日米対比による日本の製造業におけるDX戦略の方向性

システム

2020年07月03日(金)掲載

はじめに

私は、長年外資系の多国籍企業(米国に本社を持つ製造業界の企業)で社内ITシステムの開発に携わっていました。この時の経験により、日本企業、特に製造業における近年のDX(デジタルトランスフォーメーション、以下DX)についての課題を米国との比較で明確にして、DX戦略の方向性を提示させていただきます。

DX化ステージ

2003年の経済産業省情報技術と経済戦略会議<提言>によると、企業のIT化ステージは4つに分類されています。

➢ステージ1 IT不良資産化企業群 15.1%
ITを導入しても十分活用できていない企業
➢ステージ2 部門内最適化企業群 58.8%
ITの活用により部門内最適化を実現して、特定業務の改善を行っている企業
➢ステージ3 組織全体最適化企業群 21.6%
経営と直結したIT活用により企業組織全体の最適化を実現して、経営管理やビジネスに対して高付加価値化を行っている企業
➢ステージ4 共同体最適企業群 4.5%
IT活用によりバリューチェーンを構成するエコシステムの最適化を行っている企業

当時、約75%の日本企業が、経営と連携しておらず、単純にITシステム導入を目的としたステージ1、2でした。一方、米国では、約60%がステージ3以上であり、当時、このような日本企業におけるIT化が課題となっていました。この分類方法とそれぞれの分類での企業比率は、DXが求められている2020年の現在でも、課題解決は多くの企業では成されておらず、ほぼ当てはまっていると思います。

ここでDXの定義として、経済産業省は、
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

と定義しています。

これは、ステージ4 共同体最適企業群と同様な定義と云えます。2003年当時課題になっていた企業のITステージが、現在は、DXと言う言葉に替えられています。つまり、約20年間日本企業のDXステージは進化していないと思われます。
図1と図2は、当時、今で言うDXの定義に従ってITシステム構築を行った外資系製造企業の事例です。この企業では工場のことを“Make”と呼んでいました。経営方針として”One Make”つまり、“世界中の工場を一つにする”ことを目指していました。IT部門はこの方針に従って、図1(Before)に示すように世界中の工場で独自に開発して導入した、受発注システム、ロジスティクスシステムなど、全てをあるITベンダーのERP(Enterprise Resources Planning)に統合しました。しかしながら、ものづくり企業なので、他社との差別化を行うために、世界中の工場で独自に開発されたMES(Manufacturing Execution System)のベンチマーキングを行い、良い所を集約したMESを新たに開発しました(図1After)。

図1 全体最適化されたエコシステム:筆者作成
図2 ある外資系の多国籍製造業のDX導入事例:筆者作成

これにより図2に示すように、世界中の工場および協力会社もITで連携したエコシステムが完成して、仮想的にOne Makeを構築しました。

このDXの成果として、サプライチェーンが連携することにより、ムリ、ムダがなくなり、工場一つに相当する生産キャパシティーのアップを達成しました。さらに、その他のメリットとして次の事項が挙げられます。
■世界中で業務処理形態が標準化。これにより、全世界のある総務事務は、東南アジアのある工場へ統合。
■各種デ-タ(顧客、需要、受注残、製品、生産キャパシティー等)全てが一元管理され、リアルタイムで、世界中の工場のKPI(Key Performance Indicator)などの経営指標が表示され、経営トップ層はリアルタイムにアクションが可能となった。
■一元された情報を基に現状で最も早い出荷予定日がリアルタイムに割付。これにより、在庫およびサイクルタイムが激減。
■インタ-ネット経由のWebアクセスでの見積書など即時処理が可能となった。
■オンライン リポ-ト機能の強化。ぺ-パ-レス促進。
■物流拠点統合による在庫低減と倉庫資産削減。
■その他

このように、この企業はDXによりビジネス環境、経済環境などが変化しても常に競争優位性を現在でも示しています。

IT部門の課題

日本では、過去から問題視されていたITのステージ度合いが、なぜ進化しなかったのか、当時約60%がステージ3以上であった米国との対比で、その課題と理由を述べます。

■CIO(Chief Information Officer)不在
米国では、経営トップ層はCIOに対してビジネスプロセスの改善、顧客を獲得し、維持すること、さらに新製品またはサービス(革新的な)を生み出すことを求めています。一見するとこれらは、営業やR&D部門の役割のように思えますがCIOの責務です。
米国企業のCIOの役割として、次の項目が求められます。
➢経営・事業戦略との連携
➢戦略部門としての位置づけ
➢業務プロセスの改革(BPR: Business Process Reengineering)
➢ベンチマーク手法やBPS(Best Practice Sharing )による業務の標準化
➢その他
一方、日本では、経営トップ層はITをPCのような単なるツールとして考えている傾向があるので、CIOの必要性を感じている人は少ないです。特に、中堅以下の企業では、ITシステムの規模が小さいので、CIOは不要としています。よって、CIOによる経営方針と連携したIT投資やITを活用したビジネスイノベーションを立案・遂行することが難しくなっているのです。

■部分最適化と組織の壁
米国では、自社のIT部門がCIOのIT戦略に基づいて社内ITシステムの開発・導入を行っています。例えば、私の前職の会社では、世界中に約1000名のIT要員を持っていました。ITシステム開発プロジェクトは、国家間をまたいだ組織横断的なチームを構築して、世界中の工場のITシステムは全て同じものを導入していました 。つまり、この企業の観点からは全体最適化されたITシステムになっているのです。
一方、日本の大企業では社内のIT部門は分社化されて、幾つかのITベンダーとなり、さらに、社内のIT部門は、リストラされて縮小し、特定の業務やITシステム開発をITベンダーへ委託しています。これにより、例えば、単一の工場や事業部では、IT化が進んでいますが、別の工場や事業部では、別のITベンダーへ委託しているので、経営トップ層の観点から見ると、部分最適化された重複したIT投資になっています。この要因として、組織横断的なITシステム開発・導入を行うための、各工場間や事業部間での経営の壁があります。

CIOの役割

日本企業における上記課題を解決するために、CIOの役割を下記に述べます。
■ビジネス戦略とITを連携したIT戦略立案・実行
CIOのバックグラウンドとして、ITの専門家である必要はありません。ITシステムの専門家はテクノロジーに偏る弊害があります。ビジネス変革のキーパーソンであるべきだと私は考えています。前職ではCIOは営業部門やファイナンス部門からプロモーションされていました。
■グループ会社など全事業部に渡るIT全般統制
➢ITによる他社との戦略的差別化
➢ITによるBPM/R(Business Process Management/Reengineering)
これらにより、ムリ・ムダのない業務プロセスの標準化と改革を進める。
➢ビジネス戦略に合致したIT投資とITコスト管理
特に、ITコスト管理は、ITシステム構築に必要なハード・ソフトの導入費用から、運用後の維持費・管理費・人件費など全てを含む、TCO(Total Cost of Ownership)で考えること。
➢有効性/効率性/リスクマネジメント/セキュリティ
ITシステム検討時は、これらのアセスメントを必ず行うこと。
➢全般統括が出来る組織であればCIOと云う名称でなくても良い

ビジネス戦略・方針、全体最適化を可能とするIT組織構築

CIOを設置していない日本企業では、IT部門は、各グループ企業または事業部に設置されているので、上記で述べたIT全般統制が困難になっています。これを図3に示すようなIT組織にすると、下記の効果が期待できます。

■本社IT部門の統制力(予算、人事権、プロジェクト)が強い
■各ビジネスユニットと本社IT部門間の交流による相乗効果
■最適されたIT投資による統一されたITインフラ&システム

図3  IT全般統制が取れるIT組織:筆者作成

ビジネス戦略・方針に連携するIT戦略・方針立案は、図4に示すようなフレームワークで立案・遂行・フィードバックを行いましょう。

図4  ビジネス戦略・方針に連携するIT戦略・方針立案:筆者作成

顧客視点:ITサービスの提言

企業のIT部門の社内イメージは次のようなものが多いのではないでしょうか。
■ハード・ソフトウエア中心に物事を考える
■テクノロジー指向
■新しいITテクノロジーに直ちに着手する
■ビジネス視点ではない
このように、企業内IT部門の活動はビジネスとアラインされていません。この解決方法として図4のようなフレームワークに加え、ITメンバーの意識を社内顧客へのユーザ視点からの価値提供に替えることを提言します。図5にITサービスの概念を示します。無形要素は、外注先等の外部から調達できません。これが、ITサービスの大きな差別化要素となります。

図5  ITサービスとは:筆者作成

下記にITサービスの目的と効果を述べます。
■ビジネスニーズに即した、最適なITサービスを提供することでビジネスの成果を最大化する。テクノロジー指向からサービス指向へ。
■ITサービス提供のプロセスなどを標準化し、サービス品質の向上、ITコスト削減を実現する。セキュリティの標準化など。
■ITサービスの品質・成果を定量的に把握・管理することで、費用対効果の継続的な改善を醸成する。KPIの導入など。
■ビジネスに対する貢献を明確化することで、部員にプロフェショナル意識を醸成する。ビジネス成果のフィードバックなど。
■ITサービスの内容や制約事項などをユーザに正しく理解してもらうことで、ITサービスに対する価値観を共有する。

成功するDX導入戦略の提言

以上の課題解決、提言などを踏まえて、ものづくり企業に次のステップでのDX導入戦略を提言します。
① 中堅以上の企業であれば、グループ会社もスコープにしたCIOやCDO(Chief Digital OfficerまたはChief Data Officer)の設置。
② 経営トップ層はITを単なるツールでなく、企業戦略の一環として捉え、明確なDXビジョンの明示。
③ 全社的なIT全般統制が行えるIT部門への組織編成。
④ ITシステムの全体最適化を行うため、グループ会社も含めた全社のITインフラやERP、MESの統合。
⑤ ERP、MESの統合を行う際は、現状の業務プロセスを単にITに置き換えるのではなく、BPM/Rを行った後に導入。
⑥ 経営トップ層が示したDXビジョンに従い、図4に示したフレームワークで各ITシステムの立案・遂行・フィードバックを行う。なお、⑤と同じく、BPM/Rを行う。

これらのステップで指摘したポイントを押さえないでDX導入を行うと、目標とする成果を得ることが出来ないITステージ1の企業群となる懸念がありますので気を付けてください。

まとめ

日本企業へのDX戦略の方向性として、
■ビジネス変革のキーパーソンとなるCIOやCDO設置
■全事業部に渡るIT全般統制・全体最適化
■IT全般統制のできるIT組織構築
■ITサービスの導入
■ビジネス戦略・方針に連携するIT戦略・方針立案

以上、提案させていただきます。

参考文献
・Theam, T. C., Miyake, K., Minor, K., Maruoka, M., Watanabe, S., Angeles, E., … & Lu, L. (2006, September). Wire Bonder Mis-Process Reduction and Productivity Improvement with Full Automation System by Cross Regional Team. In 2006 IEEE International Symposium on Semiconductor Manufacturing (pp. 85-88). IEEE.
・経済産業省,「情報技術と経営戦略会議報告書」,2003 年 10 月

ライターM.K氏

九州工業大学工学部卒業後、外資系企業へ入社し、国際IT戦略構築やアジア太平洋地域工場の自動化システム統括責任者など、数々の多国籍技術チームマネジメントを歴任。その後、中小企業に転職。学位は山口大学理工学研究科博士課程後期で取得。定年後は、専門の技術経営を活かしながら活動中。

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