新規製品開発・新規事業⽴上げ時に強化すべき知財戦略

新規事業

2020年07月27日(月)掲載

はじめに

筆者は、上場企業2社で、研究開発活動・知的財産活動を行ってきました。特に、知的財産活動強化に取り組んだA社では、当初は年間10件程度の特許出願数から、年間300件以上の特許登録を達成しました。また、特許出願・権利化では、課題・作用効果・構成の3点セットによる特許査定率の向上に取り組み、90%を超える特許査定率を実現しました。その他、知的財産権の権利活用にも積極的に取り組み、特に模倣品対策では国内外で、交渉による解決、訴訟による解決によって、目に見える形で事業に貢献しました。 
特に、新規製品開発・新規事業⽴上げ時には知財戦略が重要になりますが、そこまで手がまわらないというケースが多いように思われ、少しでも手助けができればと思っています。

日本企業は知財戦略で遅れをとっている

2002年に「知財立国」が宣言され、2003年には「知的財産基本法」 が施行され、「知的財産戦略本部」が設けられました。しかし、この政策によって、日本企業の知財戦略が深化したのか、もしくは日本経済が活性化したかという問いかけに対しては否定的な見方が多いとお見受けします。保有する特許の件数は多いですが、事業には活かされていないという評価です。日本の電機業界の不振・衰退がその象徴とされています。
対極とされるのが、発展を続ける米国の某企業です。日本企業が事業戦略に知財を組み込まず特許出願にひたすら邁進している一方で、米国企業は事業戦略に知財がしっかり組み込まれた「オープン&クローズ戦略」により発展したとされています。
このあたりは、小川紘一著「オープン&クローズ戦略」、渋谷高弘著「IPランドスケープ経営戦略」に詳述されていますので、そちらをご覧ください。

新規事業の活発化でニーズが⾼まる「IPランドスケープ」

オープン&クローズ戦略は、自社のコア技術を秘匿または特許権などの独占的排他権を実施するクローズ・モデルの知財戦略と、自社技術等を他社に公開またはライセンスを行うオープン・モデルの知財戦略を巧みに組み合わせることで、自社利益拡大をはかるものです。標準化、無償実施によるデファクトスタンダード化、様々なライセンス手段などのオープン・モデルの知財戦略が鍵となります。
このオープン&クローズ戦略を行う上で欠かせないのが、「IPランドスケープ」です。
IPランドスケープとは、2017年4月に特許庁が公表した『知財人材スキル標準(version 2.0)』 において戦略レベルのスキルとして定義された用語で、内容としては以下の説明がなされています。

①知財情報と市場情報を統合した自社分析、競合分析、市場分析
②企業、技術ごとの知財マップ及び市場ポジションの把握
③個別技術・特許の動向把握(例:業界に大きく影響を与えうる先端的な技術の動向把握と動向に基づいた自社の研究開発戦略に対する提言等)
④自社及び競合の状況、技術・知財のライフサイクルを勘案した特許、意匠、商標、ノウハウ管理を含めた、特許戦略だけに留まらない知財ミックスパッケージ の提案(例:ある製品に対する市場でのポジションの提示、及びポジションを踏まえた出願よびライセンス戦略の提示等)
⑤知財デューデリジェンス
⑥潜在顧客の探索を実施し、自社の将来的な市場ポジションを提示する。

そのほかにも日本国内においては様々な定義が存在し混乱を招いていますが、主に「知財情報を経営戦略・事業戦略策定へ活用」や「知財を重 視した経営」の意味合いで用いられることが多くなっています。
従来から特許業界で使われてきたパテントマップが過去のデータを扱うのに対し、自社、競合他社、市場の研究開発、経営戦略等の動向及び個別特許等の技術情報を含み、自社の市場ポジションについて現状の俯瞰し将来の展望等を示すものです。経営と知財を結びつけるのが「IPランドスケープ」と言えるでしょう。
特に、市場や競合について十分な知見が社内にない、新規製品開発・新規事業⽴上げ時には、必須の取組みと言えるでしょう。

「IPランドスケープ」は、大企業だけに必要なわけではない

「IPランドスケープ」は、大企業の話であり、スタートアップ・ベンチャーとか中小企業には関係ない世界の話だよね、という声が聞こえてきます。しかし、実は、スタートアップ・ベンチャー・中小企業にこそ、「IPランドスケープ」が必要であり、活かせる場が多いのです。
「IPランドスケープ」の活用法としては、下記のことがあげられています。

①会社の将来ビジョンの策定
②M&Aや事業提携(オープン・イノベーション)の成功
③新規ビジネスの市場・情勢分析
④事業構造の大転換
⑤知財を生かした資金調達

コア技術をどのように獲得し、どのようにして持続的に発展させるか、そしてオープン領域の技術をどのように獲得し、どのようにして持続的に発展させるかという視点から見ると、①~⑤に挙げられている「IPランドスケープ」の活用法は、大企業よりも、スタートアップ・ベンチャー・中小企業にとってより重要なことがわかります。
しかし、対処できるスキルや経験をもった人があまりいないため、みすみすチャンスを逃し、失敗してしまっていることが多いのが現状です。

何から取り組むべきか

まず、知的財産部が事業の失敗を防ぐことを目的に、自社の製品やサービスが他社特許に抵触しないかどうかを調べることを主眼にしていた活動から、自社の戦略や事業を成功に導くことを目的とした知財重視の経営戦略、いわゆるIPランドスケープをめざすように変わることが必要であると私は考えます。また、自社のコア技術を創造する、乃至は強固にする方策を示し、オープン&クローズ戦略を推進することも重要です。

しかし、いきなり立派な分析結果をそろえて経営陣にプレゼンしても、うまくいくことは稀です。自社の抱える経営課題との関係が希薄なことが多いためです。どこの会社でも通用するような一般論にとどまるのではなく、経営陣が考えている自社の抱える経営課題とのかかわりで分析し、方向性を示すことが必要です。

多くの場合、経営陣と知財部の距離が遠いために、知財部が経営陣の考えている自社の抱える経営課題をうまく捉えていない、逆に言うと、経営陣が知財の力に自社課題の解決を期待していない、ことが問題と考えられます。

知財部は、経営陣と距離を近づけることを考えるべきであると思います。知財軽視の経営が、いかに問題を引き起こしているかを具体的に経営陣に示し、知財重視の経営に変わることでいかに問題を解決でき、これまでにない新たな発展の道を歩むことが可能になるかということを実感してもらうことが大切でしょう。

まとめ

新規製品開発・新規事業⽴上げ時には知財戦略が重要になります。日本企業は知財戦略で遅れをとっていますが、「オープン&クローズ戦略」、「IPランドスケープ」を取り入れることにより、事業を成功に導くことができるでしょう。知財軽視の経営が、いかに問題を引き起こしているかを具体的に経営陣に示し、知財重視の経営に変えることが重要になってきます。

ライターH.Y氏

A社で商品開発研究に従事。B社で開発部長、執行役員知的財産部長を歴任し2020年退職。B社では特許出願大幅増、90%以上の特許査定率を実現。権利活用では、国内外の模倣品対策で訴訟を含む解決を主導し事業に貢献、知的財産重視を根付かせた。現在は医学博士、知財戦略コンサルタントとして活躍中。

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