連続起業家が語る新規事業の立ち上げ方

新規事業

2019年07月08日(月)掲載

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なぜ企業は新規事業に取り組むのか

  約10年前、リーマンショックがありました。その頃は、どこの大企業も新規事業を重要戦略としていませんでした。しかし、今、多くの大企業の中期経営計画の中には、M&Aや新規事業が重要テーマの一つとされるようになりました。それはもちろん景気が良くなったことや大震災以降の大きな景気変動要因が少なかったこともあるでしょう。また、ICTの環境の変化や、少子高齢化を経営者が体感できるようになったからというのもあるでしょう。

 しかし、本質的に新規事業に取り組まなければならない理由は別にあります。それは、事業の短命化です。昔は、既存事業を続けることで企業は存続できましたが、今やデジタルが当たり前になり、一度作った事業もどんどん古くなっていきます。

 さらに、GAFAやBATHのようなデジタルに強いグローバル資本主義を是とする企業が自分たちの業界に参入してくる可能性があるかもしれません。既存事業の収益ポテンシャルがどんどん損なわれるという不安が企業の新規事業やM&A、デジタル投資などの背中を押すのでしょう。

実は新規事業に本気に取り組んでいない企業の実情

 ここからは、あくまで一般論ではなく、私の考えです。私はいくつかの企業で新規事業を立ち上げる担当をやっていました。時間にすると8年間のうちに5つの企業で様々な立場で新規事業を立ち上げました。
企業によっては、新規事業は前段で述べたようなようなロジックで仕方なく取り組むことがあるのではないでしょうか。自ら新しい市場を創ろう!という攻めの経営者よりも「ライバルにやられないようにしよう」など、保守的な思考から新規事業に取り組む経営者もいるのではないでしょうか。

「それは新しすぎて、うまくいけばこの業界にとって大きなインパクトを与えるからNG」

「既存の顧客が新しいサービスを使いすぎると、自社の売上が下がるので営業部に怒られそうだ」

「自社の事業と遠すぎる、既存事業に近くて、イメージできるものではない」

 新規事業にもデジタルにも未経験集団が一つに集まりできた新規事業開発部。設立してから1年間以上たって何も生み出せていない新規事業調整部はないでしょうか。

 私がいた会社でも「オープンイノベーション」「新規事業」を目指しつつもできていないことがありましたが、それは日本企業の多くに見られるのではないかと考えています。

新規事業で考えるべきは不確実性

企業が本気になれないのにはいくつかの理由がありますが、不確実性という言葉で説明ができるでしょう。不確実性とは、意思決定者のコントロールし得ない事象の生起の仕方にさまざまな可能性があり、さらに、いずれの事象が確実に起こるか判明しないとき、その意思決定者の不確かな気持ちを指しています。

・一つ目の不確実性は、新規事業とは、そもそもだれもやったことがないもので将来どうなるかわからないというもの。
のちに説明しますが、基本的にはトライアンドエラーによって事業が生まれてくるものですが、失敗は許容できない。

・二つ目の不確実性は、デジタル活用。
今やデジタル活用が当たり前になっていますが、次から次へと進化するデジタルの技術について理解が進まない。

・三つ目の不確実は、仕事内容。
新規事業のプロセスは、上司に報告することも重要でなければ、社内調整も必要ではありません。大事なのは、顧客と対話をすること。正しいプロセスで上司が部下をマネジメントしようとしても、新規事業に取り組む部下の動きは見えない。管理をするのが役職者の仕事であるはずなのですが、これに反してしまうのです。

新規事業の立ち上げパターン

新規事業の難易度はその不確実の種類で定義できます。不確実を生み出すのは、「時間軸の不確実」「手段の不確実性」があります。

上記のように4パターンの考え方があります。

立ち上げ方 1.(自社にとって)新しい市場機会を見つける
「現在の課題」に対して「確実性の高い実現方法」で事業を作る。

 要するに、誰かが成功した事業をまねるということです。これはベーシックな考え方です。世の中的に新しくはないけれども、自社にとっては新しい事業です。すなわち、誰かの既存事業を狙うということです。これを行うためには、しっかりライバルの分析をして、ライバルに課題を見つけて、自社ならどうやって勝つか、ということを考えます。一般的なMBAの考え方です。例えば、ライバルと考えている企業が、保険ビジネスに参入したのなら、うちもやってみよう!と思い、自社の顧客基盤があるなら、他のビジネスに参入しやすいというのがこのロジックです。

 ところが、この方法で取り組もうとすると、世の中にとって何も新しい価値を生み出していないことが往々にしてあります。企業の新規事業は9割このパターンといえるでしょう。理由は不確実性が低く、上司を説得しやすいからです。新規事業の初心者は、まずはこのパターンで新規事業開発に取り組むのをお勧めします。


立ち上げ方 2.来るべき未来の市場を狙う
「未来の課題」に対して「確実性の高い方法」で事業を作る。


 PEST分析からどんな未来がやってくるのかが想像できます。例えば、自動運転、人口不足などです。自動運転であれば確実にやってくる未来なので、そこで必要なビジネスチャンスを既存の延長戦上で考えられます。人口不足の場合は、多くの場合AIを使って業務を簡単にして労働生産性を高めようというものです。今、人手不足となっている産業から実現すればいいのです。

 一つ目の立ち上げ方に対してこちらの難しさは、「どんな世の中になるのか」結局のところわからないということです。未来の課題についてなぜ企業が参入できるのかというと、大手企業や国などの誰かのお墨付きがあるからです。

 ここまでは、いわゆる大企業の人が普通に仕事をしていて実現可能な新規事業ですが、残念ながらこのような方法では、類似性のある事業しか生まれてきません。


立ち上げ方 3.顧客起点でサービスを考える
「現在の課題」に対して、「立証されていない方法」で事業を作る。


 巷で流行っているデザイン思考による事業立ち上げがこのパターンです。よく言われているのは、自分や身近な人の課題を解決する、というスタート地点です。ざっくりした課題はありますが、顧客が使うサービスを作るのが難しいという問題があります。

 例えば、なかなか解決できない問題として、健康に興味がない人に健康になってもらうにはどうすればいいか、というものがあります。これは、医療費が今後高騰していくので、みんな健康に取り組んだ方がいい。しかし、ターゲットとする顧客は、健康意識が低く、新しいサービスを作っても興味を持たないため、興味を持ってくれたとしても長く使ってくれない、そして、お金も出したくないというものがあります。こういった課題に対して、ターゲット顧客をどのように設定するべきか、そのターゲットに対してどんなサービスを提供するべきか、そして、だれからどのようにお金をもらうのか、を設計する必要があります。

 基本的なスタンスは、顧客の課題を解決し、ビジネスの課題を解決する、という二段階のハードルがあり、課題解決に関する強い動機や熱意がなければ、到底実現できないモノです。一度立証されていれば取り組みやすいのですが、なかなか自分たちが先陣を切って取り組めない、大企業が参入するテーマではないというものです。現実的には、自分たちでは創ることができないとあきらめていて、ベンチャーの仕事だと割り切り、CVCで出資をしているのが一般的です。


立ち上げ方 4.自ら未来を描き、実現する
「未来の課題」に対して、「立証されていない方法」で事業を作る。


 この方法は最もクリエイティブであり、ハイリスク・ハイリターンといえるものです。アプローチ方法は、まだ起きていない事象から未来の課題を想像(あるいは創造)して、これまでなかった事業を作るというものです。根底にあるのは、こんな未来を創りたいという個人的な内発的動機から生まれます。

 例えば、イーロン・マスクが自動運転機能の付いたEVを地下に走らせる構想を公開しました。都市の交通渋滞を解消するためのアイデアですが、一見、実現が不可能そうに見える、夢物語のように思えます。しかしながら、そのビジョンを語ることで、コンソーシアムや仲間が集い、実現に向かって対話が進んでいくことがある。それを、未来志向(またはバックキャスティング)による事業開発といいます。

 これまでのアプローチと違うのは、目の前の課題を解決するのではなく、みんなが想像できるものでもなく、本当にこんな世界が実現したらいい、というありたい世界観=ビジョンを語ることから始めています。一企業人がこの方法で事業を提案することは難易度が高いですが、スタートアップ経営はこの方法で、新しい市場を切り開いていくことが求められています。

あなたが今すぐできることはなにか

 あなたが今、大企業の中の新規事業担当者に任命されている立場だとしたら、とてもエキサイティングだと私は思います。かつての私もそうでしたが、4つのパターンそれぞれの事業立ち上げを俯瞰的に考えられるからです。会社員のうちは、やりたい放題実験ができるはずなので、まずは、いろんなアイデアを考えてみることをおすすめします。


※記事は執筆者個人の見解であり、パーソルキャリア株式会社の公式見解を示すものではありません。

ライター久米村 隼人氏(i-common登録顧問)

大手の通信教育会社やネットリサーチ会社、大手人材関連企業や新聞社で新規事業開発を担当し、企画立案から事業化・改善までの一連のプロジェクトを推進する役割を数多く担ってきた。なかでも、起業家精神とリーダーシップを活かした「顧客起点の事業」やチームと協業しての「0→1の立ち上げ」に注力。

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