どのようなダイバーシティを持つ取締役会が企業経営に良い影響を与えうるのか~ 欧州多国籍企業7社の先進事例から「ダイバーシティ」のフレームワークを考察~

経営全般・事業承継

2019年10月02日(水)掲載

いくつかの欧米の研究を見たところ、取締役会のダイバーシティには、大きく二種類あるようです。「デモグラフィー型(性別、国籍、人種、宗教、障害の有無など)」ダイバーシティと「タスク型(経験、スキル、才能、見識、専門分野)」ダイバーシティです。

私は2019年8月に欧州へ赴き、多国籍企業(銀行、自動車、製薬企業7社) へ「どのようなダイバーシティを持つ取締役会が企業経営に良い影響を与えうるのか」をヒアリング調査しました。

その調査の結果、社内の利害関係にとらわれず、事業戦略や事業の現場に踏み込んだ監督役割を取締役一人ひとりが目指すためには、「デモグラフィー型」は所与のものとし、現在は、「タスク型」ダイバーシティが重要であることを聞き取りました。

今回のヒアリング調査の結果以外にも、「タスク型」ダイバーシティが、「デモクラフィー型」ダイバーシティよりも、企業経営に良い影響を与えることは、長年の世界各地での研究結果で指摘されているようです。

コーポレートガバナンス・コードで言及されている取締役会のダイバーシティ推進と現状について

日本における改訂コーポレートガバナンス・コード※1(2018年6月末日時点k【原則4-11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】では、
「取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである。

また、監査役には、適切 な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を有する者が選任されるべきであり、特に、財務・会計 に関する適切十分な知見を有している者が1名以上選任されるべきである。 取締役会は、取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行うことなどにより、その機能の向上を図るべきである。」と明記されました。

(※1コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~株式会社東京証券取引所https://www.jpx.co.jp/news/1020/nlsgeu000000xbfx-att/nlsgeu0000034qt1.pdf)

これを受けて、株式会社東京証券所が、上場第一部・第二部の会社(2,621社)における、コンプライ オア エクスプレイン(当事者に対し、コーポレートガバナンス・コードを遵守するか、遵守しないのであれば、その理由を説明することを求めるもの)状況を2019年1月28日付発表しています。※2

(※2改訂コーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2018年12月末日時点)速報版
株式会社東京証券取引所 https://www.fsa.go.jp/singi/follow-up/siryou/20190128/01.pdf)

それによれば、女性取締役を選任している会社は、54%です。なお、本原則をエクスプレインしている市場第一部上場会社のうち、女性取締役の選任を検討中としている会社は、約50% 、外国籍の取締役を選任している会社は、15%と発表されています。

かかる状況下、上場第一部・第二部の会社が、女性または外国籍社外取締役候補採用に積極的であるということですが、果たして、女性または外国籍、いう「デモグラフィー型」ダイバーシティ基準ありきで、社外取締役を採用することが、真に企業経営に良い影響、つまり企業価値向上につながるのでしょうか。

これについては真剣に議論する必要があります。

先に述べた通り「タスク型」ダイバーシティが、企業業績に良い営業を与える仮説が長年世界中で実証されています。その因果関係として、必要な取締役構成は、経験、スキル、才能、見識、専門性を持つ人財でパズルのように組み合わせて、補完的に議論していく過程が、企業価値向上につながることが指摘されています。

つまり、現状の日本においては、女性であったり、外国籍であったりするのはたまたま、その“属性”の人財が今まで日本企業において未活用の母集団であったため、実は掘り起こせばその会社にとって、欠けていた部分を補完的に議論できる人財がいる可能性が高いということではないでしょうか。お宝探し人財発掘とも言えます。

「タスク型」ダイバーシティ推進のメリット 

「タスク型」ダイバーシティは、経験、スキル、才能、見識、専門性が違う人財構成による議論が可能になることがメリットです。VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代において、ステークホルダー(社員、顧客、株主、社会、地球)も益々多様になってきています。

Ashby(1957)の提唱する『多様性をもって、多様性を制す。つまり多様なステークホルダーには、多様な組織をもってしか対応できない。』という理論から考えると、企業の最高決定機関であり経営責任を持つ取締役会の議論、決定までのプロセスは、より多様な見識、視点から議論が必須です。

社内の競争で勝ち抜いた取締役から構成される同質性の強い日本企業の取締役会において、「タスク型」ダイバーシティである社外取締役の役割および貢献は大きいと考えます。社内での長年の常識や力関係、しがらみにとらわれることなく、多様な見識、専門性からの意見として発信し、きちんと議論するプロセスが、企業価値向上への意思決定に欠かせません。

私事で甚だ僭越ではありますが、私の経験、スキル、見識、専門性は、日米企業における実務経験25年と、グローバルM&A戦略研究、グローバル化における人と組織のマネジメント研究と、イノベーションの創出のための企業内起業家育成ゼミを持つ大学院教授であり、一応 商学博士(慶應義塾大学)も取得しているので、専門家としての見識はあると自負しています。

たまたま、私の所与の属性として、女性であり、二人の大学生の息子の母親であり、妻ですが、女性だから、社外取締役として採用されたとは、多少の下駄は履かせてもらっているかもしれませんが、そう思わないように自ら努力しています。

今後の社外取締役活用方法について

上記に述べたように、『取締役会に多様性が必要』とステレオタイプにくくってしまうのは、あまりにも大雑把で乱暴すぎると、私は専門家として警鐘を鳴らしたいのです。

女性や外国籍の社外取締役を採用したから、これでうちの取締役会は大丈夫、では全くありません。取締役は、企業価値向上の責任を、株主から代理人として受託されており、その責務を果たす義務があります。

ですから、東証一部上場企業数社で社外取締役を仰せつかっている私としては、戦略を推進する取締役一人ひとりのスキルマトリックスを分析し、より良いバランスの取れた人財を社外取締役として置いていただきたいと強く願います。それこそが株主に対する取締役会の責任だと思うからです。


海外企業のスキルマトリックス事例 

出所:Prudential Financial, Inc. “2017 Proxy Statement”より日本総合研究所作成(2018)

※執筆者の個人的見解であり、パーソルキャリア株式会社の公式見解を示すものではありません

執筆者Y.N氏

日米企業で25年間 グローバル下での人と組織のマネジメント業務に携わる。家電量販チェーン、大手半導体メーカー、大手食品メーカーで社外取締役経験。商学博士。現在、大学院にてビジネスデザイン研究科教授。

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