ヘルスケア(医療・健康領域)業界の市場規模やビジネスチャンスは?トレンドを一覧で紹介

研究開発

2019年06月06日(木)掲載

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これからのヘルスケア業界のトレンド

 超高齢社会を迎え、ヘルスケア・健康産業の需要はますます高まっています。今後、さまざまな業種・業態から、「ヘルスケア分野」に新規参入する企業がさらに増えていくことが見込まれます。
 今回は2章に渡り、今後のヘルスケア業界の展望について、i-commonに登録しているヘルスケア領域の専門家に取材しました。

 2章となる今回では、ヘルスケア産業の今後の具体的展望について解説します。

 ヘルスケアビジネスに限らず、産業が「動く」時に必要なことは「コト」です。「コト」を実現するために「モノ」が必要となります。当然、「モノ」があって「コト」が生じる場合もありますが、ヘルスケア産業においては、やはり「コト」が重要だと考えられます。では、この「コト」とは何か?

 その答えは、「個別化」ではないでしょうか。医療の世界でいえば、「個別化医療」です。つまり、個人個人の遺伝的特性や症状、治療ニーズに合わせた、患者さん個人向けの「テーラーメイド医療」です。

 現在、既に個別化医療は実践されており、例えば、患者さんが持つ遺伝子や遺伝子発現産物をもとに、分子標的医薬品の効果や副作用の発現を推測することが可能となっています。このための診断薬がコンパニオン診断薬です。

 次世代の個別化医療を後押しする技術は、遺伝子やゲノムの解析技術、iPS細胞をはじめとした幹細胞利用の医療技術、そして膨大な生体情報を解読、解析し、最適な医療手法を提示する人工知能(AI)技術などが挙げられます。そして、これらが複合的に利用されて威力を発揮することになります。恐らくこのような状況において、地球上の人類(いや、生命体の全て)の統合的な医療情報をおさえた者が将来のヘルスケアビジネスの主導権を握ることになるでしょう。

 加えて、近年、ロボット技術は目覚ましい発展を遂げており、3Dプリンターによる「自分だけの器官」製作も可能となってきましたが、これを制御するのは情報技術の力ですし、そこに素材力などが合わさって初めて、本当の意味での個別化力を発揮することになります。

 しかし、ヘルスケアビジネスの将来予測をする際に、技術について語ることは必要条件ではあっても十分条件を満たしていることにはなりません。なぜなら、「コト」の理解は、「ヒト」の将来を知ることによってなされるからです。

ここで、将来の社会状況などをもう一度よく考えてみましょう。


 例えば、地球規模の視点では、人口爆発により、世界的には水と食料、エネルギーが不足し、先進国と発展途上国の2極化はますます深刻になっているだろうと予想されます。先進国と発展途上国との格差拡大です。

 また、先進国内においても、国家経営が成功する国とそうでない国で大きな格差が生じ、現在とは異なる国家関係になるのではないかと予想されます。加えて先進国では、急速に少子高齢化が進むことにより、国民の医療介護費負担は今以上に重くなっているでしょう。日本はすでに医療制度が破綻寸前になっており、その他の国でも深刻な社会問題となり、未来の医療介護サービスの質は大幅に低下している可能性が高いでしょう。

 そして、これが非常に厄介ですが、AIとの共存やシンギュラリティの到来などが紙面を賑わせていますが、これらに関する新しいタイプの精神不安やストレスをいかに回避するか、ということが社会的にも大きなテーマになってくるように思います。(下図)。

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 ここから、Unmet Medical Needsは下の表のようなものではないかと考えます。まさに苦悩する人類社会を医療面で支えるための医療ニーズです。この中には、ヒトが太古の昔から叶えたいと願っている「不老不死」というニーズも含まれています。少子高齢化で苦悩するヒトも、結局は「健康を保って」できるだけ死から遠ざかりたいと思う気持ちを持ち続けることになるだろうと思います。

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 このようなUnmet Medical Needsに対するアウトプット(ソリューション)を想定する場合、例えば、病態解明や制御といった面でみた場合は、以下のような将来予測が考えられます。

●がん発生や転移のメカニズムは80%程度理解されているかもしれない。
●免疫系の機能は個人の細胞レベルでの解明がほぼ終わっているかもしれない。
●脳の機能のかなりの部分、神経回路構成、連携などはすでに解明されている可能性が高く、この成果を利用したブレインマシンインタフェースはすでに開発されており、認知症、脳疾患患者への適用はもとより、医療、産業分野の機器制御にも広く応用されているかもしれない。
●思考力、記憶力の衰え、精神の不安定を抑制する手段が見出されているかもしれない。
●老化のメカニズムの一端が見えている可能性が高い。しかし、老化抑制はまだ難しいと考えられる。

一方、医療診断の視点での10年後の予測は以下のようになります。

●免疫機能の個別理解(例えばレパトア)が進み、ゲノム情報の利用とも組み合わされることで、発症を抑制する予防中心の医療体系に変わっているかもしれない。
●高感度なシングルセル・ライブイメージングが実用化されており、画像診断からバイオイメージングまで広く活用されているかもしれない。
●迅速診断による随時健康診断とPHR管理が一般的になっている可能性が高い。医療(ゲノム)情報のポータビリティー化はすでに実現しているかもしれない。

次に、治療の視点では以下のように考えられます。

●ゲノム、エピゲノム編集による希少難治疾病の治療が開始されているかもしれない。また、単一遺伝子性疾患については遺伝子治療が開始されているかもしれない。
●画像診断のAI化がますます進み、即時診断と治療のロボット技術、マイクロマシン、ブレインマシンインターフェースなどと組み合わされた低侵襲治療が実用化されているかもしれない。
●コンビネーションプロダクトの幅が広くなっており、医療機器と医薬品、再生医療製品は相互乗り入れすることが当然となっているかもしれない。
●細胞による移植医療が実用化されている可能性が高い。神経再生も本格的に行われている可能性が高い。
●がんの転移阻止は現実的なものになっている可能性が高いが、がんワクチン療法は一部の適用に留まっていると予想される。
●DDS技術が進歩し、ナノキャリアシステムが実用化されている可能性が高い。
●インフルエンザワクチンはユニバーサルワクチンを数回打つだけのものになっているかもしれない。

最後に、医療のシステムについては以下のようなものが考えられます。

●自立歩行支援ロボットをはじめ、医療、介護の世界でのロボットの役割は現在とは全く異なる水準になっている可能性が高い。
●在宅医療を含む遠隔医療システムは完全に実用化している可能性が高い。
●「いつでも、どこでも医療を受けられる」真の医療連携システムについては、2030年段階で「ようやく機能し始めている」レベルで実施されているが、さまざまな障害により、2015年の北欧諸国の水準には届いていない可能性が高い。

 このUnmet Medical Needsを満たすための医療をまとめると、以下のようなものと推測します。医療面における地球社会課題に対するソリューションという表現もできるでしょう。

●センシングデバイスを駆使した日常的PHRとゲノム情報、免疫レパトア情報を駆使した予防医学支援システムと逐次迅速検査
●ゲノム情報を始めとした生体情報を統合した薬物治療とセンシングデバイスを用いた服薬管理や効果判定モニタリング
●時間、人材、費用をかけない迅速な診断・治療の一体化システム
●血管内治療ロボットなどマイクロマシンロボット治療(AI含む)
●ブレインマシンインターフェースを利用した医療の実用化
●臓器移植医療は、再生医療とロボット技術、素材技術、AI制御技術の組み合わせで開拓。
●長期に渡り効果が持続するワクチンの開発と活用
●人手に代わる(最小限の要員とロボット、遠隔医療システムを駆使した)医療・介護施設運営


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 上述のような医療ソリューション実現を叶え、かつ患者さんに確実に届けるための「未来のヘルスケアビジネスの基本的な考え方」は上図のような形でまとめることが出来ると思います。 端的に申し上げれば、医療機関と患者さんの両方に利益を提供する、「モノ+コトのソリューションビジネス」という形態が医療サービスプロバイダーの基本的なビジネスモデルになっているように思います。従来型の単なるモノづくりだけの医療サービスや機器のプロバイダーの生き残りは大変難しいものと言わざるを得ないはずです。

 人類の未来社会を少しでも快適なものとし、生まれ落ちた生命が健やかに育ち、有意義な人生を送る楽しみを享受し、穏やかな死を迎えることができる社会の創造こそが、ヘルスケアビジネスに携わる者の使命であるに違いありません。

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