経営戦略としてのダイバーシティ&インクルージョン~メリットと導入ポイントの紹介

人事

2019年07月29日(月)掲載

キーワード:

ダイバーシティ&インクルージョンは、もはやNice-to-Haveではなく、経営戦略としてMust-Haveの時代を迎えます。社会はVUCA※化していると言われますがVUCAな社会では、顧客のニーズも連続的に、また予測不能なかたちで変化します。変化する顧客ニーズに対応するには、多種多様な価値観やバックグラウンドをもつ人たちを組織にひきつけ、その多様な人材を「変革と新しい価値の創造」に活かすことができる組織でしか実現できないと言えます。

※V=Volatile(不安定)、U=Uncertain(不確実)、C=Complex(複雑)、A=Ambiguous(曖昧)

ダイバーシティ&インクルージョンとは

組織は多くの人で成り立つ。人は、時として「わがまま」であり、同時に「遠慮」も「忖度」もする。ダイバーシティ&インクルージョンとは、心理的傾向として「能力・経験・志向ゆえのわがまま」をもつ人たちの多様性をひきつけ(ダイバーシティ)、「わがまま」を自由に言ってもらえる環境(インクルージョン)を提供する組織作りが理想とされます。

しかし、多種多様な「わがまま」をもつ人たちを集めても、「遠慮」や「忖度」が蔓延するような組織では、好循環は得られません。多くの企業が、行動指針等で「顧客に焦点を当てる」、「顧客の立場でものを考える」といったことを掲げていますが、顧客も同じように「変革と新しい価値」を追求しています。では、企業は顧客の「変化するニーズや立場」をどのように取り込むべきでしょうか。

もし顧客の決裁者が、一流大学出身、大都市在住、高所得、男性、日本人といったセグメントだけに属するなら、日本人男性社長や男性中心の役員会への提案でも、取引傾向や記事・IRなどから「ニーズの変化」をある程度予測できるかもしれませんが、それも厳密にいえば困難です。

VUCAな社会では顧客の「意思決定」も予測不能な速さで変化します。顧客の「多様性」に応えられる組織作りが重要であり、自社内においては多種多様な「わがまま」をもつ人たちの遠慮をなくす適材適所でしか、特に変化の早い業界に属する顧客にはダイバーシティ&インクルージョンのMust-Haveでなければ、対応できない時代が来ています。

ダイバーシティ&インクルージョンを進める経営的なメリット

Mustでありながら、じつは実現できている組織は少ないため、ダイバーシティ&インクルージョンは人材活用面においても大きなプラスの効果をもたらします。人間は概して(筆者もそうですが)、単純な生きもの。

人がやる気を出すときは、どういうときだろうか。それは、自分の「わがまま」をいつでも自由に言えて、その「わがまま」を他の人が真剣に聞いてくれて、時として自分の「わがまま」が他の人に共感される、といった時ではないでしょうか。これは、幼稚園のころから変わっていない。あなたの周りの部下たちは、間違いなく、自分のアイデアやスキルの活かし方を聞いてもらいたいと思っています。

あなたが中間管理職であれば、その「わがまま」を忖度するうえで、自身の判断力を磨くには、価値観や考えが変化の早さに適合しているか意識することが欠かせません。“自らが今どうありたいか”を考え、判断・行動できるリーダーから、一人ひとりの良さや魅力が引き出され、組織の中で目の色を変えて働きだすことを想像してほしい。生産性が飛躍的に伸びることは間違いないはずです。結果として組織に対する貢献度が高まり、個人と組織が持続的に成長することになるはずです。

また、こうした組織は外部の人をひきつけ始めるでしょう。優秀な学生や能力のある社会人ほど、生産性の高い、やりがいや専門性を活かせる職場、インクルージョンな組織を求めていれば、自らリサーチして行動ができます。

最近、エンゲージメントという言葉がメディア等でよく聞かれますが、日本の企業において、働く人たちのエンゲージメントの低さが問題視されているのは、これらと無関係ではありません。エンゲージメントとは、一般に個人が組織と一体感を感じ自分の成長を組織と共有している関係性や愛着心と解釈されます。

人口が減少する日本において持続可能な事業を行うには、常に優秀な人材をひきつけ、その人材のエンゲージメントを高める必要は極めて高い。ダイバーシティ&インクルージョンは、その柱となるのではないでしょうか。

ダイバーシティ&インクルージョン推進において躓くポイントと課題

多種多様な考え方やバックグラウンドを持つ人材を企業経営に活用することは、企業が持続可能な形で、成長する上での重要な経営戦略であると多くの経営者は考えています。多くの企業経営に携わる方に話しを聞いても(特に近年においては)、異論を唱える方を見かけることはなくなりました。

一方で、多くの日本の企業において、役員や管理職は未だに、日本人の男性が大半を占めている。頭でわかっていても、行動が伴わないのでしょうか。いや、筆者の知る限りにおいては、多くの企業で社長・CEOが「ダイバーシティ&インクルージョン宣言」なるものを出していたり、女性管理職や障碍者雇用に関する数値目標を掲げていたりしています。

現状のお粗末なダイバーシティの進展度合いには、いろいろな課題はあると考えられますが、最も重要な点は、社長・CEOの発信した「ダイバーシティ&インクルージョン宣言」や多様化の数値目標の本質が中間管理職層を含めた組織すべての層に必ずしも浸透していないことがあげられます。

つまり、トップの危機感を組織全体で共有し、アクションプランに落とし込めていない状況。確かに、ダイバーシティ&インクルージョンを推進しなくても、明日の売り上げに大きな影響はないかもしれません。しかし、「今アクションを起こさなければ、数年後には社会や顧客の変化に自社が取り残されてしまうリスクが高まることを、組織全体に浸透させることが喫緊の課題」だとおっしゃる経営者に、何名も会っています。

次に実務面で、どのようにダイバーシティ&インクルージョンを進めていくかという面を考察しましょう。特に組織全体で推進する場合のカギを握るのが、中間管理職層を含めたダイバーシティ&インクルージョン文化の質の高い定着。この組織のコアである中間管理職層等の意識改革・行動変化への教育やトレーニングが、往々にして中途半端なまま放置されている事例が、じつに多いことを指摘しておきます。

今まで、主に残業もいとわない日本人男性部下を中心に組織をマネジメントしてきた同質の中間管理職層は、そもそも女性、障碍者、外国人、高齢者、LGBT、そして時間制約のある部下たちを、どのようにインクルージョンしながら育てていくのか。エンゲージメントを高めていくのかのノウハウ・ドゥハウが足りない(研修を受けていない)。部下に良かれと思った自分の判断や行動が彼ら彼女らにとっての差別・区別につながることを知らなければ、エンゲージメントを高められるはずもありません。

そして最後に、もうひとつの重要な点を指摘しておきます。経営者は、真にダイバーシティ&インクルージョンされた組織を作るには最善の策を尽くしたとしても時間がかかることを理解しておく必要があります

VUCA化した社会の中で、ダイバーシティは優秀な人材確保と活用ができる反面、個々の「わがまま」が成果を見せるまでのあつれきや摩擦も予測されます。インクルージョンはダイバーシティよりも、推進度や進捗率が目に見えにくいものです。判断するのは上司だけでなく人事部なども、さまざまな施策を考えていく必要があります。時間はかかるが、だが今できること、やるべきこともたくさんある。経営者はそう肝に銘じておく必要があります。

※記事は執筆者個人の見解であり、パーソルキャリア株式会社の公式見解を示すものではありません。

ライター福田 雄彦氏

2019年6月までプルデンシャル・ホールディング・オブ・ジャパン株式会社の取締役として、ダイバーシティ&インクルージョンを担当。現在はNPOボランティアとして、貧困家庭の子供に対する学習支援や若者の就業支援を活躍の場とする。また目黒区男女平等・共同参画審議会委員を務める。

関連コラム