新規事業推進においてM&Aを行うメリット

M&A

2019年07月08日(月)掲載

キーワード:

なぜ新規事業なのか、どの分野を選ぶべきか

 既存の自社資源だけの成長(Organic growth)には限界があり、企業として成長を継続するためには新規分野への参入は避けて通れません。またそれにより、企業組織は活性化され、新規事業の立ち上げという貴重な経験をした社員は、人として大きな成長を遂げ、それがまた会社の大きな戦力となり、会社成長のための好循環を生むこととなります。

では、企業はどのように新規分野を選ぶのでしょうか。

戦略的新規分野を選定するにあたり、王道はやはり、「自社資源の何が使えるか」ということだと思います。自社の技術(R&D及び製造)が使える分野を開拓すること、あるいは自社の販路・営業資源が使える新分野商品を開発すること、または業界的に垂直関係にあることなどが挙げられます。

例えば、下表のように技術・商品を縦軸にし、起点は自社技術、上へ行けば自社技術から離れることを意味します。同様に、横軸にマーケットを置いた場合、起点は自社マーケットであり、右へ行けば違うマーケットとなります。このように、X,Yだけでなく様々な商品の可能性をベンチマークしてみるところから始め、参入のために何が足りないかを把握するところから始めます。

 一方、自社資源と何ら関係のない分野で、いわゆる飛び地事業ではシナジーはあまり期待できず、その分野に既に先駆者がいる以上、時間ロスを埋めることはなかなか難しいと考えられます。

新事業をダイナミックに展開し、成功した事例として富士フイルム株式会社が挙げられます。写真フィルム市場が急激に縮小していく中、どのように医療機器企業への転身を図ることが出来たのか、様々なところで取り上げられていますので、一度是非ご覧になってください。
 
ただ、一つ言えることは、彼らがとった戦略は「飛び地戦略」ではなく、限りなく自社製造技術の延長や応用で新分野である医療機器、化粧品分野に挑んだということ、そして足りない技術にはどん欲にM&Aに取り組んだということです。

新規事業におけるM&Aの位置付け

 戦略的新規分野が選定され、先ず始めなければならないことが2点あります。

①その分野に自社の何が活用できるか(研究、製造、販路、物流、資金、人脈の整理)
②自社資源で足りないところを抽出


では、足りないところをどう補うか、そこで検討されるのがM&Aであり、技術導入や販売提携等のアライアンスです。あるいは必要な人材の採用、ヘッドハンティングといったこともあります。M&Aはあくまでも手段の一つであり、目的(ゴール)ではありません。目的達成のための最適手法(例えば技術導入であったり)を検討すべきと思います。

新規事業においるM&Aのメリットとは

 足りないところを補うのがM&Aの真髄と心得てください。何もないから、あるいは「隣の芝生が青く見えるから」M&Aということでは、あまりにも安直すぎ、それでは買われた会社がかわいそうです。また余程困っている会社でない限り、あまりいい加減な買い手に応じる売り手企業はないと考えた方が無難です。

足りないパーツを埋め、相手企業と共に成長を考えること、相手企業に自社資源を有効に活用してもらうこと、これこそがウィンウィンの関係であり、真のM&Aだと思います。
 
足りないところを自社開発することはとても時間がかかり、開発時間の経過と共にマーケットは既に次のステージへ向かっています。時間を買うこと、M&Aの利点はそこに尽きます。

ただ、M&Aには相手があることですから、そうそううまく行きません。その場合は、ウィンウィンのアライアンス(技術ライセンス、販売・提携、合弁会社など)を提案してみてはいかがでしょう。戦略的にウィンウィンなアライアンスであれば、相手企業も耳を傾けてくれるはずです。

新規事業におけるM&Aの活用についての注意点

 自社単独で新規事業を立ち上げた場合の成功率は約1割と言われています。一方M&Aの成功率は一般的に約3割と言われています。

新規事業が失敗したからと言って、担当者が咎められることはありません。すべてが社内経費で賄っており、大きく問題視されることもありません。しかし、M&Aの場合は、高いお金を出して買って、失敗の可能性が7割あり、またその責任は株主等に対し免れるものではありません。
 
M&Aは諸刃の剣です。うまく活用すれば、切れ味の鋭い武器にもなりますが、自らを傷つける刃物でもあります。繰り返しになりますが、M&Aはあくまで手段です。M&Aは相手企業を内包化することですからリスクも伴います。
 
可能であれば、ライセンスや合弁会社化スキームも並行して検討すべきです。最終的に内製化(M&A)がベストであることには間違いありませんが、リスクを伴う以上、技術ライセンスや合弁会社等他の手法も検討すべきかと思います。

M&Aが上手くいくには

 長くM&Aの現場を見てきましたが、案件を進めている中では、関係者全員が本当にいい組み合わせだと確信してM&A案件を進めています。しかし、結果は7割が失敗しています。
 
うまく行っているところを見ると、やはりPMI巧者がい居ることが伺えます。M&A後、いかに双方企業を統合、融合できるか。その点にかかっています。

企業はモノではありません。計算通りに行かないヒトが中心の組織体です。人を動かせる能力のある方がPMIの責任者に就くこと、そしてこちらが相手企業を活用するのではなく、相手企業に当社をうまく利用してもらうという心がけ、共に成長してゆくんだという精神で臨むこと、そのようなことが極めて重要であり、やがてそれが相手企業にも伝わり、企業融合が加速します。そのような考え方がPMI成功のベースに必要であると思います。

ライター池井 良彰氏(i-common登録顧問)

大手総合商社で海外事業の展開を経験。その後、大手BtoBプラットフォーム企業で新規事業の立ち上げや米国子会社の経営などを経験。その後、M&A仲介企業にて、、約20年間、国内外のM&A業務を経験。これら経験を活かし、企業の新規事業の立ち上げやM&Aのコンサルティングを行っている。

関連コラム