【前編】製造業におけるAI活用~求められる人材と新たな発想~

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2019年08月27日(火)掲載

筆者の10年来のデータサイエンスに関わるコンサルティング活動の経験から、製造現場にAIなどの先端技術を導入する際の特徴や注意点をご紹介します。高度な確立統計手法や深層学習などの開発を行うことなく、既存のアルゴリズムを活用することで、様々な課題を解決するまでの経緯をご紹介します。

製造業を取り巻く課題

大手、中小に関わらず技術力の高い日本の製造業は優秀な技術者や現場技能者を安定して雇用できる文化を醸成したことで、高い品質と機能・性能の製品を送り出してきました。近年これらの企業が抱える主な課題をまとめると四つに集約できると思います。

1. 市場競争で優位に立つための更なる高性能化や品質の改善
2. 収益性を高めるための歩留まり向上や設備稼働率の向上
故障予知などの設備保全、品質の突発事故の防止などが含まれます
3. 高度成長を支えた技能人材の高齢化に伴う世代交代と技術伝承
4. 海外進出に伴う文化の違いや離職率の高さを克服するための正確な技術移転

上記の課題を解決するための手段として、AIの活用を検討されている企業も多いのではないのでしょうか。では、実際にそれらのツールを導入する際の重要なポイントについて順を追ってご紹介します。

そもそもAIとは

大手から中小に至る多くの企業から機械学習や人工知能の導入に関するご相談にあずかり、最初にご説明してきたことは世の中に溢れる用語を実践的に理解していただくことです。

まず、『Big Data』は大量の情報、高速の情報、多種多様な情報に対応できる技術と理解してください。

次に『IoT』ですが、これは様々な情報をデジタル化しコンピューターで処理可能にする技術と理解してください。製造業では様々な測定器や画像情報がデジタル化され活用されています。

そして『人工知能(AI)』、『機械学習(Data Mining)』更には『深層学習(Deep Learning)』など機械学習を通して分類や判別、予測を行う技術があります。このような技術を組込んだ商品やサービスがAI-XXという名のもとで提供されています。以降『人工知能』『機械学習』『深層学習』をまとめて『AI』とさせていただきます。

『AI』に取り組んだ企業との打ち合わせでしばしば気付いたことは、従来のIT導入と同様に即効性のある解決ツールとしてカタログ機能を手に入れられると認識されていたことです。実際には、導入後に期待通りの機能が実現しなかったり、自社に固有の要件に対する業者のサポートに満足できず、投資採算が確認できないケースが散見されます。

『Big Data』『IoT』と『AI』の特徴をご理解いただき、主体的に使いこなしていただくことが筆者のこれまでのお客様へのご支援で、以下の内容は、そのために筆者が工夫してきたポイントになります。

製造業におけるAIの導入の注意点

従来の製造現場をリードしてきた機械化や自動化の発想の延長上に『Big Data』や『IoT』は当てはまりますが、製造現場への『AI』の導入には従来とは異なる発想(人材)と経営視点が必要になってきます。

まず、製造業における『Big Data』や『IoT』の導入として考えられることは、計測技術の発展で従来測定できなかった物理量が計測可能になり、画像情報も含め高速でデジタル化されることで大量の情報が処理できるようになってきたことです。これらの情報をモニター上に表示し、個別に閾値管理したり、フィードバック制御に活用することで、従来より正確で高速な工程管理が可能になってきました。

一方で、『AI』の導入対象は従来の体系化された法則では説明できず『偶然』と扱われてきた現象です。技術的に説明できない誤差、異常現象、突発事故などです。これらの『偶然』が度重なったものは、経験則として熟練技能者のノウハウに蓄積されてきました。

しかし、因果関係や法則、ルールが整理できないので文書化したり、コンピューターにプログラム化(自動化)することはできていませんでした。『AI』は度重なるこれらの『偶然』から最もあり得るパターンを探し出し、理論化するのではなく、予測モデルとして、過去と同じ状況が起きることを判定するものです。不具合条件の判別、設備異常の予知、不具合品の選別などに活用されるアプローチです。一方で、過去に発生した現象は学習して判定できますが、記録の無い現象を検知するには異なるアプローチが必要になります。

また、新しい現象が発生するとそれまでの予測モデルでは対応できなくなることがあり、再学習やモデルの再構築が必要になります。

『AI』に簡単に取り組めるように工夫されたツールが世の中には多数提供されています。しかし、これらのツールの多くは金融業や流通業など製造業以外で成功したモデルをベースにしたものが多く、製造業で必要となる技術的解析との組み合わせに対応している機能はあまり充実していないようです。

製造業以外での『AI』の取り組みは顧客情報から特徴を見つけ出し、グループ化やパターン化する要件が多く、情報の種類や構造、結果の使い方に類似性があるため、汎用化しやすいのではないかと推察します。また一旦モデル化されると、例えば顧客の行動メカニズムの解析のような理論的検討より、パターンに合ったマーケティングやロジスティクスの検討のステップが優先されているのではないでしょうか。

一方、製造業では、製品、企業、業種或いは工程によって情報の種類や蓄え方や活用目的が異なります。個々に情報を観察しモデルを構築する必要があるため、汎用化や転用が困難になります。また、現場で起こった現象の特徴や新たな因果関係が見つかるとそれを規格書や手順書に定義するため技術的な解析が必要になり、『AI』で学習した情報を取り出す作業が発生します。他のケースでモデル化に成功した事例がそのまま導入できないことが、製造業における『AI』に対する取り組みのハードルを高めることになっているようです。

AIの活用における人材育成と求められる発想

このように、『AI』への取り組みは、正解が定義されていない世界で、曖昧さの中から偏りを確率的に評価する活動なので、従来の技術者育成とは異なる発想が必要になります。

筆者の経験では、学校や企業での教育や育成の目的の多くは正しい答えを導き出すための理論、法則や手順を憶えてパターン化し、効率的に判断することではなかったかと推察します。製造業の技術者の意識は、より多くの理論知識を身に着け、観測した現象をより正確に再現する法則を選択することになっているのではないでしょうか。

企業では、多くの経験を積み、適切な理論(常識)を当てはめたり、経験則を語れる人材がリーダーになっています。しばしば障害になるのは、社内の専門家、技術者が従来の技術基盤や経験にこだわって発想の飛躍を受け入れてられないケースです。このような状況では、『AI』の特徴やアプローチを理解したトップが結果に拘らず主導するほうがうまく取り組めます。

一方で、『AI』の導入は『偶然』の特徴を探し出す活動になります。そのため、仮説を考え、結果を評価し、さらに発想を広げる柔軟な思考が要求されます。新たな事態や想定外の状況を受入れ仮説を再構築する柔軟かつ斬新な発想力の育成が重要です。

人工知能の研究ではなく『AI』を業務に活かすには、定型化された手法や決まった答え(正解と正解に至る手順)を憶える必要はありません。一人一人の着想から生まれたアイデアを社内で議論し、納得できるストーリーを創作する発想と環境が必要です。従来、優秀と評価されてきた人材の中から豊かな発想力を持った人材を発掘することが人材育成の成功要因かもしれません。


後編では、『AI』導入の判断と進め方、導入時の課題と対応、導入の手順、などについて筆者の経験をお伝えします

※記事は執筆者個人の見解であり、パーソルキャリア株式会社の公式見解を示すものではありません。

執筆者M.Y氏

外資系IT大手企業に入社し、生産現場担当から経営改革や業務改革のマネジメントなどに従事。経営改革コンサルタントとして製造業の戦略コンサルタントを経験。2010年からデータ分析サービスを立上げ現在に至る。データ分析サービスでは20社以上で品質予測、設備保全領域でのAI導入を支援。

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