【後編】製造業におけるAI活用~失敗しない進め方~

研究開発

2019年08月27日(火)掲載

キーワード:

筆者の10年来のデータサイエンスに関わるコンサルティング活動の経験から製造現場に導入する際の特徴や注意点をご紹介します。高度な確立統計手法や深層学習などの開発を行うことなく、既存のアルゴリズムを活用することで、様々な課題を解決するまでの経緯をご紹介します。

『Big Data』、『IoT』、『AI』の活用背景

前回は用語の解釈、製造業で取り組みの際の発想転換を中心に筆者の経験をご紹介しました。今回は『Big Data』、『IoT』や『AI』に取り組めための判断や進め方についてご紹介します。

まず、『Big Data』や『IoT』に取り組むケースです。具体的には、工程内の必要な個所にセンサーを取り付け、ネットワークを組んで、データを蓄積するストレージを導入することなどです。

自社・自部門の技術力で対応可能な課題で、必要な情報がデジタル化されていれば技術的な判断が可能になるケースです。この場合、対象となる現象の理論的説明ができている必要があります。さらに、原因系と結果系の因果関係がプログラムできれば自動化も可能になります。

一方で、『AI』に取り組む状況は、技術的に説明のつかない誤差、突発現象の原因を探したり、兆候を察知する必要がある場合になります。さらに、原因が判明していても必要なデータが直接取得できず、間接的な情報で判断しなければならない状況にも適用できます。

AI活用における内部活用・外部活用

『AI』に取り組むにあたっては社内の人材を活用する場合と、外部に委託する場合があります。

社内の人材で対応すると、様々なノウハウが蓄積され、競合との差別化情報が漏洩しないメリットがあります。また、『AI』モデル構築までの経緯がわかっているので、再学習や再構築への対応も容易です。

一方で、社内の人材を育成するには、適性の評価と経験を積むための期間が必要となります。また、学習とモデル化のための試行錯誤にかかる期間が予測できないため、プロジェクト管理など従来の業務管理手法が適用できません。

外部に委託する場合、『AI』モデル構築の経験者が対応するので、育成の手間もかからず手際よく『AI』モデルが構築できる可能性があります。また契約条件次第で余分な経費支出を防ぐことも可能です。しかし、完成した『AI』モデルはブラックボックスであることが多く、たとえアルゴリズムが開示されても社内に解読できる人材が育っていないケースがほとんどです。

さらに、『AI』モデルは理論的法則の基づいたプログラムではないので、新たな現象の発生、工程の変更などに伴い再学習が必要になり、外部への依存を継続することになります。また、情報流出に関して十分な機密保持契約や、『AI』モデルの所有権、使用権に関する取り決めにも注意が必要です。

AI活用におけるベンダー選定のポイント

筆者が企業支援の際に伺った外部からの提案には二つのタイプがあります。

大手IT企業を含むIoTベンダーの提案はセンサー、ネットワークとストレージの構築が中心のようです。必要な情報が定義済で、取得したデータの使い方が明白な場合は有効です。しかし、単にデータを取ったり大量のデータを蓄えることを優先し、後で使い方を検討する場合、蓄えたデータの使い道がなく、投資の無駄遣いになるケースも散見されます。投資の前にデータの必要性、使い方の有効性を評価する必要があります。

『AI』研究者が立ち上げたベンチャーや統計ツールのベンダーの提案には、他業種や同業他社での成功事例をパッケージ化しているケースがあります。技術的に共通性の裏付けのある事例であれば、成功事例なので十分内容を検討して導入できます。

一方で、製造業では標準化や汎用化された『AI』モデルがそのまま適用できたケースは稀で、入力情報の種類や質が適合せず、設備を改修してデータを取り直したり、パッケージを一から作り直す追加費用が発生したケースがあります。

AI活用における意思決定者と現場担当者のデータの考え方

『AI』へ活動を開始する際に一番誤解されているのは、データが取れていない、電子化ができていない、精度が不十分などの理由で開始を躊躇されているケースです。

通常、投資の決定は、社内稟議で目的や投資内容、採算性が評価されるため、事前に原因、解決策と効果が予想されていることが前提になっていますが、『AI』の取り組み対象は前述のように説明のつかない現象ですから、事前に原因・対策・効果がわかるはずがありません。

トップは『ビジネスに役立つ莫大なデータを持っているはずだが活用できていない』と思っています。したがって筆者の支援経験では、しばしば、使える情報から学習を開始します。『今ある情報を使って新たな発見の可能性がある』、或いは『今ある情報ではビジネス課題の解決には不十分で、追加情報の検討が必要だ』という報告を目的とした、いわゆるスモールスタートが成功要因になります。

一方現場では、情報の活用に様々な課題を抱えています。例えば、担当者が記入した紙の日報しかない、他部署の管理する情報にアクセスできない、データベース間の連携が取れない、膨大なデータなので取り出しに時間がかかる、などです。また、工程データは有るが、製品(品番、ロットなど)との紐付けができない、品質基準(良品と不良品)が人に依存していて判定結果が安定しない、などの課題もあります。これらの悩みも実は予備分析(スモールスタート)で解決できる可能性があります。

AI活用の5つの手順

『AI』活動の開始から実装するまでの手順は、前提となる証明済みの理論や法則が無く、実際に起こっている現象から特徴を探し出すので、試行錯誤の連続です。社内活動、外部委託に関わらず、結果がいつ判明するのか事前に計画できることは稀です。時には想定より短期間で結論に至ることもあります。

一般的な進め方に関しては以下を参考にしていただきたいです。

第一段階はデータやアルゴリズムの適合性・有効性を確認します。

第二段階では構築したモデルで対象となる現象が捕捉できるか再現性を確認します。

第三段階ではモデルの精度(正答率、検出率、予測誤差など)を実用レベルにまで高めます。

第四段階では現場の日常作業に使えるように『AI』モデルをシステムに組込み作業手順を改訂します。

第五段階では、日々の運用結果と蓄積されたデータから必要に応じて再学習します。第一段階から第三段階はそれぞれ2~3ヵ月要しますし、場合によっては想定外の結果を発見して分析手順の組み直しが必要になる場合もあります。

AI活用に最低限必要な機能

『AI』の取り組みにはいくつかの必要な機能があります。まず、既存システムに蓄えられているデータや、時々刻々と集まってくるリアルタイムの情報を加工し分析データとして再構築する機能。次に、『AI』モデルを必要なタイミングで起動し判定や予測を行う機能、最後に、『AI』モデルの出力を貯えると同時に情報を発信する機能です。

情報を集め、蓄え、表示・発信する機能は従来のITと同じです。一方で、『AI』を稼働させる市販のツールには様々なタイプがあります。高度なベクトル計算に対応するプログラム言語とその下で機能する公開されているサンプルプログラム。データをセットするだけで自動的に学習し最適解を提供するツール。そして、様々なアルゴリズムのライブラリーを簡単なGUIでプログラムできるツールです。

自社で『AI』への取り組みを目指す製造業にはアルゴリズムライブラリー型のツールが適しています。なぜなら、製造業では予測結果も重要ですが、個々のサンプルデータの詳細など技術解析のための情報が必要になるケースが多いからです。さらに、学習していない現象が起きた時の再学習が容易になります。内製、外製に関わらず『AI』を導入し活用する環境の整備も並行して行う必要があります。

以上の特徴を理解し、主体的な取り組みで無駄なく効果的な導入ができるよう体制と発想を整えることをお勧めします。

※記事は執筆者個人の見解であり、パーソルキャリア株式会社の公式見解を示すものではありません。

ライター横山 道洋氏

日本アイ・ビー・エム株式会社に入社し、生産現場担当から経営改革や業務改革のマネジメントなどに従事。経営改革コンサルタントとして製造業の戦略コンサルタントを経験。2010年からデータ分析サービスを立上げ現在に至る。データ分析サービスでは20社以上で品質予測、設備保全領域でのAI導入を支援。

関連コラム