カスタマーサクセスを生み出すもの

マーケティング

2020年04月15日(水)掲載

SaaSやサブスクリプションビジネスが脚光を浴びています。少ない初期投資で利用を開始でき、その利用期間に基づいて収益を得るこのビジネスでは「カスタマーサクセス」が語られるようになりました。
お客様のLoyaltyを向上して継続的に購入いただく戦略は旧来から検討されてきていますが、購入や契約がゴールではないこのビジネスでは、利用開始と同様に解約も容易であるため、より一層に【お客様を継続的に成功に導くこと】を考えていくことが必要です。今回のコラムではその思想を解説します。

企業の収益を支えるもの

「お客様第一主義」は以前から言われてきました。特に、作れば売れたバブル時代が崩壊して以降、モノ売りからコト売りへと変化を始めた時期に顕著であったと記憶しています。時には英語にして「カスタマーセントリック」や「カスタマーファースト」という表現もされてきましたが、様々に表現される言葉だけが先行してしまうと思考停止に陥ってしまうので注意が必要です。
「カスタマーサクセス」は、従来からある様々な言葉にも近いのですが、その違いは、お客様を中心に考えるだけではなく、お客様の立場で考えて「継続的に成功に導く」ということであり、「成功とは何か」と具体的に戦略を考えられるようになる点です。

お客様に継続的購入していただくためには、その時点までのお客様満足があるからです。如何にお客様を理解し満足を得るかという目標を定めてから、自社独自の価値を提供するという事業経営になります。その中心はお客様であり、お客様の立場で物事を考えなければ勝てる事業にならないということです。このように、お客様がベネフィットを享受でき、それに対する対価をいただくことを「カスタマーサクセス」という言葉に進化させてきたのだと筆者は理解しています。

カスタマーって誰?

多くの企業は『従来から市場やお客様を第一に考えている』という意味をMissionやVisionで定義しています。しかし「お客様」という言葉が競争環境の変化に伴って徐々に曖昧になってきてはいないでしょうか。私が最初にマーケティングの授業を受けた時の講師が発した言葉は、「あなたのお客様は誰ですか?」でした。あまりにシンプルかつ当たり前な質問に驚いたのですが、うまく表現できない自分に忸怩たる思いでした。
ここでは細かな解説は省きますが、常に「お客様」という言葉の定義と実際のターゲットを再確認することをお勧めします。後述しますが、社内でターゲットを共有できなければどのような戦略も機能しません。

少し話が逸れますが、生産や品質部門では「後工程はお客様」という言葉が今でも使われています。SCMバリューチェーンの各機能における次工程に「お客様」という言葉を使うことに筆者は違和感を抱いています。後工程はパートナーなのです。そこにまで「お客様」の意味を広げてしまうと本質をミスリードしてしまいます。
例えば、実際のユーザーよりも次の工程へ成果物を渡すことが目的になり、担当する部品が次の部品と如何にうまく接合するかが業務目標になってしまいます。要するに、個別最適になってしまうということです。本来ならば、一つの部品を担当するとしても、最終的に商品化されたものをユーザーがどのように使い、そこに自分が担当する部品がどのように貢献できるかを意識するべきです。常に意識すべき先は最終商品を使って対価を払っていただくお客様です。しかし、このケースでは後工程との接合品質が目標になってしまい、社内にしか目が向かなくなってしまいます。このようになると、次はそのパートナーを縛りはじめてしまうような悪循環が待ち構えています。
CRM×SCMのコラムでも述べましたが、販売側も製造側も企業として共にターゲットにするお客様を見つめることが大切であり、現在の日本企業の苦戦理由の一つではないでしょうか。

どのようにカスタマーサクセスを実現するか

収益を上げていくには、既存客のLoyaltyを向上させて継続購入していただくか、新規客のMind Shareを醸成して受注に繋げていくしかありません。

「1:5の法則」によると、そこに順序関係があることがわかります。既存のお客様のLoyal化はコスト面で優先すべき戦略であり、その既存客の成功事例によって新規客にアプローチするということになります。

既存客と新規客には、それぞれの特徴に適合する戦略が必要です。まずはSTP分析から始めますが、それを深めて「お客様は誰か」を特定しないと、何がそのお客様の成功なのかがわかりません。
その成功事例には、お客様の納得感や満足度がベースになります。その満足をどのように演出するかがビジネスとしての特徴です。満足度を図るKPIとしては、消費財なら嗜好性や所有感、生産財なら効率化やコスト削減または収益性などがありますが、それらのレベルはお客様毎様々なのでターゲティングが重要なのです。それ以外にも、共感や信頼感などの感情も伴うことを忘れてはなりません。
特に環境変化が激しいVUCAの時代、1社だけで活動することが難しくなっています。そのためお客様との共創が必要ですが、そのための信頼関係の構築はカスタマーサクセスのベースになります。

筆者が情報システムとマーケティング部門それぞれ15年ずつ以上を経験してきた中で、多くのソリューションベンダーとの付き合いがありました。ある時、大手IT会社の営業マンが一人の営業SEを伴って来社いただいたのですが、そのSEの姿勢に大いに感化されました。営業マンは、私の課題や会社方針を聞き出してベンダーのメニューへ誘導しようとするのですが、そのSEは、私の説明を聞きながらその場で考え始めるのです。結局商談の後半には「xx社のxxを使うとxxになるからその後で・・・」とそのIT会社メニューにないことを説明し始めました。そのような人となら継続的に共創をしていけそうだとの信頼を感じたのです。一方とあるパッケージIT会社は「注文をください」のオンパレードでした。この違いは大きいと感じています。

お客様を理解することから開始

上述したSTPの前提は、当然ながら市場とお客様を理解することです。
その理解にも様々な方法がありますが、既存客に対して有効なのはRFM分析とVoC分析です。特にVoCでは、以下のようなチャネルによって具体的なお客様の感情を測ることができます。

・コールセンターに寄せられる声
・webアクセス履歴とお問合せ
・営業マンのヒアリング
・展示会やセミナーでの会話や質疑応答
・ユーザー会での生の声
・各種アンケート
など。

このようなお客様理解にはテキストマイニングが非常に有効です。筆者も様々なケースで活用していますが、特に3C分析としてのお客様と市場の分析や競合分析にも効果的です。

お客様の環境は自社経営環境と同じく常に変化しています。その変化を放置してしまうと満足度がだんだんと薄らいでしまうので、プロダクトエクステンションとして常に提供価値を強化していきます。

図:筆者作成

例えば、バージョンアップで機能強化するだけでなく、対象客やポジショニングをも更新していきます。または商品のラインナップを広げてお客様に選択の可能性を提供し、その上で選ぶ行為を体験させることも有効です。

提供側としては、声の大きいお客様要望による機能改変に飛びつくのではなく、自社の強みと市場の方向性を掛け合わせてバージョンアップをしていくべきであり、商品企画の醍醐味です。この際、プロトタイピング手法での開発も効果的です。お客様との共創には欠かせないアプローチスタイルとなります。

お客様を理解することで、アップセルやクロスセルの可能性が見えてきます。自社が提供すべき価値を企画すること、及び既に使っていただいている機能向上もお客様を理解して初めて可能になります。それは正にソリューションであり、そのように事業そのものを強化しながら推進していくことこそがカスタマーサクセスなのです。

目標とするKPI

サブスクリプションビジネスは如何に継続して利用いただくか、そこがビジネスの目標になります。従って、カスタマーサクセスで目標にする指標は事業毎に様々ですが、以下の2つはその代表と言えます。
① LTV:顧客生涯価値
② 離脱または解約率
この2つはお互いに相関しており、同時に戦略策定が必要です。

LTVを高めていくためには、離脱や解約を防がねばなりません。離脱の理由にもよりますが、例えば競合に移ってしまったようなケースはその理由を解析する必要があります。また新規に受注をされたお客様には、機能アップやアップセル/クロスセルで次の可能性を提案し、関係構築から強化のフェーズへと移行していきます。受注いただいた事実は信頼関係を得られたということであり、チャンスは大いにあります。

解約率も重要な指標です。導入が容易であるように解約も容易です。その解約をゼロにはできませんが減少させる戦略は必要です。MA、webアクセス、またはSFAやVoCなどでお客様の離脱予兆をとらえることが必要です。そこには仮説検証型の分析が求められ、営業のアナログ情報とデジタルマーケティングのfactデータとの連携は重要なヒントになります。しかし、この分析をデータサイエンティストに丸投げしてしまっては、データとビジネス嗅覚の融合ができず、それだけでは解決しないので注意が必要です。

社内の課題

お客様に成功をもたらす事業活動であることを述べてきましたが、社内の反省すべき実情も散見されます。例えば、組織毎で外部環境の見方がバラバラであることや、お客様ターゲットが営業と商品企画で統一されていないなどが挙げられるでしょう。これらはマーケティング戦略としての統制が必要な理由の一つです。
このような問題は個別最適によって起こってしまうため、自社の収益計画のアピールだけの経営計画や、パートナーに歩み寄らない事業姿勢などに表れてきてしまいます。また期末の駆け込み受注作戦などもその典型と言えます。

一方、お客様接点における営業活動ではどうでしょうか。
ソリューション営業という言葉はありますが、お客様の懐に入って潜在的な課題とニーズを掘り起こして提案するのは簡単ではありません。しかし、そのような姿勢でお客様と接することがカスタマーサクセスには必要不可欠です。

図:筆者作成

「課題は何ですか?」と直接聞くのではなく、お客様の会社と市場を理解した上で小さなことでも提案しながら対話の中で潜在的課題を掘り起こしていくような姿勢が必要です。

また、営業とインサイドセールスの関係はどうでしょうか。
上述のように営業はお客様の立場で考えるために時間は無限に必要です。そのため、インサイドセールスが獲得したリードをうまく捌けるかというと下記のような問題もあります。

1. 自分が活動していた案件の優先順位を高くしたい
2.ターゲット層が違う
3.お客様の課題解決の難易度が高く、提案が困難
4.お客様のニーズが曖昧で時間が掛かる
5.デジタルマーケティングの理解が浅いため、マーケティングに協力しづらい
従って、営業に全て任せるのではなく以下のような工夫をしてマーケティング事業として取り組むようにしなければなりません。
① ナーチャリングやリード創出の仕組みをマーケティングとして全社で共有し、リードジェネレーション⇒インサイドセールス⇒フィールドセールスへと流れるフローを社内で標準化する。
② 事業としてのターゲットを統一し、チャネル毎での目標を明確にする。
③ 社内の技術部門など様々な部署の協力も得て対応するようなダイナミックなチームで活動する。
④ 社内でナレッジを共有する。
⑤ 従来の経験値に加えてfactデータを活用して戦略策定する

SFAやCRMを導入しても、データを活用するためには正確にデータが運用されなければ意味がありません。しかし、忙しい上に新たなデータ入力となると賛同を得ることが難しくなります。そのため、仕組みと同時に社内制度の見直しも重要な検討事項になります。
例えば、受注金額で評価される営業は、説明が難しい商品や契約クロージングまで時間のかかる商品を売ろうとはしなくなるため、営業評価の制度を事業目的に合わせて変更する必要があります。またデータの入力と活用に関する仕組みも同時に設定できれば、運用がされるようになっていくと期待できます。例えば営業日報などはその入力データが個人ごとにバラバラになってしまいますが、その精度を統一できるようなマスターデータやUIの工夫などが必要です。

筆者の経験でも、せっかく獲得したリードを放置されてしまったような経験があります。しかし、マーケティングとして真摯にその理由を分析しながら社内改善をしていく姿勢を貫けば、必ず理解は広がっていきます。それこそがお客様との関係構築に繋がる姿勢と同じだからです。
リードを放置してしまったその営業マンも数か月後には、提案商談への同行を依頼してくれるようにまでなりました。優秀な営業マンは必ずお客様を中心に考えているため、時間は多少要しても必ずカスタマーサクセスの本質改善に理解を示してくれます。

本当のカスタマーサクセス

以前に使われていた「囲い込み」という言葉には注意が必要です。お客様を自社顧客として留めることがカスタマーサクセスではありません。お客様の可能性を広げることに貢献していくのであり、そこには様々な環境変化への対応や、そのための知の創造をしていくことが必要です。更に、そのような貢献を継続するために、人財育成をして常に自社の成長を目指す企業姿勢が求められます。
そのようにしてお客様との共創によって未来社会が築かれ、それこそが多くの企業がMission/Visionで企業ブランドとして謳っていることであり、多くの日本人気質としての働く目的である【貢献】なのではないでしょうか。

お客様が成功を体験するための支援の積み重ねで自社の競争力が強化され、更なるお客様の成功へ支援できるようになります。カスタマーサクセスを生み出すのは自社事業を継続的に成長させる経営そのものということです。
その中心はお客様であり、カスタマーサクセスと価値提供のサイクルが回ることによってwin-winの関係が構築されるのです。このようなサイクルを確実に実行し続け、その集大成として未来社会を築いて行きましょう。

ライターH.Y氏

31年間製造業界の大手企業3社でITとマーケティングを推進。ITでは業務改革から情報システムを構築し在庫半減を実現。マーケティングでは営業と商品企画およびブラディングとしての経営計画をデータ分析の活用と共に戦略推進し、デジタルマーケティングで当時の引き合い数の10倍化に成功した実績も有り。

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