新型コロナ危機で注目されているハプティクスデバイスとは?

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2020年12月28日(月)掲載

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新型コロナの感染の要因の1つに不特定多数の人が触るタッチパネルやボタンからの接触感染があるとされている。このようなデバイスを物理的な接触を伴わずに操作できるようにする技術に注目が集まっている。その技術を使ったデバイスの1つである「ハプティクスデバイス」を紹介する。

新型コロナ危機により高まる非接触技術への注目

世界的な新型コロナの蔓延は様々な分野に影響を及ぼしている。技術に関する影響の1つに、タッチパネルなどに触れて操作をすることに対する意識の変化がある。それは、不特定多数の人が触るこのようなデバイスを仲介することが、感染が拡がる要因の1つとされているということである。今までは使いやすいと思われていたタッチインターフェイスが、今回の事態により、使いたくないインターフェイスと感じられるようになっているようだ。
この状況に対応した様々な技術は、実はかなり前から研究されていたが、スマートフォンの普及により、タッチインターフェイスという強力な手法に対する優位性が示せなかったため、注目されていたとは言い難かった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の収束が見通せない現在、今後も新型コロナウイルスのような感染症が接触によって拡がる可能性があることが理解されつつあり、接触を伴わないインターフェイスへの注目が集まってきている。

物理的なインターフェイスとタッチインターフェイス

人間がコンピュータや機械を操作することを、ユーザーインターフェイスある いはヒューマンインターフェイスと呼ぶ。そのインターフェイスはスマートフォンの登場により、登場以前と以降とでは大きな変化をもたらした。ス マートフォンの登場前はボタンやハンドル、マウスなどの物理的なインターフェイスしかなかったものが、画面をタッチするというより直感的で柔軟な方法の登場で、物理的なインターフェイスから画面を介したインターフェイスに急激に移行している。
現在でも物理的なインターフェイスは数多く使われている。使われる理由の1つに、物理的なインターフェイスを使う際に、インターフェイスそのものに目を向ける必要がないことがあげられる。これは車のハンドルを想像するとわかりやすい。一方、画面を使ったタッチインターフェイスにおいては、インターフェイスが画面上にあるため、当然ながら見ないで操作することは難しい。しかし、画面上に様々な情報を表示し、それに伴う操作を画面内で統合できる。そして、操作しなければならない対象が増えたとしても、画面に追加することは容易である。
物理的なインターフェイスとタッチインターフェイスに共通する重要なポイントは、フィードバックである。フィードバックとは利用者がインターフェイスを操作した結果を利用者に返すことである。結果の返し方は、物理的なインターフェイスの場合、振動やハンドルが重くなるというような操作感の変化、ボタンを押した感覚などの皮膚感覚が主になる。タッチインターフェイスの場合は、画面上の情報が変化するといった目からの情報が主になる。

ハプティクスデバイスとは?VR技術の1つ?

新型コロナウイルスの蔓延以前、インターフェイスといえば、物理的かタッチのいずれかで問題はなかった。しかし、新型コロナウイルスの出現により、不特定多数の人が触るインターフェイスにより感染が拡がる可能性があるとの指摘から、非接触インターフェイスへの注目が高まってきた。
非接触インターフェイスの歴史はVRやAIと同じ頃から始まっている。特にVRの場合、仮想空間内の物体を操作する場合、見た目は現実の物体であるので、当然ながら物理インターフェイスだと思って操作したいと考える。一方、仮想空間内で「物理」接触はできないため、非接触状態で接触状態を模倣しないと自然に利用するのは難しい。
それを実現する方法の1つがハプティクスである。ハプティクスとは、人が現実の物を触った際には「触った」「押したときに抵抗がある」などの皮膚感覚を再現する技術のことである。いいかえると現実にはない物体に触 れる(=フィードバックがある)ようにする技術である。
ハプティクスは、コンピュータの利用が一般的になる以前から研究されていたが、VRにおいては操作パッドに振動を加えるといった初歩的なものから、現在では操作グローブの指の位置をリアルタイムで認識し、物体の形状や表面のざらざら感を再現するものもある。これらの機器を装着するタイプ以外に、非装着型のハプティクスデバイスも開発されている。
空中結像ディスプレイと超音波を使い空中にあるボタンを操作した際に、そこに何かがあるようなフィードバックを与えるものや、レーザーを使い空気をプラズマ化することで、本当に触れる物体を作り出す技術も研究されている。

ハプティクスデバイスのこれから

未来的な感じがするハプティクスデバイスだが、新型コロナウイルス蔓延以前は、ビジネスとして成功しているとは言い難かった。その一番の理由がスマートフォンだと考える。画面を触って操作することが常識になっている状況で、画面に触れなくてもいいということに対する一般的なメリットはなかった。
しかし、新型コロナウイルスの蔓延により、特に不特定多数の人が利用するシーンにおいて、接触感染を減らす方法の1つとして、非接触インターフェイスが注目されてきた。それと共にハプティクスデバイスへの注目も増している。
ハプティクスデバイスを含む非接触デバイスの普及により、新型コロナウイルスへの接触リスクを減らすことができる可能性は少なくないため、その導入は加速することは間違いないと考えられるだろう。
しかし、現在導入されている非接触デバイスの使われ方を検討すると、ある問題が浮かび上がる。それは、非接触デバイスは、タッチデバイスに比べてフィードバックがないため、利用者が必ずしも使いやすいとは感じていないということである。
非接触デバイスとハプティクスデバイスの違いは、フィードバックの方法の差にある。多くの非接触デバイスは、赤外線やカメラを使い、指などの位置を検出して画面操作が行える。しかし、これらの殆どは、皮膚感覚フィードバック(ハプティクス)がない。タッチパネルであれば、画面を触ることが1つの皮膚感覚フィードバックになるが、単なる非接触デバイスだと、画面上のカーソルなどの視覚情報のフィードバックしかないことが使いにくいと思わせると推測できる。対して、ハプティクスデバイスでは、接触しない状態で皮膚感覚フィードバックがあるため、使いやすさを大きく改善できる可能性がある。
課題としてあげられるのは、ハプティクスデバイスの量産化にある。最も望ましいのは、スマートフォンやタッチパネルがハプティクスを内蔵することである。画面から数センチ程度離れた状態でもタッチやフリックができ、指に何らかのフィードバックがあるようになれば望ましい。技術的には指のセンシング機能は既に開発されているものもあるが、フィードバックに関しては、音波やレーザー、空気などが研究されているものの、まだスマートフォンに組み込めるほどの汎用的に利用できるレベルには達していない。しかし、マーケットがそれを望むことで、研究開発が飛躍的に進むことは十分に考えられるため、近日中にそのような部品がリリースされることも容易に想像できる。

まとめ

タッチパネルでさえ、登場当時はどのように触っていいのかと戸惑っていたことを思い出す。タッチパネルの精度が上がり、画面に触れて操作することに抵抗がなくなった現在だが、ハプティクスデバイスが普及することにより、触ることから触らなくても操作ができることが当たり前になる時代が来る可能性は大いにあると考える。

執筆者T.K氏

UNIX系の開発からキャリアをスタートし、パソコン向けの製品開発、海外製品のローカライズ、セールスパートナー戦略策定、知財管理、エンジニア教育を担当。
独立後はWeb、スマートフォンアプリの開発をメインとして活動していたが、近年は開発コンサルタント、試作サポートをメインとしている。

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