんも、昭和の時代からつい昨日まで延々と続いてきた満員電車での通勤に、「テクノロジーがこれほど進んだ現代に、なぜこの通勤形態だけは高度成長期から今までほとんど変わらなかったのだろう」と、大いに違和感を持ちはじめておられるのではないでしょうか。

第1の視点 「“マクロ環境”を俯瞰する視点」

またコロナ禍は、生活者のみならず、消費者としての私たちの意識や行動にも間違いなく大きな影響を与えています。そして、消費者の意識が変われば、当然、生産者・供給者としての企業のあり方、事業そのものにも大きな影響を与えます。

このように、まるでドミノ倒しのように、社会といった大きな枠組み(マクロ)から、私たちの日常生活のさまざまな分野(ミクロ)にまで影響が広がり、今後もさらに多方面での変化は続いていくことでしょう。その意味からすると、今このタイミングでコロナ禍による社会環境の変化を、“結果”として捉える見方は正確でないように思います。

そうではなくて、生産者・供給者である企業人として、生活者・消費者の変化に敏感に反応し、事業活動に反映していくためには、今この変化はあくまで途中経過あるいは通過点として見る、すなわち、過去から現在、そして近未来を見渡す“時間(歴史)を俯瞰する視点”が必要です。

さらにコロナ禍は、これだけ全世界的に、かつ同時期に、人類が共通した課題に取り組んだ史上稀にみる事象であることから、広く世界を見渡す視点も重要です。たとえば、米国、欧州そして中国などの生活者・消費者の意識や行動と、生産者・供給者としての企業がどのように対応しているのかを見渡してみることです。

どの国においても共通している動向は何か、異なる動きはどのようなものかについて日々接する海外関連の情報に意識を向けることで、同時代の地球上の”空間(生活空間や市場)を俯瞰する視点“をも合わせ持つことが可能になります。

これら二つの視点を融合して、特に企業経営層の皆さんにぜひ意識していただきたい第一の視点は、「“マクロ環境”を俯瞰する視点」です。

生活者・消費者としての自分自身を言語化する

ここで一度立ちどまって、生活者・消費者である自分の意識や行動がどう変わったか、ご自身に問いかけてみてください。ちなみに、この作業は自身の意識や行動、感情の「言語化」です。それらを言語化することで、今まで見えていなかったことを“見える化”し、重要な“気づき”をもたらしてくれる効果があります。(本ビジネスコラムでも以前、新規事業開発と「アート思考」との関係で、その意義とメリットをご紹介していますので、興味のある方はコラム「 【前・後編】新規事業を成功に導くビジネスフレームワークとアプローチスタイルの活用ポイントと意義」を参照ください)

さて、たとえば筆者自身でいうと、つい最近までの生活スタイルは、在宅ワークが基本でした。外出は、週に一度、都心のオフィスに郵便物を取りに行く程度でした。今年のはじめに、品切れ気味だったマスクや消毒用アルコール、手洗い用の洗剤、ペーパータオルやトイレットペーパーなどの必需品は、値段の高さに閉口しながらも早々に備蓄を済ませました。またあまり外出しないので、買い物は近所で済ませることが多くなり、その際の決済はクレジットカードやポイントなど、現金はあまり使わずにキャッシュレスでの決済が多くなっています。また、買い物の際にはかならずショッピングバッグを持参します。日常の食品は、生協などの宅配サービスを利用する機会が如実に増え、これも決済はクレジットカードで済ませます。また、外食の回数はめっきり減り、近くのレストランからのデリバリーサービスをはじめて使ってみました。

夜は、会食はほぼなくなり、自宅にいる時間が増えていますが、テレビはほとんど見ません。代わりに動画のネット配信サービスをフル活用し、海外ドラマにしっかりはまっています。在宅ワーク中には、やはり複数のネットの音楽配信サービスを活用しています。最近ではそれらにも飽き、米国や欧州のインターネットラジオにまで触手を伸ばし始めました。本については、外出したついでに近くの書店で立ち読みしながら買う、というささやかな楽しみはそのままですが、仕事でどうしても必要な図書は、迷わずに100%オンライン書店を活用しています。その際に、買うつもりのなかった本についてもECサイトのレコメンド機能に従って、一応買っておこうと購入ボタンを押すことが多いです。ちなみに、ネットで仕事関係の本を購入する時は、コストを意識して新刊ではなく古本を購入します。それからほぼ毎日、仕事終わりに気分転換を兼ねて近くのコンビニに缶ビールを1本だけ買いに行きます。

第2の視点 「生活者・消費者としての“自分自身”を意識する視点」

ここから自分自身の、いわゆる“消費者インサイト”(普段、あまり意識にのぼらないけれど確実に購買行動を左右する深層心理あるいは本音の部分)を推し量ってみると、次のようになります。

― 面倒なことは極力避けたい。
― 仕事にかかわる購買行動は効率とコストを同時に意識する。
― 自宅に居ながら完結するような高い利便性を満たすサービスは、多少高くても利用する。つまり、場合によって
は利便性がコストに優先する。
― 本屋の立ち読みや、夕方の缶ビールのように、ささやかな楽しみ(体験)のためであれば、喜んでリアルな店舗に
出かける。つまり、楽しみ(体験)は利便性に勝る。
― そもそも、自分自身や家族の安全に直接かかわることについては、コストは二の次、面倒でも調達に出かける。

これらを、何を優先するかで大まかに整理すると、筆者に関して言えば次のような不等式が成り立っているようです。

皆さんの日々の生活スタイルや消費者としての意識や行動はいかがでしょうか。コロナ禍前と比べて、何が、どのように変わってきているでしょうか。逆に、変わらない点はどのようなところでしょうか。尚、この作業は頭の中だけで行うとあまり効果がありません。ほぼ間違いなく、ただの空想で終わります。ぜひ面倒でもPCでタイプするか、紙に書くかのどちらかで実際に手を動かしながら行ってください。そして、ご自身の生活スタイルや購買行動を “言語化”し、その基になっている価値観を探ってみてください。

その価値観こそが地に足がついた、机上の論ではない「消費者インサイト」です。

これにより、市場調査やデータ分析から得られた、それ自体が特に感情を呼び覚ますことのない記号としてのインサイト情報に対して、確固とした自分の視座を持つことができます。たとえば、「日常の消費者行動に関する調査・分析」などのレポートに接したときに、自分の持っている価値観と同じであれば“共感”し、異なっていれば”違和感”を感じるはずです。大切なのは、なぜそう“感じる”のかを自分の価値観と比較することで、きちんと「言語化」、すなわち言葉で明確に説明できるかどうかなのです。これが、たとえば同じ新規製品開発プロジェクトに携わるメンバーで共有されていれば、より深い議論が可能になり、ひいては分析結果が、単なる記号(情報)を超えて、本来の意味での生き生きとした“洞察(インサイト)”に昇華していきます。

またこの作業は、新製品開発などのプロジェクト・メンバーだけが行うのではなく、企業経営者や経営層の方々にこそぜひ取り組んでいただきたいと思います。なぜなら、会社のトップは毎日の生活の中で、企業人として、つまり“生産者・供給者”としての自己アイデンティティーをまとう時間が圧倒的に長いため、ともすると、自分が“生活者”、“消費者”だという自覚を忘れて、さまざまな経営判断に携わっていることが多いからです。

つまり、会社のトップこそ、“生活者・消費者とは自分自身のことである”との視点を強く意識して持ってほしいと思います。これが、2番目の視点、「生活者・消費者としての“自分自身”を意識する視点」です。

以上のとおり、《前編》では、森を見る「”マクロ環境“を俯瞰する視点」と、木を見る「生活者・消費者としての”自分自身“を意識する視点」の両方を心掛けることの重要性について説明しました。また、後者については、具体的な手法である「言語化」の作業について、筆者自身の実例を交えてお話ししました。《後編》では、さらにこの作業を発展させ、今後の企業経営や新規事業開発の方向性を探る2つの視点をご紹介します。

執筆者T.O氏

資源・素材業界に入社、一貫して海外事業に携わる。事業体制確立、新規市場展開、現法経営等、本社、海外拠点において様々な職務を経験。独立後は新規事業開発コンサルタントとして、国内外においてのべ100件超の新規プロジェクト参画実績を有する。FBP-フォーカス・ビジネスプロデュース代表。

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